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LUST,CAUTION
色・戒 2007年/中国/158分/R-18 at:TOHOシネマズ梅田 <加筆してます。> まだ2年前の「ブロークバック・マウンテン」を観た後の、胸に押し寄せてきたあの感覚が蘇ってくるというのに、そして先日のヒース・レジャーの急死に、再び思い出してしまったというのに…… 「LUST,CAUTION色・戒」は、女は男の愛と正義の誓いの二つを抱きしめて死を選び取ったのだろう。そして男は、女の中にたった一つの真実の光を見てしまったために、より一層の孤独の淵に立ってしまった…… そんなラストに、「ブロークバック・マウンテン」のあの押し寄せるような感動の波とは違い、胸に重く深く沈んでいくような鈍い鉛のような嘆息をついた。 ブロークバック・マウンテンの次にどんな作品が?と期待していたら、アジアを舞台に、当時の歴史の重さと暗さを体現するような、男と女の凄まじさを感じるほどの愛の姿を描いてみせた。 それが決して生々しさを感じさせず、むしろ透明感さえ感じるのは、やはりアン・リーならではの映像センスだろう。 「アン・リーは云う、中国語で“LUST”は仏教用語の“欲情”を意味し、“CAUTION”は”戒め“を意味する。つまり「自己の欲望を戒めなさい」と諭すものだが、この言葉には著者の張愛玲が託した二重の意味があると。 1938年の日華事変によって日本に占領された上海。日本軍の脅威にさらされ、スパイが暗躍し、中国人同士が命を狙いあう凄惨な時代を背景に、抗日運動に燃える一途な正義感に溢れた若者たちが、その純粋さゆえに時代に巻き込まれた悲劇の物語でもあるし、傀儡政権下で同胞である中国人を次々と血祭りにあげていくという、誰も信用できるものなどいない孤独な状況に生きる男が女の眼の中に一途な純粋さを見、愛してしまった一人の男の悲劇の物語でもあるし、そして女子大生のワン・チアチーの何が彼女を、純粋さと大胆さをもってスパイという役割を演じさせたのだろうか。母が死に父は故国を捨て英国に渡り再婚し、一人上海に置き去りにされたという孤独が、彼女をスパイとしてマイ夫人という別の人生を生きる大胆さを彼女に与えたのだろうか。マイ夫人としてイーを愛し、チアチーとして仲間たちと誓った正義を持ち、イーから贈られたダイヤの指輪に、男の愛を知り、自らもすでに男を愛してしまっていたことを、芝居ではないことを思い知り、相容れることのない二つに殉じることを運命とした一人の女の物語だろう。 母の死、英国に脱出した父の再婚。一人故国にいるチアチーにとっては、父の再婚は「愛」に対する裏切りとも感じたことだろう。「愛」へのこの不信感が、彼女を「愛」に対し残酷に、大胆にさせたのだろう。 仲間のクァンに互いに愛の予感を感じているけれど、彼は一人危険な役割を演じているチアチーに対する自責からか、彼女への愛を躊躇っている。クァンのそんな躊躇いに、挑戦するかのように、イーに近づくため、躊躇いもなく劇団仲間の一人に身を委ね処女を捨てる。 イーとチアチーの二人の大胆なセックスシーンが話題になっているけれど、官能というような、そんな甘いものではなく、崖っぷちの中で、生きている実感を貪りあうような切迫感に凄まじさすら感じさせる。女の中に真実を見出そうとする男と、その男の鋭い視線に切り刻まれながらマイ夫人を演じきる女の凄まじさ。どれほど大胆な姿であっても互いに血を流しながら相手に切り刻んでいくような、そんな悲劇的な美しさに圧倒される。 官能的な大人の色香よりも、少女のような無垢さを漂わせたタン・ウェイの透明感のある雰囲気と、トニー・レオンの無色な色気が、生々しいシーンにあっても、二人の間に生まれる愛を痛いほどに感じる。 トニー・レオン。彼は凄い役者だわ。 「悲情城市」では言葉にならない声で必死に思いを伝える、一人のひたむきな聾唖の青年役を演じ、「「恋する惑星」で人生に疲れた警察官を演じ、「ブエノスアイレス」ではレスリー・チャンとの刹那的な同性愛を演じ、「花様年華」「2046」で愛の彷徨者を演じ、「インファナルアフェア」では喪失したアイデンティティにもがきながら香港マフィアに潜入する警察官を演じ…それぞれにトニー・レオンなのだけれど、演じた役だけ、それぞれに違うトニー・レオンがいる。 映画を見終わった後、何度、深いため息をついたことか。 イーとチアチーの二人にきっちり焦点をあてながら、そこから緊張を孕んだ激動の波に揺れる当時の上海、時代に翻弄された者たちの悲劇、時代の悲劇を確実にアン・リーは映像に描いている。 何かがひたひたと忍び寄ってくる、そんな時代の足音が、ジャック・オディアールの全ての作品の音楽を手がけているアレクサンドラ・デスプラの音楽から伝わってくる。 「ハルク」を撮り終えた後、監督業をやめようかと考えたとは思えないアン・リー監督。 「ブロークバック・マウンテン」といい、本作「ラストコーション」といい、更に、映像に濃度が増してきたように思う。 本作について、アン・リー監督は、本作は「”人生への欲望“と”社会への警告“。そしてそれは全てひとりの女性の視点によるものなのです。」と語っている。 作品に対する彼のこの冷静な距離感。 そして、刹那の一瞬に永遠を、生を、愛を求めたイー、チアチー、クァンたち。あの時代そのものが、そんな時代だったのだろうか。いくども繰り返し語られるテーマであることも確かだ。 とりあえず見た後、直ぐに感想あげました。 直ぐに言葉が見つからず、探しあぐね、後から言葉がふつふつとわいてきて、加筆してしまいました。 もう一度劇場に観にいって、今度は微妙な雰囲気を存分に堪能しようと思います。 監督: アン・リー 製作: ビル・コン/アン・リー/ジェームズ・シェイマス 原作: チャン・アイリン 『ラスト、コーション 色・戒』(『アイリーン・チャン短編集』所収) 脚本: ワン・フイリン/ジェームズ・シェイマス 撮影: ロドリゴ・プリエト プロダクションデザイン: パン・ライ 衣装デザイン: パン・ライ 編集: ティム・スクワイアズ 音楽: アレクサンドル・デスプラ 出演: トニー・レオン タン・ウェイ ワン・リーホン ジョアン・チェン トゥオ・ツォンホァ チュウ・チーイン チン・ガーロウ クー・ユールン ガオ・インシュアン ジョンソン・イェン
by mchouette
| 2008-02-03 01:03
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