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FROST/NIXON
2008年/アメリカ/122分 at:TOHOシネマズ梅田 監督: ロン・ハワード 久々に脳神経と視神経ばっちりさせて観せてくれたアメリカ映画。 先日のWBCの日本×韓国・決勝戦にも匹敵するぐらいに両陣営の動きから目が離せなかった映像。 本作を観るまでは、登場する人物がベトナム戦争時代のアメリカ大統領ニクソンで、ウォーターゲート事件によって、ブッシュがその記録を塗り替えるまでは第二次大戦後最低の不支持率を記録し、就任中に辞任した唯一のアメリカ大統領であるということも今では人々の記憶に沈んでしまっている人物で、ニクソン辞任後に行われた1977年のテレビインタビューの実録ドラマが果たして作品として生きるんだろうかと思っていたけれど……とんでもない。まさに今を語っている。 そしてロン・ハワードの無駄がなく、淀みない演出が冴えている。 このインタビューでニクソンを切り崩し、アメリカ国民が最も聞きたがっているウォーターゲート事件に対する謝罪の言葉を引き出して全米メディア進出を果たそうと野心満々のテレビ司会者デビッド・フロスト。 このインタビューでウォーターゲート事件の汚名を払拭し、政界復帰を果たそうと目論むニクソン。 後日談として、このインタビューに深く関わった関係者からのインタビューを交え、ニュース映像も効果的に取り入れ、企画のスタートからインタビュー終了までの両陣営の動きをカメラは追いかけ、ドキュメンタリータッチで描かれているけれど、サスペンスドラマを見ているような緊張感と小気味よさで、見るものを映像に引きつける。 元アメリカ大統領リチャード・ニクソン役を演じたフランク・ランジェラはアカデミーの主演男優賞にノミネートされていて、その演技が高く評価されていたのも肯けるさすがの演技。 一人の人間としての味を感じさせながらも長けた策士の顔もみせ、覆った鎧の隙間から、決して若くはない一人の初老の疲れた素顔まで、内面の動きを見事に体現していた。 フロスト役には「クィーン」でブレア首相を演じたマイケル・シーン。 人気テレビ番組の司会者の軽さを嫌味なく演じていて、インタビューが終ってから、ニクソンと素顔で対面した後の別れでは英国紳士らしい雰囲気を醸し出していた。 本作ではニクソン役のフランク・ランジェラと、フロスト役のマイケル・シーンに話題が集中しているけれど、ニクソンの腹心の部下を演じたケヴィン・ベーコンの静かな演技も捨てがたい。 関係者からの後日インタビューという形でスーツ姿で出てきたときはケヴィン・ベーコンに似てるなって思っていて、その後、軍服姿でニクソンの後ろに随うの彼を正面から観て、スクリーンに久々の登場は嬉しかった。 ケネディと大統領選を争い、僅差で破れ、その敗因はテレビ討論でのカメラ映りにあったといわれ、これ以降の選挙戦ではアメリカのみならず日本でもイメージ重視、テレビ映りを意識しての外観を意識する選挙戦が当たり前になっている。 そして本作。 映像で苦汁を味わったニクソンが、最後の4回目のインタビューの最後に、カメラが一瞬にして捉えた彼の表情が、このインタビューでのニクソンの敗北を、多くの言葉よりも雄弁に物語っている。 またしても映像によって足元を掬われるとは人生の皮肉としかい言いようがない。 ニクソンが思わず口走った「大統領が行えば総ては合法なのだ!」という言葉。 誰のための権力行使なのか? 力を持ったものが錯覚し陥る落とし穴だろう。 この一言がインタビューの勝敗を決した。 そしてこの落とし穴は映像という巨大な力を操るメディアにもまた言えることだろう。 映像で人々は瞬時に物事のイメージを焼きつけ、反応し、判断する。 映像がペン以上に雄弁に物事を語るということ。 その映像はまたそれを操るものの思惑によって、捉え方によって左右されるということ。 時には誇張され、時には矮小化され…… ロン・ハワードは関係者のインタビューという形で、映像のもつ力に警鐘を発している。 二人のトークバトルを描いた作品 原作は舞台戯曲で、2007年の舞台では主役の二人が同じ役を演じたそうだ。 ロン・ハワードが本作の映画化にあたって描こうとした狙いは、舞台では描き得ない映像の力、怖さを映像によって我々に見せつけようとしたことだったのではないだろうか。 パンフレットなどで、ヘリコプターでホワイト・ハウスを去っていくニクソン大統領の映像と、今回のオバマ大統領就任式の後ブッシュがヘリコプターで去っていく映像を重ね合わせる指摘もあり、ハワード監督も「ニクソンとブッシュの共通点を示唆することは狙いの一つだけれど、それを目的にこの映画を監督したのではない」と語っている。 お前の目の前に居るのは一流の策士なんだ! スタッフが吐いたその言葉がフロストに刃となって彼に迫ったのは最終回を控えた時だっただろう。 それまではどこかでタカを括っていたところがあったフロストが性根をいれて取り組んだ4回目。 核心のウォーターゲート事件をテーマにしたインタビュー。 光に照らされるのは一人だけ。 もう一人は闇に葬られ表舞台に浮上する機会は失われる。 両者とも生きるか死ぬかの瀬戸際で行われるた人生を賭けたバトル。 半端なサスペンスドラマよりもはるかに刺激的で、人生の悲哀と優しさを感じさせる素晴らしい人間ドラマ。
by mchouette
| 2009-04-06 00:00
| ■映画
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