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L' ALBERO DEGLI ZOCCOLI
1978年/イタリア/187分 19世紀末の北イタリア・ベルガモ近郊の農場。 地主が絶対権力を持っていた時代。 農地も家も農具も家畜も、木一本に至るまで全て地主の所有で収穫の2/3は地主のものとなる。そんな農場に小作人として住み込んでいる四家族の日々の営みを、四季の移り変わりの中で描いた作品で、1978年カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞している。 撮影はすべてベルガモ地方で行われ、人口照明は一切使わない自然光のみで撮影を行い、出演者もそこで暮らしている農民たち。 地元の人々を起用し、彼等の生活を描いたルキノ・ヴィスコンティの「揺れる大地」にも通じるものがあり、イタリア・ネオレアリズモ(新写実主義)の流れをひく作品といわれるのも頷ける。 バッハの曲が流れる中、4家族が大人も子どもも総出で行う草刈や収穫風景で始まるシーンは、ミレーの絵画を思わせるような映像世界が広がる。 当時の小作農たちのおかれている極貧に近い生活の様子が伺えるものの、労働する彼等には常に歌があり、神に捧げる祈りがあり、夜ともなると4家族が集まり、女たちは針仕事をし、子供たちは父親たちが話す怖い話に夢中になって聞きいり、笑があり、そして神への祈りと共に床に就く。 ![]() 「貧しい人ほど神の近くにいるんだよ。」 神という人智の及ばぬ大いなる意思によって生かされ、守られているという彼らの篤い信仰心と、常に神と共にある彼等の日々の営みがドキュメンタリー・タッチで描かれている。 的確な映画レビューで私が信頼しているプロフェッサー・オカピーさんは「農村風景を描いた場面はまるでミレーの絵画、家の中の場面はレンブラントの絵画のようで、この絵画のようなカットの数々を見続けるだけでも満足できる。」と評されている。 しかし、彼らの貧しくも美しき姿を描いているだけではなく、成長した豚の屠殺場面なども克明に描かれている。 男たちに追い立てられ、悲鳴をあげながら小屋から外へ引きずり出され、腹を裂かれる豚のあえぐ表情に悲哀さえ覚え、搾取される彼ら農民たちの姿と重なるものを感じずにはおれない。 生きとし生ける者たち全てのものの意思を描き出そうとするオルミ監督の眼差しを感じる。 そして糧をもたらす大地、生きとし生けるものに対する農民たちの慈愛の心が描かれている。 信仰と隣人愛が生きていた時代。 粛々と大地と神とともに生きる農民たち。 働き手が欲しいけれど、神父の強い勧めにより子どもを小学校に通わせた父親は、往復12kmの道を歩く息子の木靴が片方だけ割れてしまったため、地主の領地から木を1本切り、一晩かかって新しい木靴を造ってやる。 出産したばかりの妻をいたわり、夫は何も言わず、神に祈りを捧げながら木靴を造る。屋根裏で寝ている妻は、割れた木靴を縛っていた息子の紐を見て全てを悟り、階下から聞こえる木を削る音と夫の祈りの言葉を聞きながら、彼女もまた神に祈り続ける。 このシーンにはどれほど胸を打たれたことか! ![]() 先日記事をあげたキェシロフスキの「デカローグ第5話:ある殺人に関する物語」など、この間ずっと20世紀に入ってから、とりわけ第二次大戦後の戦後社会における現代人の孤独、不条理な世界をテーマにした作品にどっぷりと浸された私には、そんな彼らの敬虔な、争いよりもいたわりに満ちた彼らの日々の営みが描かれた映像に、人の営みの本来の姿とはこのようなものかと、沁みいるような安らぎと共感を覚える。 しかし、オルミ監督の描くこの絵画を思わせる映像世界は、古きよき時代を賛美した回顧主義的なものでは決してなく、そんな彼らの映像の間に挿入された工場で黙々と働く労働風景や、社会主義運動家の演説を聞きいる労働者の映像などから、彼がこの作品の底流で描こうとしたテーマや彼の批判的精神も読み取ることができる。 また、結婚したばかりの若い夫婦が会いに行った叔母のいるミラノで、兵隊がデモを鎮圧する現場が描かれ、20世紀という新しい時代、近代から現代へと社会のシステムそのものが大きく変わりゆく時代の波も予感させる。 けれど、農民たちの敬虔に生きる姿の崇高さの前では、何かを語るということ自体その意味と輝きを失うだろうし、それ以上に大切なものを損なうような気がする。それほど彼らの生きる姿は気高く美しい。 ミラノに向かう若い夫婦をのせた船が川をいく光景や、船に乗り合わせた人々の様子などを描いた映像もまた素晴らしい。(人々の思いやりのある姿など、公衆道徳などお構いなしの今の日本に見られる電車の中の光景とは月とすっぽん!) しかし、子どもの木靴を作るために地主の領地から木を切ったことが発覚し、一家は農場から追われてしまう。黙って荷物を荷車に積み込み出て行く一家を、残った3家族は家の中から黙って見送る。荷車には木靴を作ってもらった少年がじっと涙を浮かべてうずくまっている姿が映し出される。 「愛」以外に何も持たぬがゆえに、何も言えぬ民たちの悲哀が、この無言のままのラストシーンに、無言の力で描きこめられている。 この作品はずいぶん前に放映されていたのを録画していて、一度夜遅くに見たのだけれど、最初の1時間ほどは彼らの生活が淡々と描かれており、そんな映像に途中で寝てしまい、187分という長尺作品のため、その後しばらく観る機会を逸していたものだが、観終わった後は、静かな感動と余韻から、もう一度初めから観たくなる気持ちを起こさせる。それほど素晴らしい作品だ。 監督: エルマンノ・オルミ 脚本: エルマンノ・オルミ 撮影: エルマンノ・オルミ 出演: ルイジ・オルナーギ/オマール・ブリニョッリ/ルチア・ペツォーリ/フランコ・ピレンガ/ロレンツォ・ペドローニ
by mchouette
| 2008-09-01 00:00
| ■映画
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