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市川雷蔵といえば、虚無の匂いが漂う「眠狂四郎」という印象が強い。 肝臓癌のため1969年に37歳の若さで夭折し、不世出の時代劇スターといわれ、また演技力・品格・風格を兼備しながら同じく37歳で癌死したという共通点から、和製ジェラール・フィリップとも喩えられることもある市川雷蔵は、名前も顔も良く知っているけれど、洋画の方を向いていた私は彼の出演作品は知っているけれど、実際にはあまり観ていない。
![]() 今回、シネ・ヌーヴォの市川崑監督特集で「炎上」「ぼんち」「破戒」と彼の主演作品を立て続けに3本観る機会に恵まれた。 「炎上」は金閣寺放火事件という実際に起きた事件を題材にした三島由紀夫の小説「金閣寺」をの映画化で、金閣寺に放火した見習い僧・溝口伍市を描いた作品。 「破戒」は島崎藤村の同名小説の映画化で部落出身という出自を隠し、苦悶する青年・瀬川丑松の心の軌跡を描いている。日本が日露戦争に突入した時代だ。 そして「ぼんち」。大阪船場に四代続いた足袋問屋の一人息子が女系家族の中で悪戦苦闘する様とその多彩な女性遍歴を飄々とした味で描いた作品。 「炎上」の溝口伍一の孤独感、「破戒」の瀬川丑松のひたむきな誠実さ、「ぼんち」で女遊びにうつつを抜かすもおっとりとした品の良さを感じさせるぼんぼんと、それぞれに異なる役柄を演じる市川雷蔵を3本続けて観て、かつて三島由紀夫が 「目の美しい、清らかな顔に淋しさの漂ふ、さういふ貴公子を演じたら、容姿に於て、君の右に出る者はあるまい」と評した言葉に肯いてしまう。 ちょっと市川雷蔵の出演作品を見てみようかしらという気持ちになっている。市川雷蔵は関西歌舞伎界出身という程度は知っていたが、両親と離別し生後6ヶ月で父の親戚筋にあたる歌舞伎俳優の市川九團次に引き取られて養子となり、更に1951年、19歳の時に当時の関西歌舞伎の頭領であった壽海の養子となり、8代目市川雷蔵襲名。 市川雷蔵の名も、養父の市川九團次が市川新蔵の名跡を継がせたいと考えていたが、「どこの馬の骨とも知れぬ役者に新蔵の名跡はやれぬ」と反対され、こういった経験から、養父の市川九團次は何とか息子に名門の家柄を付けてやりたいと考えるようになり、後の壽海との養子縁組につながっていったそうだ。 保守的な部分が多く「血縁や名跡が重視される梨園の世界にあって、養子として歌舞伎界に入った雷蔵は22歳で歌舞伎の舞台を離れ映画の世界に身を置き、生涯、歌舞伎の世界へ戻る事はなかった。そして彼が襲名した「市川雷蔵」という名は、その後の歌舞伎界で現在までその名を襲う者が無く「永久欠番」的な存在となっている。 ![]() 映画「炎上」で、寺でぽつねんと佇む彼からなんともいえず感じられる孤独や寂寥といった空気は、彼の育ったこんな生い立ちと複雑な環境から生まれた、彼自身から発せられたものだろうかと思えてくる。 市川崑も「名門の歌舞伎役者の養子として苦労しただろうし、お師匠さんの存在が金閣寺とダブってイメージされるのか、台詞もなく黙って座っているようなシーンでも、演技を通り越してすごいものが出てます。」 「炎上」での市川雷蔵をこう語っている。 原作者である三島由紀夫は市川雷蔵に対し、こんな言葉を贈っている。 「君の演技に、今まで映画でしか接することのなかった私であるが、「炎上」の君には全く感心した。市川崑監督としても、すばらしい仕事であったが、君の主役も、リアルな意味で、他の人のこの役は考えられぬところまで行っていた。ああいう孤独感は、なかなか出せないものだが、君はあの役に、君の人生から汲み上げたあらゆるものを注ぎ込んだのであろう。私もあの原作「金閣寺」の主人公に、やはり自分の人生から汲み上げたあらゆるものを注ぎ込んだ。」 父親の葬儀の日、白い着物に白い袴の彼が山門の前で父親の棺を待ってただ立っているだけの数秒間のシーンにも、唯一の心の拠りどころだった父を喪ってしまった溝口伍市の内面を垣間見るようで、伍市という少年の心情にふっと哀れを覚えた。 当初、雷蔵が演じた溝口伍市の役は川口浩でやろうと考えていたそうだが、永田社長からダメ出しがでで、悩んでいたら市川雷蔵はどうだということになって話しをもっていったら、すぐに出演快諾の返事がきたそうだ。 映画の世界に入り4年目。26歳の雷蔵にとっても二枚目の時代劇スターで終るか、役者として成長するかの自身の役者としての正念場でもあったのだろう。ひどい吃音で丸坊主の見習い僧で、国宝の放火犯という役に対し講演会からは苦情がきたそうだが、雷蔵は意に介さなかったそうだ。 金閣寺放火事件は、1950年7月2日未明、鹿苑寺の見習い僧侶だった大学生の林承賢が起こした実際にあった事件で、映画「炎上」でも溝口伍市の金閣寺に対する憧憬、重度の吃音という障害からくる将来への諦念、世俗に塗れた堕落した住職や寺院に対する反撥、自分の内にある憎悪という邪念に抱く己への嫌悪、実家の母との確執など、犯人であるい青年僧の複雑な心境や彼を取巻く様々な背景が浮かび上がってくる事件だったようだ。 犯人である林承賢の放火の動機を分析し、三島由紀夫は「金閣寺」を、水上勉は「五番町夕霧楼」を執筆している。さらに水上勉はこの事件を克明に調査・取材しノンフィクション「金閣炎上」で事件の詳細を描いている。 本作は三島由紀夫の「金閣寺」の映画化で、その後1967年ATG製作で高林陽一が篠田三郎主演で映画化している。 また水上勉の「五番町夕霧楼」は1963年に佐久間良子、河原崎長一郎主演で、1980年には松坂慶子、奥田瑛二主演でそれぞれ映画化されている。 また司馬遼太郎は新聞記者時代にこの事件を取材して記事を書いている。 ![]() 他の作品と比べてみても(といってもかなり前なので印象だけの比較となるが)、放火犯の複雑な内面がひしひしと伝わってくるのは、やはり市川崑の「炎上」であり、そこで市川雷蔵が演じた放火犯が際立っていると思う。 市川監督の奥様であり、市川作品の脚本を手がけている和田夏十は、彼の作品の手厳しい批評家であり、彼女が脚本を書いた作品については殊更に厳しかったそうだ。その彼女が本作を観て「三島由紀夫を退治した」といって褒めたそうだ。 市川監督が、カメラマンの宮川一夫と初めて組んだ作品でもある。 そして、三島由紀夫も語るように、この役は市川雷蔵以外には考えられないなと彼の演技をみていて思う。演技以前に、市川崑監督も語っているように作中の溝口伍市の生い立ちや彼を取巻く複雑な諸事情と、市川雷蔵が辿ってきた内面の軌跡に重なるものを感じるのはやはり思い込みだろうか。 「炎上」 1958年/白黒/99分/製作:大映京都 原作:三島由紀夫/脚本:和田夏十、長谷部慶治/撮影:宮川一夫/美術:西岡善信/音楽:黛敏郎 ……………………………………………………………………………… そしてこの作品のあとで、監督は市川雷蔵から「お返ししとくれやっしゃ。」「なにを?」「”ぼんち”やって~な」と言われ、山崎豊子原作の「ぼんち」を撮ったそうだ。 「ぼんち」では一転して大阪船場に四代続いた足袋問屋の女系家族の中で育った一人息子の 悪戦苦闘と多彩な女性遍歴を、軽妙洒脱で飄々と演じていた。 市川雷蔵も大阪育ち。市川崑も子どものころ一時大阪に住んでおり、共に大阪市内の比較的近い場所に住んでいた。大阪の水は市川監督も馴染みがあるだろう。母親役で山田五十鈴の乳母日傘育ちのおっとりとした役も面白い。 愛人である若尾文子、京マチ子、越路吹雪の3人の入浴シーン…これが艶っぽく、華やいで、女学生ののりの無邪気さがあって、カメラマン宮川一夫の手腕でしょうか、良かった…愛人たちを疎開させている田舎の寺に会いに行った”ぼんち”がこんな女たちをみて、「女という生き物は…」と、女に対する熱が一度に退いてしまったと後に語るシーンでもある。 「ぼんち」 1960年/カラー/105分/製作:大映京都 原作:山崎豊子/脚本:和田夏十、市川崑/撮影:宮川一夫/美術:西岡善信/音楽:芥川也寸志 ……………………………………………………………………………… 明治30年代の信州を舞台に、島崎藤村の小説「破戒」の映画化では、被差別部落出身を隠し小学校の教師をしている青年が、己の出自を隠し通せという父の遺言と、真摯に生きるという思いの狭間で、部落出身者という己の運命に苦悩、葛藤する瀬川丑松の役を演じ、この作品には泣かされました。藤村志保の女優デビュー作でもある。 「同和」という文字を見なくなったのは最近のことだろう。武家社会で生まれた士農工商という階級が明治になって士農工商という身分制度が崩壊しても、部落民というものだけが根強く残っていた。差別する対象をつくることで優越感をもたせるという支配階級が創りだした巧妙なヒエラルキー。「差別」というテーマに真摯に向き合い、テーマそのものも映像も決して時代遅れではなく、人として何を守って生きるのかという市川崑の強いメッセージは、今の社会でもう一度甦るべき作品だと思う。 「破戒」 1962年/白黒/119分/製作:大映京都 原作:島崎藤村/脚本:和田夏十/撮影:宮川一夫/美術:西岡善信/音楽:芥川也寸志 ……………………………………………………………………………… 「雪之丞変化」は「長谷川一夫三百本記念映画」で大映のスターが総動員というものだが、華やかさを抑え、しかし演出はジャズなども取り入れた、市川作品に流れるリズム感があり、モダンな時代劇に仕上がっていて、大いに楽しめた作品だ。ここでは雷蔵は昼太郎という小悪党をコミカルに演じていた。 「雪之丞変化」 1963年/カラー/114分/製作:大映京都 原作:三上於菟吉/脚本:伊藤大輔、衣笠貞之助、和田夏十/撮影:小林節雄/美術:西岡善信/音楽:芥川也寸志、八木正生
by mchouette
| 2008-08-30 00:00
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