by mChouette 検索
カテゴリ
全体 ■映画 =映画:あ行 =映画:か行 =映画:さ行 =映画:た行 =映画:な行 =映画:は行 =映画:ま~わ行 ■映画・雑記 ■ドラマ ■展覧会・コンサート ■一冊の本 ■徒然なるままに… ■美味しいもの ■アウトドア・旅 ■勝手にバトン ■ご挨拶・お知らせ 未分類 最新の記事
その他のジャンル
|
EL LABERINTO DEL FAUNO
2006年/メキシコ・スペイン・アメリカ/119分/PG-12 at:シネリーブル梅田 <ネタバレ> 1944年。第二次大戦下のヨーロッパではナチス・ドイツ軍に占領されている西ヨーロッパ侵攻作戦として連合軍がフランスのノルマンディに上陸をした。同じころ、この物語の舞台であるスペインでは、フランコ軍と人民戦線派との壮絶な内戦終結後も、人民戦線派の残党がフランコ軍の激しい弾圧に対しゲリラ活動を行っていた。 そんな時代の物語。遠い遠い昔の話ではなく、数十年前の物語。そして、きっとこの物語と同じ物語は今も世界の何処かでずっと続いている。戦争がこの地上からなくならない限り……。 お伽話が大好きな少女オフェリアは、臨月のお母さんとともに、新しいお父さんとなるフランコ軍のビダル大尉のいる山奥に来る。ビダル大尉は山奥にいるゲリラ軍の残党狩りをしているのだ。オフェリアはビルダ大尉を「お父さんは死んだわ。彼はお父さんではない」と」と拒絶する。自分の身に起きた現実に対する拒絶であり、ビルダ大尉に象徴される内戦の悲劇が色濃く残るスペインの現実に対する拒絶にも繋がるものだろう。お母さんのお腹にいるまだ見ぬ弟に向って、オフェリアはお伽話の世界で愛と希望を語りかける。きっとオフェリアにとっては、このお伽の世界が彼女の夢見る現実だったのだろう。 山奥に来る途中で出会った妖精に導かれ森の奥の迷宮の世界に入っていったオフェリアは迷宮の守護神のパンから、オフェリアが地下の魔法の世界から地上に行き記憶を失ったモアナ王女の生まれ変わりだと告げられ、王女として魔法の世界に戻るには3つの試練を乗越えなければならないといわれる。 フランコ軍の恐怖政治を思わせるようなビダル大尉が君臨する現実世界と、オフェリアが足を踏み込んだ幻想世界が繋がり交錯する。 スペイン内戦と子供たちの試練 G・デル・トロ監督が、スペインのアルモドバル監督に招かれて2001年に製作した「デビルズ・バックボーン」。同じくスペイン内戦を時代背景にしたこの作品の延長線上に「パンズ・ラビリンス」があるとされている。「デビルズ・バックボーン」で、デル・トロ監督は内戦で両親をなくした孤児院の少年たちに「怨みを抱いた少年の亡霊」という試練を与え、自らの弱さを乗越え、復讐劇という形で、少年たちに勇気と仲間の信頼を獲得し大人になっていく物語を描いている。そこには一面、少年たちの成長物語としての清々しさを感じつつも、「僕たちも殺される」と武器を持って敵に立ち向かい殺すという、戦争の不条理な世界の中に子供たちを投げ入れるという残酷な現実も描き出している。 同じくスペイン内戦を描いた「蝶の舌」では、少年モンチョは、フランコ軍に捕らえられた大好きな先生に、昨日まで尊敬し信頼していた両親や周りの大人たちが口々に「アテオ! (不信心者)アカ! 犯罪者!」と罵り石を投げ、モンチョにも強要する戦争が引き起こす残酷な現実を見る。 見事な演技を見せてくれたオフェリア役イバナ・バケロに出会うまでは、オフェリアの年齢を7~8歳に設定していたそうだ。「蝶の舌」のモンチョも1年遅れて小学校に入ったという設定から7歳ぐらいだろう。「デビルズ・バックボーン」の主人公の少年は12歳。 みんないたいけな年齢で内戦の地獄を見ている。 そして、本作「パンズ・ラビリンス」は暴行や射殺シーンや拷問を思わせるシーンなどもあり、子供たちへの精神面の影響を考慮したのだろう映倫指定「PG-12」で12歳以下は保護者同伴による鑑賞となっている。おそらく12歳以下の子供は観ないだろうと思う。でも、この映画こそ子供たちに観てほしい映画であり、オフェリアの現実をうけとめて欲しいと思う。 私が子供の頃、大人の映画観て西部劇などで残虐なシーンなどもあったけど、そういう映像を見るたびに「命の大切さ」や「暴力に対する抵抗」などの思いが頭と胸に刷り込まれていったと思う。最近ニュースで報じられる子供たちが犯す陰惨な事件を見ていると、人の生命が余りにも軽んじられている時代。ここまで病んでいるのかと、哀しみよりも戸惑ってしまう。生まれたときから戦場が日常生活で、いつも死と隣りあわせで生き、悲劇である状況が日常であり悲劇と思わない子供たちの悲劇。12歳になったら軍から強制的に少年兵としてマシンガンを持たされる子供たち…… オフェリアの最後の試練 「無垢なる生命」「こんなちっぽけな生命」……生命の尊厳 第一の試練で成し遂げる勇気を知り、第二の試練で成し遂げることの厳しさを思い知り、そして最後の残された試練で彼女が選択したこと。あの状況にあってオフェリアが選びとった道は、だからこそとても重いテーマだ。(オフェリアがどのような選択をしたかは映画で観てほしい) 「デビルズ・バックボーン」で描けなかったテーマでもあり、彼がずっと願っているテーマでもあり、私たちに訴えたかったものだと思う。 最後の、オフェリアの微かに微笑を浮かべた彼女のあの清らかな表情に涙が溢れてきた。エンドクレジットが流れる間も、何度か涙が溢れそうになった。「キャンディ」といい本作といい最近泣いてしまう映画の出会いが続いている。泣かそうとする映画でなくて泣けるのは嬉しいけれど、世界中には泣きたくても泣けない子供たちがこんなにもいるというのに、こんな悲惨な状況が彼等の日常で泣くことを知らない子供たちもいるというのに……彼女の表情に、いろんな思いが沸いてきて………。 「パンズ・ラビリンス」はオフェリアを地上の現実世界と幻想世界を行き来させ、幻想の世界の試練を通過することによって、彼女は現実世界で自分で考え行動する勇気と知恵を身につけていく。そして最後に、彼女は人間の尊厳と誇りをもった選択をする。 「パンズ・ラビリンス」 …長く語り継がれるべき、ファンタジー作品の素晴らしい傑作をギレルモ・デル・トロは作り上げたと思う。 私はデル・トロ監督作品は「ミミック」と「デビルズ・バックボーン」しか観ていないけれど、「パンズ・ラビリンス」は、描かれているテーマはもちろんだけど、このテーマを確実に映像に表現した美術とギレルモ・ナヴァロの撮影のこだわりはやはりアカデミー賞受賞は当然の結果だろうと思える素晴らしさ。これはG・デル・トロ監督作品の最高傑作ではないかしらと思う。冒頭からずっと目をそらすことなくスクリーンに魅入っていた。仕事帰りに観たのだけれど目も頭も心も段々ハイになってきた。 上映時間119分。1時間59分。2時間を切っている。上映時間が長くなり3時間も当たり前で、冗長傾向にある最近の作品の中で、子供たちが集中して見れる限界が2時間だというこだわりの編集手腕もさすが! セルジ・ロペス演じる冷血無比なビダル大尉のことも書きたかったけど長くなるので…… この映画はともかくも観て欲しい!感じて欲しい! 余談ながら… デル・トロ監督が影響を受けた好きな日本のアニメは「未来少年コナン」と、もう一つは私も好きな手塚治虫の「リボンの騎士」だって!嬉しくなってしまった。「リボンの騎士」のサファイア王子(王女)がデル・トロ好みかしら。 オフェリア役のイバナ・バケロちゃんもどっか似ている気がする。それからハビエル・ナバレテ作曲の音楽は、なぜか懐かしさを覚える。C・ルルーシュ監督のドキュメント作品「白い恋人たち/グルノーブルの13日間」とポランスキーの「ローズマリーの赤ちゃん」のテーマ曲が溶け合いさらに素晴らしいラビリンス・メロディとなって胸に残る。 さらに、デル・トロがずっとやりたいと思っていた企画で、ロン・パールマン主演をスタジオ側に説得するのに7年かかったという「ヘルボーイ」これは観なくてはとレンタルしてきました。 監督:ギレルモ・デル・トロ 製作: アルフォンソ・キュアロン/ベルサ・ナヴァロ/ギレルモ・デル・トロ/フリーダ・トレスブランコ /アルバロ・アウグスティン 製作総指揮:ベレン・アティエンサ/エレナ・マンリケ 脚本:ギレルモ・デル・トロ 撮影:ギレルモ・ナヴァロ プロダクションデザイン:エウヘニオ・カバイェーロ 衣装デザイン:ララ・ウエテ 編集:ベルナ・ビラプラーナ 音楽:ハビエル・ナバレテ 出演: イバナ・バケロ( オフェリア) セルジ・ロペス (ビダル) マリベル・ベルドゥ (メルセデス ) ダグ・ジョーンズ( パン/ペイルマン) アリアドナ・ヒル (カルメン) アレックス・アングロ エウセビオ・ラサロ パコ・ビダル フェデリコ・ルッピ
by mchouette
| 2007-10-14 00:00
| ■映画
|
ファン申請 |
||