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LIONS FOR LAMBS
2007年/アメリカ/92分 at:TOHOシネマズ梅田 ジャニーンは40年間政治の舞台を取材してきたベテランのジャーナリストだ。 そして彼女は共和党の若きホープであるアーヴィン上院議員に呼び出され、彼を取材することになった。 アーヴィン上院議員の部屋には「平和と正義のいずれを選ぶかと問われたら、迷わず正義を選ぶ」というルーズベルト大統領の言葉が掲げられている。 ブッシュ政権下でいまや国民の信頼が失墜しつつある共和党タカ派議員である彼は、イラク戦争の失敗を次のターゲットであるアフガニスタンとの戦争に勝利すること。アメリカが曝されている状況打開は悪と戦って勝利すること。これがアメリカの正義だと持論を吐く。愛国主義剥き出しの論理。早い話が、大国のエゴを正義にすり替えた人気取りのための戦争だ。 そして取材するジャニーンはかつて、アーヴィン議員賞賛の記事を書き、イラク戦争を正当化した苦い過去を持っている。アーヴィン議員はイラク戦争は政府とマスコミの責任だ!と詰め寄り、アフガニスタン戦争の報道を彼女に要請する。 彼女はジャーナリストの正義を持ちつつも、買収された大企業の圧力で風見鳥的な報道しかできなくなっている現実に苛立っている。いまや体制のプロバガンダに利用されているジャーナリズムの世界。 ![]() そして学生時代、徴兵制度によりベトナム戦争に従軍した経験をもつマレー教授は、教授室で欠席続きの社会に無関心な学生トッドを相手に、無関心であることの愚かさを説き、正義に目覚めよと論ずる。トッドは中産階級の若者の典型として描かれているのだろう。アーリアンという同級生の名前を聞いて「黒人なのに」と茶化すシーンがある。確実にアメリカの若者は時代に逆行している。いや、アメリカにまだまだ根強く階級意識と人種差別はあるということだろうか。 貧困層から這い上がってきた黒人学生2人は、そんなマレーの正義の意思を受け止め、アメリカを救うという正義に燃え自ら志願し戦争に赴く。そして彼らは、アーヴィン議員が画策したアフガニスタン高地占領作戦に従軍するも、誤ってヘリから墜落し敵の包囲陣に若き命はあっけなく消え去る。アメリカの正義と信じて赴いた、正義などない戦争で彼らは無駄に命を落とす。 そして、テレビで2人の死亡の報道を知ったトッドの脳裏にマレーの言葉が重みをもって蘇る。 野心に燃えるハーバード卒のエリート政治家、正義の牙を抜かれたベテランのジャーナリスト、机上で正義を論ずる大学教授、貧困層出身の正義に燃える学生、中産階級の社会に無関心な学生。立場が違う人間たちを登場させ、彼らそれぞれの正義が語られている。 トム・クルーズ演じるアーヴィン上院議員と、メリル・ストリープ演じるジャーナリストの取材中の丁々発止のやり取りが一つの見せ場となっているようだが、言葉を巧みにすり替えるタカ派議員の論理と、言葉の欺瞞性を衝いていくジャーナリストのやり取りはスリリングだけれどさして目新しくもなく、マレー教授が学生に語る論理もリベラルな意見としてすでに言い尽くされている論理だろう。 ![]() 本作について、キネマ旬報の本作映画レビューはなかなか手厳しい。 それぞれのレビューの一部分ですが…… ◆テーマを叫ぶだけで、観客に魅了しようという努力も忘れている。レッドフォードも老いた……、としみじみ。(渡辺祥子) ◆世界をリードする良心的アメリカ人の消えない懊悩のレポートを見るようだ。因果応報かと思う以上の、格別の簡明はない。(内海陽子) ◆結局のところ戦場で虫けらのごとく死ぬ兵士を美化する映画と見えかねなく映りました。……説教にしてもアメリカだけを意識するひどく内向きな議論に思えてなりません。(北小路隆志) 確かに、私自身も本作をみて感動も、はっとさせられるものもなかった。 しかし、あえて机上の論理で正義を語る、今更こんなことをと思う、こんな正攻法で本作を製作したロバート・レッドフォードの真摯さをこの作品から感じた。彼の真摯さに敬意を表したい。 アメリカだけを意識するひどく内向きな議論……こんな評に対し、アメリカ人であるレッドフォードが自国アメリカと向き合い、アメリカの正義を語り、次世代に語りつごうとするのも当然だろうと思うし、アメリカが抱える問題は決してアメリカ固有の問題だけでないはずなのだが、どこでアメリカだけを意識したと受とめたのだろうかと思う。こんな評を読むと日本人は日本を意識しろと言いたくなる。 アメリカの若者の大半は、1973年に徴兵制度が廃止され、トッドのように政治に無関心で享楽的に生きる若者が増えているのだろう。トッドもマレー教授の話がなければ志願した同級生2人の死を報じるニュースを聞いたとしても、恐らくは自分とは無関係の世界の話として彼の前を空気のように通り過ぎただけだろう。 戦争で肥大する国家と大企業。その企業に去勢させられ牙を向くこともできず疲れきった中年ジャーナリストといい、反戦デモの傷をかつての自分の勲章に、机上で学生達を指導する大学教授といい、かつて知識人階級として体制に切り込んでいくべき者たちの埋もれてしまった姿を曝け出し、戦争によって大国にのし上がっていった国家のエゴと戦争の実態を描き、若者の良心に訴え正義を託そうとする。 こういう形でしか、これ以上のことは、レッドフォードにとってはお題目だけの絵なのかもしれない。 この映画をみてアメリカはここまで、こんな崖っぷちまで来ているのかとも思う。 かつては盛んになされただろうマレー教授とトッドのような議論は、いまやアメリカでは白けた論議として敬遠されているのだろう。だからこそレッドフォードは、あえて、正義を論ずるだけで学生に望みを託す中年教授のプチブルさを曝け出し、社会や政治に無関心層が増えつつあるトッドたち若者たちへのメッセージとして、こういう作品をつくったのではないだろうか。そんな気がする。世界がどんどん右傾化していく今、もう一度「正義」について考える時ではないだろうか。彼のアメリカを思う良心と真摯さを感じる。 ![]() アメリカと向き合い、アメリカを描こうとするアメリカの良心。 コーエン兄弟は「ノーカントリー」でアメリカの闇を描き、そしてもうすぐ公開されるポール・トーマス・アンダーソンは「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」で、恐らくはアメリカの巨大な欲望を描いているだろう。 それぞれの世代が、それぞれの感覚、問題意識をもってアメリカを描いている。決して感傷的にならず躊躇うことなくその病巣を抉り、彼らの国であるアメリカを生々しく描いている。 そして、日本は、どんな映画作っている? 最近、かつて共産主義圏の東欧諸国の映画などをみても、こんなことが頭をもたげてくる。 この映画、リベラルの域を出ない映画だろうなと、観ようとも思わなかった映画だったけれど、「観ないと損するよ」って言われて、それならばと観た映画。 リベラルの域を出ない印象はあるけれど、それよりもレッドフォードの真摯さに感銘した。 議員とジャーナリスト、教授と学生。それぞれの立場の論理で応酬するやりとり。マレー教授とトッドの、ディベートで鍛えられている彼らのやり取りなどは、恐らくは日本の大学ではあまり見られない光景だろう。 アメリカ人がこの映画をどのように評価しているかわからないけれど、邦画でここまで丁々発止でそれぞれの立場を明確に論じ合う映画ってあった?って思う。 井筒監督が、在日挑戦人をテーマにした「パッチギ」で、オダギリ・ジョーにかつての日本と挑戦半島、南北38度線について説明させる場面をいれ「ここまで説明せんとあかんのかと思うと情けない」と語っていたことを思い出す。この映画みていてロバート・レッドフォードにもそんな気持ちがあったのではないかしらと思った。 監督: ロバート・レッドフォード 製作: ロバート・レッドフォード/マシュー・マイケル・カーナハン/アンドリュー・ハウプトマン/トレイシー・ファルコ 製作総指揮: ダニエル・ルピ 脚本: マシュー・マイケル・カーナハン 撮影: フィリップ・ルースロ プロダクションデザイン: ヤン・ロールフス 衣装デザイン: メアリー・ゾフレス 編集: ジョー・ハッシング 音楽: マーク・アイシャム 出演: ロバート・レッドフォード( マレー教授) メリル・ストリープ (ジャニーン・ロス記者) トム・クルーズ( アーヴィング上院議員) マイケル・ペーニャ (アーネスト) デレク・ルーク (アリアン・フィンチ) アンドリュー・ガーフィールド (トッド・ヘイズ) ピーター・バーグ (ファルコ中佐)
by mchouette
| 2008-04-30 00:00
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