![]() by mChouette 検索
カテゴリ
全体 ■映画 =映画:あ行 =映画:か行 =映画:さ行 =映画:た行 =映画:な行 =映画:は行 =映画:ま~わ行 ■映画・雑記 ■ドラマ ■展覧会・コンサート ■一冊の本 ■徒然なるままに… ■美味しいもの ■アウトドア・旅 ■勝手にバトン ■ご挨拶・お知らせ 未分類 最新の記事
その他のジャンル
|
BLOOD SIMPLE the thriller
1999年/アメリカ/95分 アカデミー受賞に刺激されコーエン作品をと思い、何を観るかってなると、やっぱこれだなと観たのが本作。眩しいくらいに真っ白な雪の中、白昼堂々の犯罪「ファーゴ」と違い、本作の犯罪は闇の中で静かに起きていく。 コーエン兄弟の映画デビュー作品であり、話題作となった1984年「ブラッドシンプル(原題:BLOOD SIMPLE)」を、製作当時、お粗末だった撮影技術だったのを15年後、最先端の映像技術でもって再編集したのが本作「ブラッドシンプル/ザ・スリラー」。 コーエン兄弟自らが再編集を行い、新たに創作・撮影されたイントロダクション“Forever Young Films”(これがなんとも遊び心あるイントロ!)を冒頭に付け加え、更にシーンを削除、挿入し、サウンド・トラックも新曲を加え、そして、なんと1984年オリジナル版よりも4分短くなったのが本作。長くなるのが普通のディレクターズ版を短くしているとは、彼らの作品に対するシビアかつクールな姿勢がうかがえる。「ブラッドシンプル」よりも更に精鋭作品となった「ブラッドシンプル/ザ・スリラー」 ![]() 観れば観るほどに、観るたびに、本作はコーエン兄弟作品の原点であり、彼らがその映像を通して描こうとしているテーマ、映像センス、テイストなどなど、彼らの作品に以降も一貫して貫かれているものが、ここに詰まっているといえる作品だと思う。 不倫、暴力、疑惑、裏切り、嫉妬、殺意といった人間が持つあらゆるネガティブな感情や思惑が絡み合い、交差し、ちょっとしたボタンの掛け違いで、日常生活の中で犯罪が引き起こされ、思いもよらぬところで犯罪に巻き込まれ、追い詰められ、自ら墓穴を掘るか、次の犯罪へと引きずられていくか……。 極悪非道でも冷酷無比な人間ではなく、小心者の、ごく普通の人間たちが追い詰められた挙句にとる行動とは…ブラックユーモアというには、滑稽であり、哀しくもあり、寂しげであり……意味深な台詞、何気ない小物、拘ったディテール、効果音…そんなコーエン兄弟の映像。 ……………………………………………………………………………… 「ここテキサスじゃ、隣人に助けを求めても逃げられるのがオチだ。誰も助けてはくれない。」 こんな寂しい言葉。そしてこんな映像。 車のライトに照らされた夜の道路。先は見えない。ライトで照らされた車線が飛ぶように後ろに流れていく。全速力で走っているんだろう。何かに駆り立てられるような映像。 登場人物は4人。舞台はテキサスの田舎町。 酒場を営むマーティ(ダン・ヘダヤ) マーティの妻のアビー(フランシス・マクドーマンド)。 酒場の従業員でアビーの浮気相手のレイ(ジョン・ゲッツ)。 そして妻の浮気を疑いマーティが素行調査を依頼した私立探偵ローレン(M・エメット・ウォルシュ) ![]() マーティの妻のアビーは猜疑心の強い夫マーティにうんざりしている。 レイはマーティに本気だ。 マーティからアビーの尾行を依頼された私立探偵は、ご丁寧に二人の浮気現場の写真までマーティに見せて彼を煽る。 逆上したマーティはレイの家にいる妻を連れ戻しに行き、反対にアビーに人差し指を骨折するほど噛まれ、股間を思い切り蹴り上げられ、根が小心者だけに、そんな男ほど思いつめたら怖い。私立探偵に二人をやってくれと依頼する。 そこで探偵は考えた。二人を殺して報酬の大金を手にしても、マーティがその犯行を知っている。それならば、写真に細工して、二人を殺害写真を偽造して、マーティから金を巻き上げ、マーティを殺したら、死人に口なしだと。そしてアビーの銃で撃てば完璧だと。そしてマーティにはアリバイとして2.3日店を休んで魚釣りにでも行っておけ、その間に始末すると殺しを引き受けるふりをする悪意の探偵。 数日後、でっち上げた殺害写真をもって探偵とマーティは店の事務所で密かに会う。 探偵はご丁寧に、マーティが魚釣りに行った証拠として魚を机の上に置いた。紐で数珠繋ぎされて横たわる魚4匹。 クローズアップされた魚に、初めて見たときは何の意味かよく分からなかった。悪意の連鎖で図らずもつながったマーティ、アビー、レイそして探偵の4人を指すのか。はたまた、最後に銃で撃たれて床にドデンと横たわる中年太りの探偵の末期の姿の暗示でもあるだろう。 そして、些細な思い違い、執着、自己保身が思わぬ結末へと男たちを引きずり込んでいく。 天井の扇風機のモーター音。シャベルが地面を引き摺る音。覆った布からゆっくりと滲みでる血。死んだはずのマーティの留守電の声……。 ![]() 人は直接、相手の身体に手を下さなければ、間接的には人を殺せるものなのだ。追い詰められたら「それ」しか考えられない。 事務所でマーティが撃たれて死んでいるのを発見したレイが、アビーの仕業と思い込み、死体を始末するため車に乗せたものの怖くなって途中で車から逃げ出し、もう一度戻ってきた時、かろうじて生きていたマーティが車から這い出して地面に這いつくばって前に進もうとしていた。そんなマーティにレイはシャベルで彼を殴り殺そうとするけれど、眼の前の彼の身体にシャベルを振り下ろせない。穴を掘り、そこにレイを寝かせ彼の身体に土をかけていく。残された微かな力で抵抗するマーティを、土が被って姿が見えないマーティを、レイは力任せでシャベルを何度も振り下ろす。相手が見えなかったら、人は恐怖におののきながらも、こうやって人を殺せるものなのだろう。 レイが事務所でマーティを見つけてからここに至るまでの、さして度胸のない優男のレイの行動つぶさに描き、彼の内面をじっくりと見つめる。ありふれた人間の、その中の暗部を引きずり出して、丁寧にその襞を広げて描いていく。日常の中で、どこにでも犯罪は転がっている。 そして物語の終盤。 銃声が1発。壁に穴が穿たれ、光線が暗闇の部屋に差し込む。 また1発。また1発。細い光線が増えていく…… 部屋の隅でこれを見つめるアビーの心臓は恐怖で凍りついていただろう。 1984年のオリジナル製作にあたり、この壁から差し込む光の映像を模したフィルムを見せて、製作の約5年前から資金調達のため動いていたそうだ。この映像イメージはその時から既に彼らの頭の中にあったということ。 暗闇に光が差し込むシーンには、いい知れぬ不安と恐怖をかきたてる。 初めてこんなシーンに出会ったのは、ダニー・ボイル監督作品「シャロウ・グレイブ」(1995)で、偶然手にした大金を狙う奴らから守るため天井裏に隠れたデヴィッドが天井に無数の穴を開け、室内の仲間さえも見張っていた。天井から細い光線がベッドにいる彼らの部屋に差し込む映像があった。このシーンにはかなり惹きつけられたけど、ボイルよりも10年も前に、コーエン兄弟はそこんな視覚イメージを作り上げていたということなんだ! ドアの向こうにいる男。マーティが生き返って復讐してる! そう思い込んでるアビーはドアの向こうの男めがけて両手に銃を握り締め発射する。撃たれた私立探偵は、そう机にドテッと置かれた魚のように中年太りの腹をみせ仰向けに横たわる。彼の顔の真上に見えるのは洗面所の排水パイプ…排水パイプから水滴が……落ちたかと思うその瞬間。暗転してエンドクレジットに……。 フォー・トップスの「It's the Same Old Song」の曲にのって繰り広げられる疑心暗鬼に駆られた者たちの愛憎と打算のドラマ。悲劇の運命を辿る男たち。 何の小手技もせず、ドラマティックな盛り上がりも見せず、ただ時間軸にそって彼らの犯罪を、そして精神的に追い詰められ、彼らのいる空間が徐々に狭まっていく様を描いていく。 95分画面に釘付けは必至。 映画のコピーは「哀しいほど滑稽な殺人」 そして考えると、一番怖いのは、一人無傷なアビーかも。 「愛しているわ」その言葉の裏に潜む女の本性。それをレイは死ぬ間際に思い知る。 コーエン兄弟は、出演者にはあくまでも脚本に忠実になってもらうと語っている。撮影に入る前に二人で綿密に完成させた脚本にアドリブは一切ない。 張り巡らされた伏線。何気ない小物とか、何気ない台詞の一つ一つが話の展開の中で重要な役割を帯びてくる。二人の頭の中で練りに練られた脚本。ディテールに懲りまくった映像。 ここから病みつきになるコーエン兄弟の作品。 新作「ノーカントリー」は大阪は3月15日から公開。 いやでも期待が高まる! 監督: ジョエル・コーエン 製作: イーサン・コーエン 脚本: ジョエル・コーエン/イーサン・コーエン 撮影: バリー・ソネンフェルド 音楽: カーター・バーウェル 出演: ジョン・ゲッツ フランシス・マクドーマンド ダン・ヘダヤ サム=アート・ウィリアムズ M・エメット・ウォルシュ
by mchouette
| 2008-02-29 00:00
| ■映画
| |||||||||
ファン申請 |
||