by mChouette 検索
カテゴリ
全体 ■映画 =映画:あ行 =映画:か行 =映画:さ行 =映画:た行 =映画:な行 =映画:は行 =映画:ま~わ行 ■映画・雑記 ■ドラマ ■展覧会・コンサート ■一冊の本 ■徒然なるままに… ■美味しいもの ■アウトドア・旅 ■勝手にバトン ■ご挨拶・お知らせ 未分類 最新の記事
その他のジャンル
|
EL SUR(THE SOUTH)
1983年/スペイン/95分 素晴らしい映画は、観るものの感性を刺激し目覚めさせてくれるものだなぁと、寡作の人ビクトル・エリセ監督の長編第一作目「ミツバチのささやき」からなんと10年後に発表された第2作目「エル・スール」をみていてそう思う。 見始めたのが深夜12時を過ぎていて、この作品の光の美しさを少しだけ味わって床に就こうと思って見始めたものの、結局最後まで観てしまった。 観終わった後は眠気などはなく、敬虔なものに触れた研ぎ澄まされた感覚が余韻としてずっと残っている。 少女エストレリャのモノローグで綴られる幼い頃の記憶から始まり、エストレリャの視線を通して父アグスティンの孤独な魂を辿る物語へと移っていく。 「私にとって最も興味深いのは、二つの時期の間にある移行、事物が別の物になろうとする際に見せる変化です。 『ミツバチのささやき』にも『エル・スール』にも描かれているのは、幼年期の終わりと次の段階への移行です」とビクトル・エリセは語っている。 物語の舞台は1957年秋、少女エストレリャスが両親と暮らしているのはスペイン北部のバスク地方。 そして父の故郷は冬でも雪が降らないというスペイン南部アンダルシア。 フランコ政権派の父と人民戦線側の息子。 スペイン内戦という骨肉の争いは、家族の絆さえも断ち切り、勝利したフランコ政権によって息子は長く投獄され、そして故郷の南を捨て北の地を転々と移り住んだ。 捨て去ったはずのものが、そこに繋がるものの不意の出現によって、男の胸に喪失感とそこから起こる孤独感が否応もなく押し寄せる。 エストレリャは成長するに従い、今まで自分が知っていた父とは別の一面を知った時から、故郷アンダルシアを捨て、北に生きる父の抱える苦悩の深さを感じ取っていく。 過去とスペインの歴史に囚われ続ける父は、逃れようのない苦悩から自ら命を絶つ。 「ミツバチのささやき」以上に、スペイン内戦が人の心にもたらした痛みがひしひしと伝わってくる。 父と娘の魂の触れ合い。 一人の男の孤独を浮かび上がらせ、それをじっと見つめ続ける少女の眼差し。 家の前に長く続く道は過去から現代、そして未来へと繋がるものの暗示だろう。 この長く続く道を遠く向こうから近づいてくるバイクに乗った父を待つ幼い頃のエストレリャ。 少女になったエストレリャは、自転車でさらにその先の道を走る。 エストレリャのモノローグは詩情を漂わせ、光と陰が織り成す映像は静謐さを湛え、観るものを瞑想と緊張の世界へと誘う。 映画紹介によると、本作の原作では、父の自殺の後、エストレリャは父を辿る旅ともなる父の故郷である南(エル・スール)へと続くが、映画で予算の都合でエストレリャがトランクに南の写真と父の遺した振り子をトランクにいれ南へ旅だとうとするシーンで終わっている。 エリセはエストレリャの南への旅立ちについて語っている。 「細部は省きますが、(当初あった)続きでは主役のエストレリャの南での旅が語られるのです。その旅は、小さい時からの願いの実現を意味するだけでなく、父親が秘めていた意志の遂行を暗示しているのです。この父親の意志は、映画のファースト・シーンに含まれています。死の前夜、彼は別れを告げるかのように、あることをする。眠っている娘の枕の下に、ある意味で、かつて二人を最も深く結びつけていたものの象徴である品(霊力の振り子)を置くのです。それは、最後の愛情表現で、はっきりとは分からぬ形で一種の命令を秘めている。」 「南へ旅することで、エストレリャはその命令を果たす訳です。そして父の過去の基本的事実や人物を知るに従って、彼の人物像を再構成していくのです。つまりそれは根源的な体験であり、それによってエストレリャは初めて自らのアイデンティティーを確立し、幼年期を決定的に後にすることが出来るようになる。こうしてエストレリャは、自らの生に関わる北から南への旅路を辿るだけでなく、自己を知るプロセスをも辿るのです」 「私には父親も娘も理解出来ますが、娘の方の肩を持ちます。父性というものに対するアグスティンの理解の仕方、またその生き方は、結局挫折せざるをえない。シナリオに登場する大人達の殆どは敗北者です。和解不可能な二つの世界、心と知性、情熱と日常生活、その間で引き裂かれてしまった人物なのです」 父アグスティンはタヴィアーニ兄弟の作品には無くてはならない存在ともいえるオメロ・アントヌッティ。 「父/パードレ・パドローネ」 「カオス・シチリア物語」 「グッドモーニング・バビロン」とは又違う、孤高の人の佇まいをみせていた。 アグスティンがかつて愛した女性は、ルイ・マルの「ルシアンの青春」でルシアンが心を寄せるユダヤ人の少女フランス役で映画デビューをしたオーロール・クレマン。 生涯で長編は「ミツバチのささやき」「エル・スール」そして「マルメロの陽光」の3作だけという寡作の人ビクトル・エリセ監督。 「マルメロの陽光」もと思ったが悲しいかなレンタル・ショップに見当たらなかった。 アマゾンでは2万円を超える価格がついている。どこかで再見したいと思っている。 監督: ヴィクトル・エリセ 製作: エリアス・クェレヘタ 原作: アデライーダ・ガルシア・モラレス 脚本: ヴィクトル・エリセ 撮影: ホセ・ルイス・アルカイネ 音楽: ヴィクトル・エリセ 出演: オメロ・アントヌッティ/ソンソレス・アラングーレン/イシアル・ボリャン/オーロール・クレマン
by mchouette
| 2008-06-27 00:00
| ■映画
|
ファン申請 |
||