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MY FATHER, RUA ALGUEM 5555
2003年/イタリア・ブラジル・ハンガリー/112分 劇場公開時に一度見たきりの作品で、ずっと心に引っ掛かり、ある意味愕然とした思いに囚われた作品でもあった。ミニシアター上映で、その後レンタルショップでも見当たらなかったので、ひっそりと忘れ去られる作品なのかもしれないけれど、描いているテーマは、第二次大戦後の戦後社会に対して鋭く切り込んだ作品として、そして「父と息子」を描き、「人間」にとって普遍的なテーマを描いた作品として、多くの示唆を孕んだ作品として、もっと評価されるべきだと思うのだけれど、テーマが重く直截過ぎるのだろうか。見終わった後、重いけれど深く静かな感動を覚えた作品だった。 ![]() 本作はそのテーマにより、世界でも一般公開は少なく、配給会社も世界で「アルシネテラン」だけだという。私は2004年11月、大阪ヨーロッパ映画祭に出品された本作を、その上映劇場の一つであったシネ・ヌーヴォで鑑賞した。 そして、今回この映画の作品情報を調べて驚いてしまった! 「私は自らを正当化することなく、全てをお前に語ろうと思っている。お前は事実を見ていない」極秘裏にブラジルに暮らす父と会い、絶対的な尊厳と信念をもつ父の前で、それを打ち崩す論理も言葉もなく、そんな虚無感とやるせない怒りからか思わず木片を拾い上げ彼を殴ろうとする。父はそんな息子を「息子は一度は父を殺したいと思うものだ」と毅然とした眼差しで見つめる。 父とはヨゼフ・メンゲレ。 戦前のドイツで高い教育と教養を身につけ、哲学博士であり、理学博士であり、そしてナチス政権下で数々の人体実験を行い「アウシュビッツの死の天使」と恐れられ、その首には5桁の懸賞金がかけられ、世界がその行方を追っている戦争犯罪人ナンバーワンである男。 そして息子ヘルマンは、父を知らずに育ち、級友や教師から謂われなきイジメと差別を受けて育った。そして15歳の誕生日の時に、謂われなき迫害の原因が、「メンゲレ」という父から受け継いだその姓にあることを知る。以降、彼は姓を隠すため「ヘルマン・M」と名乗った。そして息子は、戦後民主主義教育を受けて育ち弁護士となった。 1985年、ブラジルでヨゼフ・メンゲレとされる墓が見つかり、埋葬された遺体がメンゲレ本人かどうか確認するための遺体掘り起こし作業が行われた。そして息子であるヘルマンはその現場に立会うためにブラジルを訪れた。彼にとっては二度目のブラジル訪問の旅であった。その現場にはユダヤ人の弁護活動をしている弁護士ポール・ミンスキーもいた。彼はメンゲレの死が偽装されたのではないかと疑いを抱いており、彼の息子へルマンに厳しく問いただす。やがて、へルマンは8年前に父とたった一度だけ、かつてこのブラジルで会った時のことを語り始める。 物語は今と8年前と交錯させながら語られていく。 原作は、ヨゼフ・メンゲレの息子が厳しい国際的な追及の眼をかいくぐって父に会いに行った、その実話と、さらにヨゼフの5000ページにも及ぶ日記と自叙伝的な書き物を元に、ペーター・シュナイダーが執筆した小説「Vati(父よ!)」が元になって映画化されたものである。 父に会って何を期待したか?そして彼の目の前にたったその男。父親。高い教養とカリスマ性のもつ人物として、村人たちから「ドクター」と尊敬の眼差しで慕われ、ナチ崇拝者たちの庇護の元に暮らしていた。 圧倒的な存在感をもって息子と対峙する父親ヨゼフ・メンゲレにチャールトン・へストン。 彼にとって本作がおそらくは最後の映画出演作品だろう。2002年8月、自らがアルツハイマー病であることを公表した後、その病をおしての本作出演だった。 ![]() 息子ヘルマン役には、「戦場のピアニスト」で主人公が弾く「月光のソナタ」のピアノの音色に惹かれ、彼がユダヤ人と知りながら見逃すドイツ人将校を演じたトーマス・クレッチマン。 ![]() そして弁護士ポール・ミンスキーには「アマデウス」でモーツァルトの才能を愛し、そして憎んだサリエリ役のF.マーレイ・エイブラハムが演じている。 ![]() 3人がそれぞれのキャラクターを存在感をもって演じているのは、映画作品としては非常に見ごたえがある。特にチャールトン・へストンの威圧感すら覚える存在感なくしては、この映画の緊張感はなかっただろうと思う。 この映画は、単にナチの戦犯としての父とそれを糾弾する息子といった対立の構図や、そして戦犯であるとともに父であるという、息子へルマンにとっては、二面性といえる葛藤を描いただけではなく、戦後社会で封印されてしまったものとは一体何だったのかを突きつける。 人種淘汰、人種改良、人種の純潔、アーリア化を唱えるナチス人種理論の信奉者であり、ヒトラー政権下で数々の人体実験を行い「死の天使」と恐れられた医師ヨゼフ・メンゲレを父に持つ青年が、彼の息子であるがゆえに背負わされた重い宿命に苦悩し、父と対峙し、激しく葛藤する姿を描いた作品であり、もう一方では、ナチス政権下、死の天使と恐れられた戦争犯罪人ヨゼフ・メンゲルと、戦後民主主義の教育を受けた彼の息子を対峙させることにより、ナチズムがもたらした問題を、ナチの犯罪として封印してしまった問題を、もう一度社会に、見ている私たちに問い直そうとする作品だろう。 ヨゼフ・メンゲレの根底にしっかりと根づいているドイツ的世界観……これはまたナチスによって、人種淘汰、人種の純潔、アーリア化を唱えるナチス人種理論へとつながっていく価値観でもあり、それは戦後世界が、ファシズム、ナチの悪といった名のもとに「タブー」として封印してしまった思想でもある。 森に遠出した時、父ヨゼフは「均等な距離をもって存在している木など1本もない。どの木も自らの土を獲得しようと戦っている。この森も戦場だ。お前にはこの戦争は理解できないだろう。」民族にとって人種淘汰の正当性を主張し、それは戦いであるという父ヨゼフ。それを戦争を知らない世代であるヨゼフひいては私たちに投げかけられた言葉だろう。 今、この世界で繰り広げられている紛争。宗教、民族、人種による差別や大量虐殺。映画でもどれだけ描かれていることか。メンゲルの語る世界観、思想がいまだに世界を覆っているという事実。戦後社会において検証しなければならない人類の課題までもが一切合財「ナチの悪」として封印してしまったこと。そこから噴出する戦後のおぞましい現実。 父を知らぬまま、何の罪も犯さないまま罪を背負わされてしまった僕の人生にせめて残された権利によって、破滅させてやりたかった。父を理解し、父に自首させるためのブラジルへの旅だった。しかし息子は、父と何ら接点を見出せず、父に反論する言葉ももたず、父を告発することもできず、そして父を殴りたい衝動を覚え、暴力で父を打ち倒そうとしている自分に愕然とする。袋小路の闇から抜け出すように、ヘルマンはそこから逃げた。 「なぜ彼を見逃した」 弁護士ポール・ミンスキーはヘルマンを問いただす。 「息子だから。だから、あなたは今こうして、私から父について全てを聞きだそうとしている。」 父よ、あなたは本当に罪人だったのか? 一人の人間に罪を封じ込めてしまうのは容易い所業だ。 ナチの悪行、狂気として第二次大戦を総括することは容易い。 しかしヘルマンは、父と向き合い、父を乗り越える明快な答えを見出せないまま、父と訣別するしかなかった。 父と会う旅は、彼の中で父の罪がより明確になり、自分がその男の息子であるという事実を、より明確にさせる旅となり、訣別してもなお、息子として父の犯罪を引き受ける宿命にある自らを思い知る。そして、このヘルマンの宿命とは、戦後社会の我々が引き受けなければならない宿命でもあるということ。そして本作は、精神世界を失ってしまった戦後社会をも見つめなおすテーマを提示している。 「あなたも、そして、あなたの子供も、子孫の代まで、この罪を背負わなければならない宿命にあるのだ!」ユダヤ人の弁護活動をしている弁護士ポール・ミンスキーはこの言葉を背中に浴び、ヘルマンは父の墓を立ち去る。 そんなシーンとこの言葉が脳裏に焼きついているけれど、改めて本作を見てみると、この言葉はヘルマン自身が語っていて、あれっと思ったけれど、いずれにせよ、この言葉の重さ、そして人類の犯した過ちは人間である以上、世代や民族を越えて引き受けるべきものであるということの重さが胸にのしかかった。 そして、映画を観てショックだったのは、ヨゼフ・メンゲレの語る論理に対し、戦後教育で育った息子が、人道主義的な立場で戦争犯罪者として父を告発するけれど、彼と対峙する論理を持っていないというその事実。戦後社会のその脆弱さに愕然とした。 二人の間で交わされた議論やヘルマンの反応、ヘルマンが父に会う前に父を弾劾しようと目論んだ戦略が失敗だと悟るに至る、この父と息子のやりとりの内容をもう一度じくっくり確かめたいと、映画を見終わり、ときおりこの映画を思い出す度に、この思いがしこりとなって残っていた。 以前にジョゼ・ジョヴァンニ監督の「父よ」の後に、本作の感想を上げたかったけれどDVDの入手が困難で今になってしまった。 見たくないけれどDVDパッケージは以下↓ なんとも、やりきれないこのタイトル。 ![]() 監督: エジディオ・エローニコ 製作: ゲラルド・パリエイ 原作: ペーター・シュナイダー 脚本: エジディオ・エローニコ/アントネッラ・グラッシ 脚本協力: ファビオ・カルピ/ペーター・シュナイダー 撮影: ヤーノシュ・ケンデ 音楽: リカルド・ジャーニ 出演: トーマス・クレッチマン チャールトン・ヘストン F・マーレイ・エイブラハム トーマス・ハインツ ドニーズ・ワインベルク オディロン・ヴァーグナー カミロ・ベビラクワ マリット・ニッセン ペトラ・マリア・ラインハート
by mchouette
| 2008-03-28 00:00
| ■映画
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