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「ボーン・アルティメイタム~最後通告」
今から言うことをよく聞け。 「グッド・シェパード」でマット・デイモンの沈黙の演技がとってもよくって、ジェイソン・ボーンシリーズは好きな作品だけど、ここにきて私の中でマット・デイモン株が一気に浮上してきたから、11月10日から公開の「ボーン・アルティメイタム」が待ち遠しい。 記憶を新たにということで「ボーン・アイデンティティー」「ボーン・スプレマシー」一気に観ました。 DVDなので特典映もあって劇場鑑賞とは違う充実で一杯。 今夜は「ボーン・アイデンティティー」だけ…と思ったけれど、この作品には好きなシーン、ぐっとくる台詞が結構ある。「アイデンティティー」に引きずり込まれた勢いで「スプレマシー」も続けて観てしまった。 「ボーン・アイデンティティー」の監督はダグ・リーマン。 インディーズ出身の監督で、高校生の時に原作に熱中して、次の映画は「アイデンティティー」ときめていたそうだ。自ら映画権をとり、原作者のロバート・ラドラムは製作総指揮に加わる形で彼を支援している。映画の完成を待たずになくなったそうだ。 特典映像で、作品の監督コメンタリーを観たら、インディーズ出身の監督らしく、本作についても、自分のイメージ・ビジョンに対し徹底した拘りを持っているみたい。 自らカメラを持ってイメージするカットを撮っている。人ごみに紛れて彼とマットだけで撮影したシーンもあるそうだ。パリの北駅でも、撮影許可を取ったシーンは映像に緊張感が欠けるため、マットと二人で駅をうろついて、隠れて撮影したといったエピソードも語っていた。 ディテールにまで、ディテールだからこそ拘る映像。 台詞で説明するような映像にはしたくない。 役者の表情、演技、アクションを通じて、記憶を失くしたジェイソン・ボーンという、アメリカ政府が巨額の資金を投入したプロジェクト「トレッド・ストーン計画」で鍛え上げられた暗殺者である一人の男の実像を鮮明に描き出す、そういう映像にしたいんだ、とダグ・リーマンは語っている。 彼がいかに沈着冷静な男であるか、記憶を失くし自分が誰なのかも分からず、鋭い危機察知能力を持ち、コンピューター並みの緻密な状況把握ができ、それに基づいた行動が出来、向かってくる相手に対し確実に倒せる身体能力を持ち、数ヶ国語を巧みに操り、これらは確実に彼の中にプログラミングされたように反応する自分がある。それは分かる。でも僕は一体誰なんだ。喪失したアイデンティティー、鋭い感覚、生命を脅かすものの正体が見えないまま彼の鋭いレーダーが感じる危機的状況。 緊迫感と喪失感と焦燥感と、そして誠実さと……それらが台詞ではなく映像によってびんびん伝わってくる。 嬉しいのは、私が「おっ!」と思ったシーンとか台詞、さり気ないけれどその一言でぐっと胸にくる台詞が、監督の作品コメンタリーでダグ・リーマン自身が拘った場面、台詞として語っている。クリス・クーパーやブライアン・コックスみたいな役者がいる。 トニー・ギルロイの脚本にでてくるような台詞がかける脚本家が欲しい。 インディーズの時は「~みたいな」のを探したが、「さすがユニバーサル・スタジオ」みんな本物が来た、とダグ・リーマンは語っている。 ダグ・リーマンの拘りの映像演出と、トニー・ギルロイの脚本が、この作品をスパイ・アクション映画ではなく、人間ドラマとして、魅力的な作品に仕上がっている。 3作全て脚本を手がけたトニー・ギルロイが出した台詞が随所で生きている。彼の練りに練ったひねりのきいた脚本、役者の演技が、関係の力関係、思惑などが見えてきて、それが映像をさらに緊張を引き出している。 さり気ないけれどぐっと胸に刻まれる台詞。 「アイデンティティー」で一番好きな台詞は、ボーンがマリーに、 「知っている人は君しかいない」という言葉。記憶を無くし常に誰かに命を狙われている彼にとって、だからこそ、こんな、孤独の中でマリーという女性が彼の唯一人の温もりを感じさせる存在であることが、痛いくらい伝わってくる。 ダグ・リーマンは、マリー役のフランカ・ポテンテは、この台詞で出演を決めたのだろうと語っている。 「スプレマシー」の方で、特に好きな台詞は、ボーンが自分を落としいれようとしたCIAの黒幕を追い詰めた時、「一息に殺せ」という男に向かって 「マリーが嫌がる。だから生かしておく」 と男の元に拳銃と、二人の会話を録音したレコーダーを置いて立ち去った。この台詞。 この男が自分を貶め、マリーが身代わりになって死んだ。けれど、そんな復讐よりも、ボーンが追ってくる暗殺者に銃を向けた時、マリー言った「ヤメテ」これがマリーの最後の言葉だった。そのマリーの気持を大事にしたい。ボーンにとってマリーがどれほど大切な存在であったか、だからこそ、男に対するボーンの憎しみを分かるし、深い悲しみも分かる。だから「マリーが嫌がる。だから生かしておく」 というこの台詞もまた、ぐぐっとくる。 別の捜査から「ジェイソン・ボーン」という一人の男、そしてCIA内部で封印されている「トレッドストーン計画」の存在を知り、暗殺者とは違う立場でジェイソン・ボーンを追うCIAの切れ者の女性パメラがこのテープを聴く。 この切れ物のCIA幹部役を演じるジョーン・アレンが「スプレマシー」ではとても魅力ある存在。このテープによって彼女が追っている事件の真相を知ることになり、そして、このボーンの言葉は彼女の琴線に触れたんではないかしらと思う。 「ボーン・アルティメイタム」でも、ジョーン・アレンは出演している。ボーンとどのように絡んでくるのかとても楽しみ。 そして、そんなさり気ない台詞とかシンプルな映像から、ジェイソン・ボーンの心が見え、それを受け止めるマリーの心情も伝わってくる。 失った過去に向って歩いていくボーンは、自分の歩いた後ろを振り返らない。ドジもしないし、失敗もしない。あらゆるデータがプログラミングされた頭脳で、確実に状況判断をし、一番無駄がなく効果的かつ効率的な手段で、確実に過去を手繰っていく。 ジョン・バウエルの作曲がそんな映像をさらに刺激的に盛り上げる。 ダグ・リーマンは、「ボーン・アイデンティティー」は「オズの魔法使い」みたいな映画なんだと言う。家を見失ったボーンが、家に帰ろうとして家を見つけようとする。でも彼が帰った家は偽りだったということに気づく。彼の目の前、マリーが彼の家だということに、彼はようやくたどり着くんだ。 ジェイソン・ボーンから金と引き換えにパリまで乗せたために、マリーまでがボーンの危険な世界に巻き込まれてしまった。「アイデンティティー」はボーンとマリーの物語でもあって、ハリウッド映画なら、二人のセックスシーンなどもサービスで入るのだろうけれど、リーマン監督は「ボーンには恋愛は許されないんだ。そんなことを考えるだけの余裕などないんだ」と語る。1秒たりとも気が抜けない張り詰めた状況にあって、そんな甘い時などは二人にはない。 そんな硬派の二人の雰囲気がまたいい。 ハリウッドの女優を使わずにドイツ人のフランカ・ポテンテのキャスティングが生きている。「ラン・ローラ・ラン」の彼女をみて、脚本の段階でマリーにはフランカ・ポテンテと決めていたそうだ。 ハリウッド映画とは一線を画した作品。これもリーマン監督のこだわりだろう。 そんな状況の二人だから、マリーがボーンにキスを求めるシーンが、たった一度だけある。このシーンも好きなシーン。とてもいい。 ボーンがトレッド・ストーンという言葉に辿りつき、決着をつけるため、マリーと別れる時も、キスをしたり抱き合ったりなどというそんなシーンなどは一切ない。そんな状況でもない。 ジェイソン・ボーンという一人の男をリアリティをもって描き出す。そんな映像にとことん拘る。 そして数年後、二人が再会する場面でもリーマン監督は二人を抱き合うだけに終わらせている。 「二人のラブストーリーは、この映画が終わったときから始まるんだ」とこんな憎い言葉をリーマン監督は「ボーン・アイデンティティー」で言っている。 「ボーン・スプレマシー」からはダグ・リーマンは製作総指揮として関わり、「ユナイテッド93」を撮ったポール・グリーングラスが監督をしている。トニー・ギルロイの脚本、ジョン・バウエルの作曲。 ダグ・リーマンが拘りに拘った「ボーン・アイデンティティー」のテイストが、そのまま「ボーン・スプレマシー」「ボーン・アルティメイタム」へと繋がっている。 「ボーン・アイデンティティー」で、記憶喪失となったボーンが、失った自らの過去を探し、CIAの工作員として幾人もの人間を殺してきた事実を知り、「ボーン・スプレマシー」では、記憶の断片に苦しみ、殺人者である自分とどう向き合っていくのか、ボーンの内面を描き、そしてもうすぐ公開の「ボーン・アルティメイタム」では全ての記憶を取り戻したボーンは……。 改めてみてみると、やはり映像に引き込まれて、2作続けて観てしまった。 DVD買おうかどうか迷っているところ。 「スプレマシー」で、ボーンとマリーが乗っている車に暗殺者が銃を向け、誤ってマリーが撃たれ、車ごと川へ転落する。水中でのマリーとの悲しすぎる別れはやはり切ない。そして過去の自分と向き合うため、危険を冒してまでロシアにいき一人の少女を訪ねるシーン、そしてロシアの街を後にするジェイソン・ボーン。人ごみに消えるラストのシーン。この辺りも好き。 好きなシーン、好きな台詞、このシーンがいいんだ、そんな魅力に溢れている映像。 そして、改めてマット・デイモンの考えている眼がとてもいいと思った。 肉体派のアクション映画でなくて思考するアクション映画だとリーマンは言っている。 「ボーン・アイデンティティー」の主な舞台はパリ。そして「ボーン・スプレマシー」ではベルリンとロシア。数ヶ国語を話す設定のジェイソン・ボーン。ネイティブがテープに吹き込んだ台詞をマット・デイモンが完璧にマスターする能力、それが数ヶ月経っていても同じように話せるのだから、驚異だとリーマンは言っている。 頭脳派ジェイソン・ボーンはマット・デイモンのはまり役だとつくづく思う。
by mchouette
| 2007-11-02 00:00
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