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THE CLAIM
2000年/イギリス・フランス・カナダ/121分 監督:マイケル・ウィンターボトム 原作は「カスターブリッジの市長」。 「日蔭のふたり」以来、2度目となる文豪トマス・ハーディ原作の映画化。 舞台をイギリスから、19世紀のアメリカ西部開拓時代に移し、総製作費50億円を投じて厳寒のカナディアン・ロッキーの山中に、ゴールドラッシュ当時の街<キングダム・カム>を再現したという。 物語の終盤で、キングダム・カムの実力者ダニエル・ディロンが雪深いこの町に火を放ち、夜空を焦がすほどの町の炎上シーンは圧巻。 金鉱と引き換えに妻と娘を売り、巨万の富を築きキングダム・カムを我が物にし、のし上がってきた男が、愛と引き換えに手に入れたものの虚しさと自らの愚かさを責めるかのように、黙々と家々に火を放っていく。 ダニエル・ディロンを演じたスコットランド・グラスゴー出身の俳優であり映画監督でもあるピーター・マラン。グラスゴーを舞台にした「猟人日記」でも抑えた演技が印象的だったけれど、本作でも、悔恨と贖罪の入り混じった目、再会した妻が死にゆく傍らで、悔いても悔やみきれない苦さを押さえ込むかのようにみじろぎもせず、じっと椅子に座り続ける男の姿をじっくりと演じていた。 成功した男の前に、かつて自分の野望のために捨てた妻と娘が現れ、結核で余命幾許もない妻は娘の将来を男に託すために訪ねてきたのだった。お涙頂戴物語のメロドラマに陥りがちな一人の男の愛と贖罪のドラマを、ウィンターボトム監督は、町の将来を左右する鉄道開通事業を絡め、厳寒の大地に生きる開拓者たちの孤独な厳しさと、鉄道に自分たちの未来を託す希望をじっくりと静かに深く描いている。 マイケル・ナイマンの音楽が、悲哀を漂わせつつも力強く、時には優しく響き、終盤は、男の黙った無表情ともいえるその表情から逆に男の胸の内がひしひしと伝わってきてしっかりと涙が潤んでくる。 原題は「THE CLAIM」」 ディロンから妻子を買ったバーンは無一文で死んでいった。結核となり余命幾許もない妻は、娘の将来を案じ、父親であるディロンに対し、正当なる要求として娘ホープへの養育費を請求するために、病を押してこの町にやってきたのだった。この約束を口頭ではなく文書で交わすことを要求する。会話だけで、愛を売買した夫に対するエレーナの抵抗と抗議でもあるだろう。 ディロンの妻エレーナにナスターシャ・キンスキー、ディロンとエレーナの娘ホープにサラ・ポーリー、そしてキングダム・カムの酒場の女主人でディロンの愛人でもあるルチアにミラ・ジョヴォヴィッチ、鉄道測量技師ダルグリッシュにウェス・ベントリー。役者陣もそれぞれにしっかりとした演技力をもつ役者陣。とりわけルチアを演じたミラ・ジョヴォヴィッチが、勝気な中に、男の愛を求める女の切なさをみせ、なかなかの好演だった。 かつて若い二人が暮らしていた小屋で、ディロンが妻と再会するシーンも淡々と描かれている。男は謝罪の言葉を一言も口にせず、妻も男のかつての非情を責めるわけではない。ナスターシャ・キンスキーの若いときと変わらない大きな眼が、しっかりとディロンを見つめる。 「結婚しよう」「私達、まだ結婚しているわ」「ルチアが妻ではないの?」 「妻は君だ」 エレーナを再び妻として迎え入れたディロンは、彼女の膝にゆっくりと顔をうずめ、妻は優しく男の頭を抱きしめる。そんなシルエットに二人の愛が静かにつつましく描かれている。 「行きなさい。愛する人と離れたら、後悔がついてまわるわ」 死に際に母が娘に遺した言葉。 若い野心によってエレーナを売ってしまった後、誰もいない孤独な雪の中で、ディロンもまた取り戻せない後悔の中でエレーナの名前を叫び続けた日々があった。 母が死に、ディロンが実の父であり、かつて母と自分を売ったことをディロンの口から聞かされたホープは、愛するダルグリッシュの後を追って家を出る。ディロンは去っていくホープの背中に向かって幾度も名前を叫ぶ。娘として抱きしめることなく、父と呼ばれることなくホープは彼の元を去っていった。そして、地理的条件から鉄道がこの町を通らないことを知った住民たちも、キングダム・カムを捨て鉄道が通る町へと移動する。 町に火を放つディロン。 翌日、ホープとダルグリッシュによって発見されたディロンの手には、赤ん坊だった娘のホープをあやしたロザリオが握り締められていた。売られた妻と娘の手に残った愛する夫であり父であるディロンとのたった一つの愛の絆を示すものだった。「お父さん」ホープが初めてディロンを父と呼んだ。息絶えたディロンの耳には聞えない。こんなシーンにも涙が潤んでくる。 焼け落ちた町の銀行の焼け跡からディロンが蓄えた金の延べ棒が掘り起こされ、人々は我先にと群る。カメラはそんな人々を上から写し、次第にズームアウトしていく。人々の欲望の輪から離れるように、静かに二人の道を歩いていくホープとダルグリッシュの姿に、カメラの視線は移っていく。 ロッキーの壮大な自然を背景に、雪の降りしきる極寒の中で繰広げられる人間ドラマは、流す涙も、メロドラマ的な湿っぽさなど微塵もない映画。涙を噛み締めて生きていくしかない。それほどに厳しい開拓の時代。未来に夢と希望を持っているけれど、それが現実に繋がるのかは何も見えない。だからこそ愛する者の存在だけが確かなものとしてある。愛するものの絆の大切さが伝わってくる映画。 マイケル・ナイマンが音楽を担当した映画特集でCS放映された作品。他にナイマンが音楽を担当したウィンターボトム監督作品として、ロンドンに暮らすある家族の1週間をドキュメンタリータッチで描いた「ひかりのまち」も放映された。ありふれた生活のなかで、家族、夫婦、親子、男と女…色んな愛の様相が描かれていて、こちらもなかなか印象深い作品だった。 特集作品としてはこの他に、今でもメロディがこびりついている「ピアノ・レッスン」、そしてジョニー・デップ主演の「リバティーン」の4作品が放映。 「めぐり逢う大地」は今回初めて観た作品だったけれど、胸に深く静かな感動を覚える作品。ピーター・マランの演技が素晴らしい。 監督: マイケル・ウィンターボトム 製作: アンドリュー・イートン 製作総指揮: アンドレア・カルダーウッド/マーティン・カッツ/アレクシス・ロイド/マーク・シーヴァス/デヴィッド・M・トンプソン 原作: トーマス・ハーディ『カスターブリッジの市長』 脚本: フランク・コットレル・ボイス 撮影: アルウィン・H・カックラー 編集: トレヴァー・ウェイト 音楽: マイケル・ナイマン 出演: ウェス・ベントリー (ダルグリッシュ) ミラ・ジョヴォヴィッチ (ルチア) ナスターシャ・キンスキー (エレーナ) ピーター・マラン (ダニエル・ディロン) サラ・ポーリー (ホープ) シャーリー・ヘンダーソン ジュリアン・リッチングス ショーン・マッギンレイ
by mchouette
| 2008-04-23 00:00
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