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THERE WILL BE BLOOD
2007年/アメリカ/158分 at:TOHOシネマズ梅田 「ロバート・アルトマン(1925~2006)に捧げる」 エンドクレジットの後、この言葉で本作は終っている。 一人の男の飽くなき欲望と野心の壮絶なるドラマを撮りあげ、編集作業を終え最期にこの言葉を入れたのだろう。 アンサンブル映像作家としてロバート・アルトマンの継承者と目されたポール・トーマス・アンダーソンが、そのレッテルを払いのけるかのように、ダニエル・プレインビューという一人の男に焦点をあて、アメリカン・ドリームの裏に潜む人間ドラマを壮大なスケールで描いた本作を見終わった後、この言葉を見たとき、彼のこの作品にかける思いを垣間見た気がしてウルッときてしまった。 アメリカ・カリフォルニア。 19世紀半ば、一攫千金を狙う採掘者たちが押し寄せたゴールドラッシュ。そして20世紀初頭の石油採掘ラッシュ。 不協和音と岩山の荒野から始まり、世間から隔離するかのごとく広大な屋敷の中に篭り、イーライを殴り殺し、流れでるどす黒い血の横で座り込んだ男の姿と、それにかぶさるように流れる軽快ともいえる狂想曲的なメロディで終る一人の男の人生。 ジョニー・グリーンウッドの音楽は、今までの映画音楽ではまず聞けなかっただろう新境地ともいえる音楽。これほど映像と重なり合い、映像の感情を音で引き出し表現した、本作の音楽はちょっと病みつきになりそうな……。 ![]() アメリカという国は、ダニエル・プレインビューのような無一文の一攫千金を夢見る人間たちが、富みに対する飽くなき執着をエネルギーに、こんな風にして何もない荒野に巨大な冨を築き上げてきた国なのだと、山師アメリカ、成上がりの国アメリカの、その凄まじいまでの欲望とパワーに圧倒されるものさえ感じる。 ダニエル・プレインビューは大地の恵みを自らの冨にするべく、大地から石油を搾り取り、そして牧師のイーライは、ダニエルが搾取した石油の富を信仰という名の元に搾取しようとする。 それは、アメリカの原始から今に至るまでの成上がりの興国の歴史と、資本主義の論理をまざまざと描き出しているともいえるだろう。 しかし、欲望に対しストレートで、、極めて原始的で俗物的ともいえるダニエルという人物に注がれるアンダーソン監督の眼差しは、優しい。父との確執で家を出、以後、人を嫌い一匹狼で生きてきた彼の、自らが発した欲望は冨と共にその代償すらも自らに帰するという潔さや、時として絆に思いを馳せる弱さも垣間見せ、彼を絶対悪として描いてはおらず、その破滅へと向う彼に寄り添って描いているようにさえ感じられた。 むしろイーライに対しては、子羊の群れにいる羊の皮を被った狼のような狡猾な恐ろしさを感じる。 この作品は、アメリカに対するアンダーソン流の、いわゆる変化球的なオマージュではないだろうかとさえ思う。 アメリカの底力と、欲望の底なしの闇。 そして辿りつく先にみえるもの。 資本主義の聖地アメリカを見事に描ききったアンダーソン監督の鬼才をひしひしと感じる。 アメリカを愛してるんだなぁって、感じる。 そんなアメリカを体現する男ダニエル・プレインビューを演じたダニエル・デイ=ルイス。 その身体から目つきから匂うのはまさに山師そのものの匂い。 アカデミー授賞式でみせたあの優雅ささえ漂う彼のどこからこんな匂いが生み出されるのかと、彼のそのなりきり演技には圧倒されるばかり。 米アカデミー賞受賞前の予測で、さる有名なアメリカの映画評論家が「アンダーソンがオスカーは取れなくても、ダニエルからこれだけの演技を引き出した。それだけでもオスカーに匹敵するだけの賞賛に値する」と語っていたが、これは演技とは思えないまでのダニエル・プレインビューその人だったダニエル。敬虔なる信仰者の顔の下から次第にその欲望を顕にし、神にその代償を求めるイーライの欺瞞性。「神」もまた人間の欲望が作り出す産物であるという真実がどす黒く横たわる。イーライ演じたポール・ダノの、青く冷たい欲望の炎を感じさせる演技も見事。 そしてメキシコで発掘したというダニエルの息子H.W.を演じた10歳のディロン・フレイジャー! 父のパートナーとして寄り添う彼の演技。事故により聴音を失くし、一度は父に捨てられ、父を愛しながらも、抵抗していく……その演技にも眼を見張る。アンダーソン監督のきめ細かな演技指導が伺える。 若干25歳で「ハードト・エイト」続いて「ブギーナイツ」と映画関係者たちを唸らせたポール・トーマス・アンダーソン。さらに「マグノリア」。彼はその作品を通し「父と息子」「(擬似)家族」そしてそこにある孤独を描いてきた。人生の何かを見てしまったような老成した悲哀感すら漂う彼の作品。 ![]() 地底から噴出する石油。 ガスが噴出し、赤い火柱が立ち黒い煙が空を覆う様は、人間の赤い血肉に宿る欲望の炎と邪悪さを象徴するパワーを見せつける。 「欲望」を基点に対峙するダニエルとイーライ。 底なし沼のようなどす黒い闇が生々しく抉りだされている。 ダニエルが手にした黒い血も、イーライが流した赤い血も、共に欲望に憑かれた者たちの血。 油井採掘の現場や当時のカリフォルニアを再現したセットといい、石油の噴出シーンなどの欲望のパワーを見せつける映像演出といい、今まではそのほとんどが室内のドラマだった作品に比べ、メキシコの砂漠に囲まれた小さな町をロケ現場にセットを組んでの大半が屋外撮影。エキストラはそこの住民を起用し、リアルさを追及した本作。 そして今までは、アンダーソン作品の常連メンバーが多く出演していたけれど、本作はダニエル・デイ=ルイスという、限られた監督しか出演しない役者の起用した意欲作ともいえる。 「パンチドランク・ラブ」は横におくとして、「ハード・エイト」「ブギーナイツ」と彼が追求してきたテーマの集大成として「マグノリア」があったと思う。 ではその次に…? アンサンブル映像作家という自らに貼られたレッテルを払拭するかのごとく、そして、この作品で、「父と息子」という彼が描き続けているテーマを底流に、アメリカの成り立ちまで立ち返り、アメリカそのものに切り込んだアンダーソン監督の、この作品にかける思いとプレッシャーはかなりのものだったろうと思う。 だからこそ、撮り終えた後「ロバート・アルトマンに捧げる」という言葉に、映画人として父と息子のような関係であっただろうアルトマンに対し、そこを乗越え新たな領域を拓いた彼の思いを感じる。本作を真っ先にアルトマンに見てもらいたかっただろうなぁと思うのは感傷的過ぎるかな……。 ![]() 原作はアプトン・シンクレアの『OIL!』 モデルとなった人物は、20世紀初頭に実在した石油王エドワード・ドヒニー。 晩年ダニエルが住まっているボーリング場がある館は、ドヒニーが息子のために建てたビバリーヒルズの丘に立つグレイストーン邸で撮影されたとのこと。しかし、息子は(暗殺?で)亡くなったため、この屋敷には住むことはなかったらしい。その後ビバリーヒルズ市に遺贈され「ボディーガード」、「ラッシュアワー」、「ゴーストバスターズ」、「イーストウィックの魔女たち」、「永遠に美しく」、「幸福の条件」などに登場しているとのこと。 監督: ポール・トーマス・アンダーソン 製作: ジョアン・セラー/ポール・トーマス・アンダーソン/ダニエル・ルピ 製作総指揮: スコット・ルーディン/エリック・シュローサー/デヴィッド・ウィリアムズ 原作: アプトン・シンクレア「OIL!(石油!)」 脚本: ポール・トーマス・アンダーソン 撮影: ロバート・エルスウィット プロダクションデ ザイン: ジャック・フィスク 衣装デザイン: マーク・ブリッジス 編集: ディラン・ティチェナー 音楽: ジョニー・グリーンウッド 出演: ダニエル・デイ=ルイス(ダニエル・プレインビュー) ポール・ダノ(ポール・サンデー/イーライ・サンデー) ケヴィン・J・オコナー(ヘンリー) キアラン・ハインズ(フレッチャー) ディロン・フレイジャー(H.W.) バリー・デル・シャーマン コリーン・フォイ ポール・F・トンプキンス
by mchouette
| 2008-05-05 00:00
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