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チェコの映画といえば、チェコのアニメ映画と、シュールな映像を見せてくれるヤン・シュヴァンクマイエル監督ぐらいしか知らない。 OBSLUHOVAL JSEM ANGLICKEHO KRALE I SERVED THE KING OF ENGLAND 2006年/チェコ・スロヴァキア/120分 at:梅田ガーデンシネマ 監督: イジー・メンツェル ![]() 予告編では当時のチェコスロヴァキアを、ブラックユーモアのスパイス効かせて批判したコミカルな作品かと思っていたら…シリアスな映像から始まった。 時代は第二次大戦後、1963年頃のチェコスロヴァキアのプラハ。 戦後の共産主義体制下で、好ましからざる人物として再教育の監獄に入れられていたヤンが出所し、居住地区としてあてがわれた廃村から始まる。 そこはかつてドイツ人たちが住んでいた村。 かつて、この国ではドイツ人もチェコ人も何世紀にもわたって一緒に暮らしてきた。ヤンが出所してきた数年後には「プラハの春」と呼ばれる社会変革の動き、それを弾圧するためのソ連の軍事介入、そしてチェコとスロヴァキアの分裂…かつてはオーストリア・ハンガリー、そしてドイツ、ソ連と常に隣接する大国の脅威をうけ、翻弄され続けたともいえる旧チェコスロヴァキアの歴史、それが否応なく伝わってくる。 エミール・クストリッツァ監督の分裂したユーゴスラヴィアの激動の歴史を描いた「アンダー・グラウンド」のラストシーンなども頭に浮かんでくる。歴史の重さが一人一人の個人に背負わされている。そんな空気で始まる。 そしてそんなヤンが回想する我が人生。 途端に映像は一転し、古きよき時代のサイレント映画を思わせるようなコミカルな動きの映像に変わる。 小さい身体のヤンが、百万長者になるんだというビッグな夢をもった若き日の彼の、幸運には不運が、不運には幸運がいつもドンデン返しで待っていた、まさにチェコスロヴァキアが辿る運命と重なる人生が寓話的なタッチで描き出されていく。 時代は1930年代。 1918年の二重帝国崩壊によって建国されたチェコスロヴァキア共和国。そして1938年のヒトラーによるズデーテン侵攻、英仏伊独によるミュンヘン会談の決定によるチェコスロヴァキア共和国の解体、そして第二次世界大戦へ。そして老いたヤンがいるのは共産主義体制の戦後社会。 こんな完成度の高い作品に出くわすと、東欧諸国の、常に時の権力の影響下におかれ、抑圧された表現の自由は、内部で発酵・熟成し、それがこの作品の完成度の高さにつながるんだろうと思う。 本作のほかにも東欧諸国発の素晴らしい作品に出会っている。 映画の原作は、「プラハの春」を背景にソ連の軍事介入に大きく揺れるチェコスロヴァキアを舞台にした「存在の耐えられない軽さ」のミラン・クンデラが、「われらの今日の最高の書き手」と賞賛を惜しまなかったチェコの作家ボフミル・フラバル(1914-1997)の「私は英国王に給仕した」。 ソ連支配下にあった71年に書かれ国内での出版を禁止されていたが、欧米では何版も重版されているベストセラーだそうだ。彼の作品は日本ではほとんど出版されていないとのこと。 若き日のヤンの楽しみは、持っているコインをばら撒いて、誰がコインを拾うかを確かめること。 人間の欲望は、貧富の差も、身分の差も、民族の差もなく同じだということ。 ヤンのコインのエピソードが物語るなんと強烈な皮肉! 人間の本質をみごとに突き、 人間を国家イデオロギーや民族や階級や貧富で括ろうとすることのナンセンスさを皮肉り、そして、タイトルに「英国王」を冠するなどは、支配者であったソ連あるいはドイツを大いにコケにした断固たる抵抗の姿勢。 ![]() 大きな身体の給仕人たちと並んで、彼らに負けじと小さな身体で精一杯胸をはり、誠実さをみせながら、隙をみて人を出し抜く野心もみせ、ドイツ娘と恋におちるヤン。 そんなヤンにチェコに対する痛烈な揶揄がみてとれる。 そしてドイツ娘と結婚許可をうけるため精子検査のために必死に射精に努め、そしてヤンが流した一筋の涙に、大国に翻弄されたチェコの悲劇をみる。 「どんな状況下でも存在する生きる喜びを描く一方、生きる代償として直面する苦しみも描く。」イジー・メンツェル監督はそう語っている。そして、どのように生き残るかだろう。 原作は未読ながら、人生という「生きる」重さを押さえながら、軽妙なタッチで綴っていくイジー・メンツェル監督の映像演出。 イジー・メンツェル監督作品は本作が初めて。 日本でも公開されたという「スイート・スイート・ビレッジ」が1週間だけモーニング上映されていたけれど、日程の都合で見れなかったのが残念。 ![]() 馴染みがないチェコ映画だから、俳優たちも知っているのはヤンが恋するドイツ娘を演じたドイツ人のユリア・イェンチぐらい。「ベルリン僕らの革命」「白バラの祈り/ゾフィー・ショル、最期の日々」そして本作と、それぞれ違う顔をみせている。 そして若き日のヤンを演じたイヴァン・バルネフ(ブルガリア人)の軽妙な演技。そして老いたヤンを演じたオルドジフ・カイゼル(チェコ人)が生きる重さを感じさせ、それぞれにいい味を出していた。 観終わった後、パンフレットをみて知ったのだけれど、ハンガリーの監督イシュトヴァン・サボーが、監獄に入れられた金持ちの一人としてゲスト出演していた。 冷戦時代において東欧と呼ばれた共産主義圏の国々の作品は、配給等の関係もあるのだろう。日本で公開されることはまだまだ少ないけれど、苛酷な歴史の中で生き延びる術を身につけ、そして内面で培われ熟成されていった鋭い洞察の眼と感性。 西ヨーロッパとはやはり違う重さがある彼らの物語。 久々に奥の深い作品に出あった。
by mchouette
| 2009-02-04 00:00
| ■映画
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