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TAXIDERMIA
2006年/ハンガリー・オーストリア・フランス/91分 at:シネ・ヌーヴォー ブログ2年目の第一発目の記事。 「フィクサー」とか過去作品いくつか見た中で、2年目の栄えある第一作目映画として、別段エログロ趣味的な人間ではないのだけれど、私がぴたっとくるのが本作。決して一般受けする映像ではないけれど、かなり物議をかもした作品のようだけれど、時代を鋭く抉り、時代に翻弄された人間の捩れた内面に肉薄した作品として秀逸だと思う。さすがに少々ゲッと感じる映像がなくもないが、抉った沁みる痛い映画が好きな私向きの作品に違いない。 ………………………………………………………………… ハンガリーのパールフィ・ジョルジ監督作品。 サンダンス映画祭ではサンダンス・NHK賞を受賞し、またカンヌ国際映画祭では誰もが注目するも、その“規格外”の内容により、NHKが日本でのTV放映権を手離し、出資を見送るという異例の事態を生んだという作品でもある。 ![]() 本作の映画評を幾つか拾ってみると…… ◆『TAXIDERMIA』は、映画界におけるボディ・ホラーの基準を打ち立てる…。 どれほどのきわどく、グロテスクな映像かと想像するけれど、プレミア誌(グレン・ケニー)が語るように、「鑑賞に耐えられる人には、傑作。…」だと思う。 映像的に美しい映像を好む人とか、現実だけどリアルな映像は苦手という人は、あえて見ないほうがいいかもしれない。かといって、ヤン・シュバイクマイエルのようなシュールな映像を期待するとそれとも違う。 ハンガリーにおける3代にわたる物語。 祖父は第二次大戦の兵士 父は共産主義時代の大食いアスリート そして現代に生きる息子は剥製職人 冒頭から、祖父である男が兵舎の片隅で、ひたすらマスターベーションに情熱を燃やすリアルな映像とか、大食いアスリートの父がひたすら食べては、大量に嘔吐し、さらに次の競技に挑むといった映像とか、動物の皮を剥ぎ、内臓を取り出していく映像とか……見ている間は、前述したようにNHKが「規格外」として日本での放映権を手離したそんな映像に驚く場面もあるけれど、けっして誇張したものでもなく、現実をとてもリアルに詳細に映像化している。全体を通して描かれているトーンは、静かで、ダークで、時には殺伐として雰囲気がある。 見終わった後は、美しくもリアルな映像をみた後味の悪さなどはなく、愛に疎外され、抑圧された世界の中で、その欲求不満が捩れた形で性欲、食欲という人間の存在に関わる本能的な欲望に向い、そしてその欲望に支配されるという悲劇が痛ましく、そして生きたまま自らを剥製にするという形で自らの存在を示そうとする息子の世界観に至ってはやるせなさを感じる。 この祖父、父、息子という3代にわたる抑圧された状況と辿る運命は、オーストリア・ハンガリー二重支配から第一次大戦で敗戦し領土の大半を失い、更にドイツから脅威に曝され枢軸国側につくも敗戦、戦勝国であるソビエト連邦に占領されるもソ連に対するね強い反撥からハンガリー動乱が起こるが、ソ連に鎮圧される。そしてソ連邦の崩壊という、常に自国以外の強国の支配を受け続けてきたというハンガリーの歴史と重なる。祖父、父そして息子の周りには、それぞれの時代の空気がありありと描かれている。 祖父は、上官に絶対服従の支配を受け、上官の家族からは蔑まれる。そんな欲求不満を抱えた祖父は、性欲の妄想の中で得られぬ愛を成就させ、自慰行為に自らを解放する。そして肉欲の塊ともいえる上官の妻から餌をちらつかされ関係を結び、挙句の果てに上官から不倫の報復を受け射殺される。祖父の時代はまさに欲望のカオス状態の世界が描き出される。 生々しくテグロテスクだし、時には滑稽なほど悲劇的だし、彼が頭の中で自由に抱く妄想は奇想天外なファンタジー。翻弄され続ける居場所を持たぬ悲哀感も漂っている。 そして不倫の結果、生まれた父は肉欲の名残を受けてか、豚の尻尾を持って生まれてきたが、上官にいとも簡単にちょん切られ、満たされぬ欲求が彼を食欲に走らせ、戦後の共産主義政権下、大食いアスリートとして、欲望までもが支配、管理され、吐いては食べるという過酷なトレーニングに励み、国代表として名誉と威信をかけ大会に挑むも常にソ連が優勝。そんな共産主義世界に反撥し、抵抗するも叶わずストイックなまでの生活を強いられる。あげく妻との間にできた息子は、2人に似合わぬ痩せっぽちの息子。妻に裏切られた不倫の子。 祖父の時代のような悲劇はないが、頭の中の妄想の世界で自らを解放させる自由は父にはなく、彼の表情には虚無感すら漂っている 不倫の子として父から愛されることなく育った息子は剥製師となり、死んだ動物達と巨大な肉塊となった父の世話に明け暮れる無味乾燥な日々を生きる。生理的な欲望に囚われた祖父や父とは違い、芸術の領域にその欲望を向け自らの解放しようとする。「剥製術」に没頭し、究極の剥製作りを目指す。 誰からも認められず、忘れ去られる運命を辿ってきた祖父、父の連鎖の歴史を断ち切るように、息子は、亡くなった父を剥製にし、自らも生きたまま剥製となり、この世界にその存在を残そうとする。生きる歓びを得られぬ現実世界を見捨てた彼には、芸術の至高性よりもむしろ無常観を強く感じる。 作中の祖父と父の物語は、作家ラヨス・パルティナ・ナジの短編小説を基にして作られたものだが、3代目の息子の芸術に向う物語はパールフィ・ジョルジ監督のオリジナルだそうだ。 ハンガリーにおける3世代の物語として頭に浮かぶのはイシュトヴァン・サボー監督の「太陽の雫」 (1999) ハンガリーの歴史の中で常にファシズムの波に翻弄されるユダヤ人一家の盛衰を描いた作品でレイフ・ファインズが3代にわたる一族の男たちを一人で演じた作品。イシュトヴァン・サボー監督の「メフィスト」 (1981)、やタル・ベーラ監督の「ヴェルクマイスター・ハーモニー」 (2000)など、いずれも強国に翻弄された歴史をもつハンガリーの抑圧の歴史に根ざした作品だ。本作に脈々と流れているものは、こんな作品と通じるものがある。 ハンガリー人だった報道カメラマンのロバート・キャパを描いたドキュメンタリー映画「キャパ・イン・ラヴ&ウォー」の中で同じマグナムのメンバーのアンリ・カルティエ・ブレッソンが「キャパもそうだけれど、ハンガリー人は政治に敏感なんだ」と語っていた。常にファシストの嵐に翻弄され抑圧されたそんな歴史が、より自分と社会、政治という関係により敏感にシビアになるのだろう。 そしてこんな鋭い洞察力は、ハンガリーに限らず、ロシア・東欧諸国の映画に感じる。 歴史の中で人間がどのように存在してきたかを、こんな前代未聞ともいえる映像で、とてもリアルに描き出している。DNAに刻み込まれた数世紀にわたる精神的な抑圧と、その解放を希求する視点だからこそ描けた映画だと思うし、現実を、そして時代を見事に突いていると思う。考えさせられる作品だ。 ![]() ★2007年アガデミー賞外国語映画部門ハンガリー代表 ★2006年シカゴ映画祭 シルバーヒューゴ賞 ★2006年トランシルバニア映画祭 最優秀監督賞 ★2006年第37回ハンガリー・フィルムウイークグランプリ、批評家賞、最優秀助演男優賞・女優賞 ★2004年サンダンス・NHK国際映像作家賞 ヨーロッパ部門受賞 ★ブリュッセル・ヨーロッパ映画祭 アイリスアワード(最優秀作品) ★ユーラシア映画祭(アンタリヤ)最優秀監督賞 ★タリン・ブラック・ナイト映画祭 批評家最優秀作品賞 ★Europeanfilms.net 2006年最優秀ヨーロッパ映画賞 監督: パールフィ・ジョルジ 原作: パルティ・ナジ・ラヨシュ 脚本: ルットカイ・ジョーフィア/パールフィ・ジョルジ 撮影: ポハールノク・ゲルゲイ 衣装: パトコーシュ・ユーリア 音楽: アモン・トビン 出演: ツェネ・チャバ 祖父(モロジュゴバーニ・ヴェンデル) トローチャーニ・ゲルゲイ 父(バラトニ・カールマーン) マルク・ビシュショフ 剥製師の息子(バラトニ・ラヨシュ) コッパーニ・ゾルターン ハンガリーの大食い選手(ミスレーニ・ベーラ) シュタンツェル・アデール 母(アッツェール・ギゼラ) ヘゲドゥーシュ・デー・ゲーザ レグーツィ・アンドル博士 パルティ・ナジ・ラヨシュ
by mchouette
| 2008-04-17 00:00
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