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ESPOIR: SIERRA DE TERUEL
1939年/フランス・スペイン/73分 ブログ「良い映画を褒める会」の用心棒さんが<『希望 テルエルの山々』(1939)スペイン内戦を間近で見たアンドレ・マルロー唯一の監督作品。>と題されて紹介されていた作品。 スペイン内戦というと、写真家ロバート・キャパが共和国側から撮った スペイン内戦の写真の数々。その中でも行進する人民戦線派の兵士たちの、戦いの決意を表すように拳を掲げた彼らの表情が脳裡に焼きついている。 ビクトル・エリセの「エル・スール」(1983)、ホセ・ルイス・クエルダの「蝶の舌」(1999)、ギレルモ・デル・トロの「デビルズ・バックボーン」(2001)「パンズ・ラビリンス」(2006)などスペイン内戦をテーマした映画感想も記事にあげてきた。 父と子が敵味方に分かれ戦うという悲劇を生まれ、まさに骨肉の争いともいうべきスペイン国内でおきた内戦は、反ファシズム運動の高まりの中、各国から義勇兵たちが共和国側(人民戦線派)に参戦し、さらに反ファシズム陣営である人民戦線をソビエト連邦が支援し、フランコをファシズム陣営を樹立していたナチス・ドイツやイタリアが支持するなど、ヨーロッパ全土を巻き込み、第二次世界大戦の前哨戦としての様相を呈する戦いでもあった。 そして本作の監督・脚本・原作であるアンドレ・マルローは、「人間の条件」などの小説で知られるフランスの文学者で、レジスタンスとしてナチスと闘い、第二次大戦後のド・ゴール政権下で情報相や文化相を歴任した政治家としても有名である彼だが、スペイン内戦が勃発すると、国際旅団に加わり外国人義勇兵として共和派(人民戦線派)に参加した一人だ。空軍パイロットとして自ら前線で戦い、この体験をもとに執筆した小説『希望』の一部を映画化したのが本作。 用心棒さんも書かれているように、まさに<スペイン内戦を間近で>目撃した作品といえるだろう。人民戦線軍、彼らと連帯する村人たちをドキュメンタリー・タッチで描いている。 映画は1939年に完成していたが、映画の公開は第二次大戦後の1945年で、同年にフランスの映画賞のひとつであるルイ・デリュック賞を受賞している。本作は彼が生涯でたった1本だけ撮った映画でもある。 そして1939年は4月1日のフランコによる勝利宣言によって内戦が終結した年でもある。その後、人民戦線派の残党に対してフランコ政府は激しい弾圧を加えていった。 そんな中で人民戦線派としてフランコ軍と戦ったマルローが「希望 テルエルの山々」と題し、生涯でたった1本だけつくったこの映画に託した思いが、ラストシーンから痛いほど伝わってくる。 物語りの舞台は… スペイン内線が激化する1937年のテルエル・リナス村近郊。 フランコ将軍率いる反乱軍の攻勢が激化する中、共和国側は乏しい武器を手に闘っていた。迫りくるフランコ軍を分断するため村と村をつなぐ橋の爆破が人民戦線軍の急務であり、フランコ軍を阻止するため、共和派パルチザンはリスナ村の農民たちと合流する。 村人たちは、家にある武器の材料になると思うものを手に次々とやってくる。金庫。ガラス瓶。ミルク缶…人民戦線軍の厳しい状況が伺える。人民戦線軍には戦争の経験も武器の扱いも知らない者も多い。ダイナマイトがあっても扱いを知らない。各国からの義勇兵たちも反ファシズムという一点で結集しているが、彼らのバックボーンやイデオロギーは様々だ。父親が祖国でファシストのリーダーであるという青年もいる。 一方、リスナ村の森でフランコ軍の飛行場を発見した農民は、戦線を突破して共和派の飛行場に知らせに行く。途中、酒場の主人がフランコ側の人間で、同行した仲間が殺される。 敵か?味方か? 戦争は人と人との絆となる信頼というものを奪い去るものだろう。 冒頭部分で、橋の爆破について「確かな同志が必要だ」という台詞がある。「確かとは?」「信頼だ」こんな台詞のやり取りが印象的だった。 信頼…義勇兵としてこの戦争に参加し、イデオロギーも、この戦争に対する意識も違う義勇兵やスペイン人民戦線軍のなかにあって寄合い所帯ともいえる共和国側の中で、人民戦線派が内部瓦解を前に、マルロー自身が「信頼」とういうことを身をもって痛感したことなのだろう。 そしてマルロー自身が味わったであろう共和国側内部の温度差や、寄合い所帯の焦りや苛立ち、民族問題といった、この内戦が内抱するものがふつふつと描かれている。 ある意味、この映画はマルローのスペイン内戦における彼なりの総括であるのかも知れない。 「信頼」という「希望」… 「信頼」という言葉が、シーンがいくつも出てくる。 飛行場を知らせに来た農夫に対する信頼もそうだろう。 農夫が共和派の元に行くに際し「信頼する人間をつけよう」と人民戦線側は言う。 ファシストのリーダーを父に持つ青年に後を託す信頼。 人民戦線軍、義勇兵、農民たちとの信頼……。 マルローが本作で描こうとした一つは「信頼」だろう。 それはこの戦争における苦い思いであるだろうし、彼の理想でもあっただろう。 そして夜明け前 12台の車のヘッドライトを目印に、2機の戦闘機はリスナの農民を乗せ、フランコ軍の飛行場と橋の爆撃のために暗闇の空に出撃する。 地形図から基地の位置が確定できず、生まれて初めて空から見る村の地形に戸惑う農夫のため、高度を下げさらに地上に近づく。 このあたりはパイロットとして参戦したマルローの、リアルな描写に緊迫感が伝わってくる。 敵に見つかり、撃墜されれば飛行場爆破どころか、人民戦線の命綱ともなる橋の爆破も決行不能となる。 飛行場と橋の爆撃に成功するも、敵機と激しい空中戦となり、味方の救援も空しく、機体と計器が損傷した戦闘機はテルエルの山に激突する。 村人たちの助けを借りて、山頂から死傷者が運び降ろされる。 そんな彼らを讃え、連帯と別れのための村人たちの列はどこまでも続く。 山間にも彼らを見送る村人たちが集まっている。 「他の国の人たちはどこから?」「ドイツ、フランスから。彼はアラブだ。」 ファシズムに抵抗する者たちがこのスペイン内戦に各国から結集し、戦い、そして死んでいった。 「連帯」と「抵抗」 ここで描かれているのは義勇兵たちとともに、武器も持たぬ農民たち一人一人もまた、この戦争を自らの戦争と受けとめファシズム政権であるフランコ軍に立ち向かう姿を、無言の静謐さの中で熱く描かれている。 こういう闘いを通して、反ファシズムという精神的土壌を醸熟させていったのだろう。 墜落した機体から運び出された兵士たちは、あるものは担架に乗せられ、あるものは棺に収まり、そのあとを行く村人たちの姿には感傷的な涙はない。むしろ、無言で彼らのあとに続く姿に、ファシズムへの抵抗の意思が彼らの胸の中で静かに深く発酵していくのを感じとる映像だ。 テルエルの山々を背景にしたラストのこんな映像に、マルローが「希望」と題した思いが伝わり、胸が熱くなる。 人民戦線派にとっては悲劇的な結果となったスペイン内戦だが、マルローは本作で、ヒロイズムや悲壮感などに流れることなく、観察者の眼でこの戦争を描いている。 監督: アンドレ・マルロー 製作: コルニグリオン=モリニエ 脚本: アンドレ・マルロー 撮影: ルイ・パージュ 音楽: ダリウス・ミヨー 出演: アンドレフ・メフート/ニコラス・ロドリゲス/ホセ・ラドー
by mchouette
| 2008-08-02 00:00
| ■映画
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