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2006年/イギリス・アメリカ/119分/ PG-12
オフィシャル・サイト http://www.movies.co.jp/breakingandentering/ 監督であり、脚本家でもあるアンソニー・ミンゲラ。 挙げてみると彼の作品は結構観てますね。マット・ディロンがスーツ着てた「最高の恋人」(1993)もアンソニー・ミンゲラ監督だったんだ。監督・脚本作品としては「イングリッシュ・ペイシェント」(1996)「リプリー」(1999)「コールドマウンテン」(2003)そしてプロデュース作品は「アイリス」(2001)「愛の落日」(2002)「ヘブン」(2002)などなど…それぞれに心に残る作品だけれど、アンソニー・ミンゲラ監督作品だからという意識はあまり無く、それよりもそれぞれに作品内容やキャスティングに惹かれて観ていた。それぞれの作品に描かれている愛の形について感動を覚えるけれど、ある時代、ある物語の中で繰り広げられる男と女の愛として、登場する彼らたちと私との間には距離があり、そのせいもあるんだろうか、監督であるアンソニー・ミンゲラ自身に対してさほど強い意識はなかった。 けれど、私の内に鋭く突き刺さってきた、この「こわれゆく世界の中で」でアンソニー・ミンゲラという映像作家は、きっちりと私の中に刻みこまれたと思う。あらためて彼の過去の作品を振り返ると、アンソニー・ミンゲラという人の、人間の内面に向けられた視線、テーマ、そして人に対する彼の強い信頼、そういったものが鮮やかに浮かび上がってくる。 本作は、ミンゲラが、映像作品を通して彼自身が追及してきたことについて、辿りついた一つの地点ではないだろうか。少なくとも現代に生きる迷える羊達の私たちに、彼は大胆な形で一つの道標を指し示していると思う。 私たちにとっても、彼にとっても、出てくる役者にとっても、とても私的な映像であり、「現代」という時代を語る映像だと思う。 ガブリエル・ヤレドとUNDERWORLDが作り出したメロディが素晴らしい。 ![]() 原題は「BREAKING AND ENTERING」 辞書的には「家宅侵入」という意味もある。 物語は、窃盗グループの少年が警報装置を切るため、オフィスの窓ガラスを叩き割って侵入する事件から始まる。 物語の舞台は再開発事業が進むロンドン、キングス・クロス地区。 そして、本作の主人公ウィルは、麻薬と売春と犯罪に病み衰退していくだけのこの地区を壊し、街の真ん中に運河を通すことで、この街に新しい生命を吹き込み再構築しようとする、この再開発事業を友人サンディとともに取り組んでいる建築家。 この街で売春をしているルーマニアから来たオアーナは、私たちはどこで売春すればいいの、この街をいくらきれいくしたって、売春は無くならないわ、どっか他の場所でするだけよ、と再開発に抗議する。再開発によって貧民街に暮らす人々が払い退けられ、さらにひどい吹き溜まりが別の街に生れていく…。 オフィス強盗の事件をきっかけにウィルが出会う女性アミラ。彼女はボスニア紛争で夫を亡くし、息子のミロとボスニアから脱出してきた移民。彼女の住む集合住宅の実情も映し出している。ミンゲラ監督は、絵葉書のイギリスではなくイギリスの顔、こんな場所もあるんだということも本作で伝えたかったと語っている。この映画は「イギリス」を見つけるためのものでもあるんだとミンゲラは語る 都市はそこに人々が暮らし営みを続ける限り、人々の感情も欲望も争いもあり、現代社会が抱える闇の部分は存在する……。そして、病巣に冒され衰退した街を壊しても、どこか別の場所で新しい病巣が生まれる。なんの問題解決にもならないし、新しく生まれ変わった街も、時間の流れの中で、病巣が生まれていく……これがウィルや私たちが住む現代社会。私たち人間。否定しても、壊しても、逃げても、どこにいっても、人間は、人と人との関係は、社会は、パソコンみたいに消滅させたいファイルを削除できる、そんなものではないんだ。(ウィルがアミラとの写真を削除したみたいにはいかないんだ…) 逃れようと思っても逃れられない人の心の闇……。 僕たちに何が出来るというのか! どう向き合って生きていくのか! ミンゲラ監督の思いが痛いぐらいに突き刺さってくる。 「お互いが見えなくなる。男と女、人と人が愛する関係の中で、心の中にはびこっているこの疎外感、不安感、閉塞感、空疎な思い……。ウィルが心の中で抱き続けているこの感覚はひんやりとした冷たさで私の頬を撫で、刃先が胸に痛い。そんな思いで映像を見ている。 ウィルが10年間生活をともにするスウェーデン系アメリカ人のリヴは娘ビーが3歳の時離婚してスウェーデンからイギリスにやってきたドキュメンタリー映像作家。ウィルは壊れそうな美しいリヴと心に病を持つビーを守ってやりたいと思った。 「愛を見つけたと思った。 豊かな情報と知識と物質に溢れた自由主義の現代社会にあって、人はどんどん自らの感情からも関係からも疎外され、本来の自分を見失っている。何が嘘なのか、『嘘』ってなんなんだ?愛と優しさの嘘で封じ込めてしまった本当の心。 BREAKINGしていく関係の前で、もがきながら立ち尽くすだけのウィルとリヴ。相手を気遣ったはずの言葉がすれ違って、逆に相手を突き刺す、その反応で自らも傷つく。閉塞感と薄くぴんと張り詰められた空気がウィルとリヴの間に冷たく漂う。伸ばそうとした手が空を掴むような……愛しているのに……愛し方が分からない? 以前に紹介した映画「素粒子」で、原作の翻訳者である野崎歓氏のあとがきの一文「われわれがフラストレーションのみを抱えた<素粒子>状態で漂っているのはなぜなのかと問うウェリベックの叫びには無防備なまでの真摯さがこもっている。」が思い出される。そしてミンゲラ監督は日々の社会の営みの中で起こる様々な「BREAK」そして「ENTER」(になるのかな?)を描きだしている。 再開発のため街を壊し、都市の再生を図ろうとするウィル。 そして、街から街へ突き抜けて流れる運河は街と人を繋げていく。 BREAKING! AND ENTERING! 壊れることを怖れるな!自らを突き破れ! 自分と向き合い、目の前にいる人と向き合うんだ! ミンゲラ監督の、人間に対する絶対的な信頼があるからこそ、人間の良心の存在を信じているからこその熱いメッセージであり、彼が生きてきた50年という人生で辿りついた一つの到達点だと思う。 アミラとの関係をリヴに告白するウィル。 「正直になる方法が分からないんだ」自らと向き合うウィル。 ウィルの車を足で蹴飛ばして「どうして愛なんか求めたの?私を求めないで!私を取り戻して!」自ら抑圧していた心を突き破って叫ぶリヴ。リヴもまた自らの中の自らが作ってしまった柵を蹴破って、ウィルへの愛をぶつける。 ウィルとリヴ、ビーを映したビデオテープで、ビーが死んだ魚を水槽に入れて生き返らせようとする映像がある。ここにもミンゲラ監督のメッセージがこめられているんだろう。 僕たちは死んだ魚ではないんだ。生きている限り、僕たちは「BREAKING AND ENTERING」前に進んでいくんだ。でないと僕たちの関係も、この世界もどんどん希薄になって壊れていく。世界が壊れてゆくんではなくて、僕たちが世界を壊していってるんだ。そんなミンゲラ監督の熱いメッセージを感じた本作。 そういう意味で邦題「こわれゆく世界の中で」はとてもナンセンスなタイトルだと思う。 男と女の愛を繊細に細やかに描いてきたミンゲラ監督は、とても繊細な感性を持っているけれど、決して柔な人間ではなく、とても骨太な精神を持っている人だと思った。 ただ、一人の少年の再出発という未来への希望を描こうとしたのだろうけれど、ミロを助けるために嘘の証言をするウィルとリヴ。この設定は少し無理を感じるところもあるけれど、作品のテーマを損なうほどのものでもないだろう。 最後に…… 本作は役者それぞれが魅せる細やかで繊細な演技も大いに堪能できた作品でもあった。 ウィルを演じたジュード・ロウはミンゲラ作品は「リプリー」「コールドマウンテン」そして本作と続いている。彼は決して期待を裏切らないとミンゲラ監督は語っている。「ガタカ」「オスカーワイルド」でも彼の演技は光っていた。じっくりと内面を繊細に表現できる役者だと思う。役者一筋で頑張って欲しい所がある。そしてリヴを演じたロビン・ライト・ペン。彼女のクリスタルを思わせる硬質な演技と哀しみを潜ませた眼差し。そんなリヴと正反対ともいえる、ジュリエット・ビノシュ演じるアミラは大地に根ざしたような逞しさと情愛を持っている女性。3人の個性あるキャラクターがそれぞれに際立ち、彼ら3人が、それぞれにこの作品のテーマに肉薄している。そんな風に感じた。役者としては、とても疲れるけれど、とても手ごたえのある作品だったのではないだろうか。 そしてジュリエット・ビノシュ…ビノシュに関しては、ある時期、きっとレオス・カラックス作品のミューズたらとか言われ、それをまだ引きずっていた(と、私が勝手に感じていたのかもしれないけれど…)時期だろうか、映像から彼女が浮いていたようなそんな時があった(と私は感じたんだけれど)けれど、最近の彼女は、演じる役と彼女自身が互いに相乗効果を生み出しているような存在感をみせている。本作でも、ウィルと初めて関係を結ぶ時、中年体型を厭わずスリップを脱ぎ捨てた彼女の姿には、だからこそ、この作品にとても力強いリアル感を与えている。オゾンの「スイミングプール」で全裸になったシャーロット・ランプリングも拍手だけれど、本作のビノシュには大いに拍手を送りたい。ある意味、彼女の強さと、どこか純なひたむきさをを感じさせる個性があったからこそ、ウィルとリヴのガラス細工のような寒色系の関係がさらに際立ったのだろうと思う。ウィルの友人で共にキングス・クロスの再開発に携るサンディを演じたマーティン・フリーマン。「銀河ヒッチハイク・ガイド」では地球人唯一生存者として飄々としたキャラを見せてくれたけど、本作でも癒し的雰囲気で、彼もいい人! 監督:アンソニー・ミンゲラ 製作:シドニー・ポラック/アンソニー・ミンゲラ/ ティモシー・ブリックネル 製作総指揮:ボブ・ワインスタイン/ハーヴェイ・ワインスタイン/ コリン・ヴェインズ 脚本:アンソニー・ミンゲラ 撮影:ブノワ・ドゥローム プロダクションデザイン:アレックス・マクダウェル 衣装デザイン:ナタリー・ウォード 編集:リサ・ガニング 音楽:ガブリエル・ヤレド/UNDERWORLD 出演: ジュード・ロウ (ウィル) ジュリエット・ビノシュ (アミラ) ロビン・ライト・ペン (リヴ) マーティン・フリーマン (サンディ) レイ・ウィンストン (ブルーノ刑事) ヴェラ・ファーミガ (オアーナ) ラフィ・ガヴロン ミロ(ミルサド) ポピー・ロジャース( ビー) マーク・ベントン ジュリエット・スティーヴンソン キャロライン・チケジー ラド・ラザール
by mchouette
| 2007-10-17 00:00
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