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WITH OR WITHOUT YOU
1999年/イギリス・アメリカ/90分/R-15 監督: マイケル・ウィンターボトム 監督はマイケル・ウィンターボトム。 彼のフィルモグラフィーをみると、そのジャンルは社会派ドラマから音楽ムーヴィー、恋愛をテーマにしたものあり、テイストもハートフルなものからかなりシビアな作品まで実に多岐にわたっている。 2000年以降の彼の監督作品をみると…… ゴールドラッシュに沸くアメリカ西部の町を舞台に、欲望に走った人間の報いと贖罪を描いた「めぐり逢う大地」 (2000)、 パキスタンの難民キャンプで暮らす少年を主演に起用し、ロンドンまでの危険で過酷な旅を事実を基にドキュメンタリー・タッチで描いた「イン・ディス・ワールド」 (2002)、 “ファクトリー・レコード”を中心に火がついたマンチェスター・ムーヴメントと、それに携わった人々の栄光と挫折を実話に基づいて描いた音楽ムービー「24アワー・パーティ・ピープル」 (2002)。これは個人的に気に入ってる作品でもある。 高度に管理化された近未来社会を舞台に、禁断の愛を貫く男女の運命を描いた「CODE46」 (2003)、 若い男女の出会いから別れまでを、赤裸々な愛の営みと、思い出の9つの曲とともに綴った作品で、セックスシーンが物議をかもした「9 Songs ナイン・ソングス」 (2004) 、 紳士トリストラム・シャンディが自分の生涯をユーモアたっぷりに語った18世紀イギリスの小説「トリストラム・シャンディ」の映画化をめぐって21世紀の撮影現場での顛末を描いた「トリストラム・シャンディの生涯と意見」 (2005/未公開) 。本作は未公開だけどシネフィルで放映されていて、なかなかユニークで面白い作品だった。 キューバにある悪名高いアメリカ・グアンタナモ収容所の実態を描いた「グアンタナモ、僕達が見た真実」 (2006)、 共にジャーナリストとして活動し、中東取材中に夫が誘拐・殺害された事件の真相を綴った妻マリアンヌ・パールの手記『マイティ・ハート 新聞記者ダニエル・パールの勇気ある生と死』を映画化した「マイティ・ハート/愛と絆」 (2007)ジャンルこそ多岐にわたっているけれど、彼の作品には社会とそこに生きる人々を見据える視線が基点となっている。 本作は、ロンドンで暮らすごく普通のある家族一人一人の日常を描き、一人の物語が次の人の物語と繋がり、そしてどこかで絡まり影響しあっている、そんな家族の絆をありふれた日常の中で描いた「光のまち」(1999)から繋がるような、そこから一組のカップルを取り出して描いたような作品だろう。 ![]() 北アイルランドのベルファストが舞台。 結婚して5年になるロージーとヴィンセントはそれなりに幸せな毎日だったが、物足りなさを感じるのが子どもがいないこと。2人は産婦人科にも通い不妊治療を受ける。 ヴィンセントは結婚を機に警察官を辞めてロージーの父親のガラス店を手伝っていて父親からは半人前扱い。おまけに体外受精だの精子ドナーだのいわれ「男性失格」の烙印をおされたようで落ち込んでしまう。 ロージーも、休みになると昔の警察官友達と遊ぶヴィンセントに不満を持っているし、仕事場の鬼上司も気に入らず面白くない。 そんな2人の前に、ロージーが結婚前に長く文通していたフランス人のブノワがやってきた。彼と会うのは初めてだけれど、ロージーにとって文通を通してブノワは初恋の人でもあった。ロージー、ヴィンセントそしてブノワそれぞれに今の自分に欲求不満状態。三角関係ともいえるこの関係の結末は……。 原題の「With or without You」はU2の曲のタイトル。「 With or without You君がいても、いなくても」、でも「I can't live 僕は生きていけない」。作中でもこの曲の歌詞が効果的に使われている。 ストーリーだけ追うと、若い夫婦のちょっとした倦怠期の危機をコミカルな味付けで描いた物語ともいえるけれど、不妊治療や子どものいない夫婦に向けられる周囲の目や、若夫婦にもたらす影響などが案外とシビアに描かれており、また、アイルランドの複雑な社会事情にまでウィンターボトム監督はさりげないタッチでグサリ、グサリと描いていて、やはりウィンターボトム監督らしい作品だなって思える興味深い作品に仕上がっている。 ウィンターボトム監督の人間に対する信頼といったものが感じられる作品といえるかな。 アイルランドといえば、ケン・ローチの「麦の穂をゆらす風」でもわかるように南の26州は独立したアイルランド共和国、北の6州はイギリス領(=UK)と南北に分裂している。 UK領である北アイルランドは当然プロテスタント系が多数を占め、少数派のカトリック系住民と抗争が絶えずない地域でもある。 ロージーやヴィンセントが暮らすベルファストは、UK領である北アイルランドの首府。 この物語が面白いのは、描かれることがほとんどない北アイルランドのプロテスタント系家族に光をあてて描いていること。 アイルランドのお国事情に疎いフランス人のブノワとの会話を通して、アイルランド社会の複雑さや、住民感情といったものが浮き彫りにされてくる。 ロージーの両親や兄弟たちとの会食の席で、ブノワが「アイルランドってこんなに美しいとは思わなかった」でお世辞を言ったとき、ロージーの父親が「テレビではIRAばかりだ」と憎々しげにいうシーンがある。北アイルランドを築いたのはプロテスタント系移民なんだという誇りが強くあるのだろう。 音楽好きのブノワがアイルランド名物の「ケイリー(歌と踊りの夕べ)」に行こうと誘うが、二人は顔を見合わせて、ケイリーには行ったことがないと言う。「ケイリーはカトリックの人達のなの…。ヴィンセントは警官だったし…」とアイルランドの複雑な事情を垣間見る。北アイルランドでは住民を取締る側の警察官はプロテスタント系で占められているんだろう。ロージーもヴィンセントも、その両親もガチガチのプロレテスタントなんだろう。 日曜日になると元警官仲間だった男友達と遊ぶヴィンセントに「オレンジ党員にでもなれば?」とロージーが詰るシーンがある。 プロテスタントとカトリックの確執の歴史は長く、人々の暮らしに根づいている信仰と絡み、今も根強く人々の心を縛っている。 ウィキペディアで調べると、17世紀、オレンジ公ウィリアムと呼ばれたイングランドのウィリアム3世を支持する派と、ジェームズ支持派及びフランスが争い、ウィリアム支持派が勝利した結果、アイルランドにおけるイングランドの覇権が動かしがたいものになった戦争があって、その時にウィリアム3世を支持したプロテスタントの団体が「オレンジ党」と名づけられ、オレンジ党員たちはイングランドに忠誠を誓いアイルランド共和国との併合を拒否したという歴史がある。オレンジ党員たちは、ウィリアム公が勝利したボイン川戦勝記念日には市内とりわけカトリック居住区内を、旗を掲げて笛や太鼓を打ち鳴らし練り歩くのだそうだ。ロージーからみたら男たちの馬鹿げた大騒ぎとでも映っているんだろう。 ロージーが、毛嫌いする上司に向かって「スコットランドに帰れ!」とマイクでぶちまけるシーンがある。UKからみたスコットランドは子分的存在。そんなスコットランドの上司から偉そうに命令されるのがロージーには気に食わないところがあったのだろうか。 スコットランドとアイルランド、そしてイングランド。 私たちはどうかすると「イギリス」という言葉で一括りにしがちだけれど、この作品を観ていると、問題の根は深く複雑に入り組んでいるようだ。 不妊治療に絡んで、昔の恋人の出現の若い夫婦の危機的状況をコミカルに描きながらも、アイルランドのお家事情も描かれていて、日本人としてはピンとこないところはあり、単に若い夫婦のラブコメディと見れば、よくあるお話で物足りないだろうけれど、今もってくすぶり続けているアイルランド紛争の長く凄惨な抗争の歴史を考えると、ロージーの実家の大家族主義的な感覚とか、ヴィンセントの元警官たちの仲間意識といったUK派6洲のコミュニティの強さなど、アイルランドの一面を色濃く描いた作品としても観ていて興味深いところがある。 ![]() ヴィンセントにはダニー・ボイル監督「シャロウ・グレイブ」で金を守って屋根裏に篭るデヴィッドを演じたクリストファー・エクルストン。ボトム監督の「日蔭のふたり」にも出演している。 そして軟弱なキャラクターのフランス人ブノワを演じたのはシャルロット・ゲンスブールと結婚した、監督であり俳優でもあるイヴァン・アタル。 ロージーを演じたデヴラ・カーワンって、本作で初めて見たけれど、ケリー・フォックスをスレンダーにした雰囲気でなかなかチャーミングな女優。
by mchouette
| 2009-03-09 00:00
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