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Un Couple Parfait<完全な二人> *原題は邦題とは反対だ。 2005年/フランス・日本/108分 at:第七藝術劇場 「ふたりであること」の意味を丁寧に紡ぎだした「Un Couple Parfait」 マリーとニコラは結婚15年になる夫婦。彼らは友人の結婚式に出席するために、パリへやって来た。友人達からは、「理想のカップル」として見られる二人だったが、実は彼らは離婚することを決めているのだった。パリ滞在の数日間にも、二人は、たびたび口論を繰り返す………。 互いの愛を見失ってしまった二人が、別れを口にしてから、再び愛を見出すまでの心模様を、監督である諏訪敦彦は丁寧に紡ぎだしている。「描く」というよりも「紡ぐ」という表現が感覚的に近い演出と映像だ。 撮影はキャロリーヌ・シャンプティエ。 フィックスと手持ちキャメラの2台を使って、二人の揺れ動く感情を巧みにとらえている。ホテルの部屋での撮影は、一人をバスルームの鏡に映したり、開いたドアから相手の姿は見えず声だけがしたり、ニコラのいる部屋からドア越しにため息をつくマリーの姿を映すといった、切り返し手法で撮影し、二人に視線を同時にとらえながら、二人の間の殺伐とした空気もその映像から浮かび上がってくる。諏訪はキャロリーヌ・シャンプティエと仕事をしたいと切望して「「H Story」で組み、続いて本作も。撮影期間はわずか11日間だったそうだ。 …………………………………………………………………………………………………… 諏訪敦彦の作品は「パリ、ジュテーム」の中のでジュリエット・ビノシュとウィレム・デフォーを演出した「ヴィクトワール広場」を観ただけ。未見だけれど「M/OTHER」「H Story」が2作続けてカンヌ映画祭に出品されるなど、ヨーロッパでの彼の評価は圧倒的らしい。 彼は、脚本を作らないで数ページの筋書きをもとに、現場で話し合いを重ね作り上げる独特の撮影方法で知られる監督とのこと。本作は「その方法に行き詰まりを感じ、フランスに1年間滞在。いろいろ迷った末に、やはり自分に正直に作ろうと原点に戻って挑んだ」作品であり、フランス人をキャストにし、全編フランス語、オール・パリロケといった作品情報などからも、本作「不完全な二人」はかなり興味もって公開を待っていた。 また夫婦役の二人も好きな役者であることも嬉しい。 主役は妻のマリーにはヴァレリア・ブルーニ=テデスキ。 彼女を知ったのは、パトリス・シェロー監督の「愛する者よ、列車に乗れ」から。 「ありふれた恋のお話」「ふたりの5つの別れ路」「ぼくを葬る」など観るたびに美しく魅力的な女性になっていっている。夫のニコラには、ヴァレリアと同じパトリス・シェロー門下生のブリュノ・トデスキーニ。シェロー作品では常連メンバーである。彼もまた「愛する者よ、列車に乗れ」で初めて知ったかな。「王妃マルゴ」ではダニエル・オートゥイユ演じるナバール公アンリの側近で亜アンリに代わり非業の死を遂げる。シェロー作品「ソン・フレール」では不治の病に冒された主役の兄を12kg減量しての熱演で高い評価を得ている。 …………………………………………………………………………………………………… ヴァレリア・ブルーニ=テデスキとブリュノ・トデスキーニの確かな演技 パリに着いた日の夜。友人たちとの食事の席でニコラが二人の離婚を口にしたのも、自分の気持に踏ん切りをつけたかったんだろう。 離婚を決めた二人だけれど、最後の一歩のところで、躊躇い、揺れ動く姿が見えてくる。 「私たち何をしたの? 何をしなかったの?」 けれど、一旦、二人の間に隙間を見てしまった二人の口から出るのは、自分の気持を納得させるための、相手を非難する言葉。二人とも別れる理由を、気持を納得させる言葉を捜して相手にぶつけているような……。「なぜ?なぜ?」欲しい答えが出てこない苛立ちと失望。理想と現実。情熱が醒めた後の日常の二人。積もり積もった、言葉にならない感情の積み重ね。言葉で感情を鎮めるかのようにニコラに問い詰めていくマリー、そして黙り込んでいくニコラ。マリーのため息と、言葉を探すかのような無言のニコラ。そんな沈黙の空間にも二人の感情が伝わってくる。ヴァレリア・ブルーニ=テデスキとブリュノ・トデスキーニの確かな演技だろう。 溶け合いそうで溶け合えない、二つであり、一つであることの葛藤 ロダン美術館でのマリーが印象的だ。男と女の愛を謳いあげたロダンの彫刻作品に触れ、リルケがロダンのことを書いた文章に心惹かれる。ロダン作品は作品テーマのモティーフとしてあるのだけれど、見る側にはロダン美術館とロダン作品はちょっと嬉しいおまけ。映像に映し出されるロダンの作品をみていると、マリーの気持に自分を重ね合わせてしまう。 触れているようでいて指が絡むようでいて、微かに離れ、合わさる男と女の手の彫刻。 マリーはそんな時間の中で、自分の中で見失ってしまっているニコラへの愛を問い直していたのではないだろか。「何をしたの?何をしなかったの?」答えの見つからない自問。自分の気持。 ニコラもまた、口論の後、ホテルの部屋を出、女友達に電話してカフェで話し、夜のパリを歩き、彼女のアパートまで送ったとき、彼女の一瞬の無言の誘いに「さよなら」と別れる。彼もまたマリーとの関係に決定的な一打を出せずにいる。 Un Couple Parfait<完全な二人> ボルドーに旅行するというマリーを駅まで送るニコラ。 発車前の列車の前 「帰りは一人で帰ってね」 「いつ帰ってくる?」 黙って俯いたままの二人。急いで列車に乗り込む人たち。 二人の後ろでドアが閉まり、列車はホームから出て行く。 もがきながらも、一緒に生きていこうとする二人は「完全なカップルだ」と諏訪敦彦は語っている。 …………………………………………………………………………………………………… 諏訪敦彦の演出と俳優の確かな演技、スタッフ達と作り上げられた「不完全な二人」 諏訪敦彦はヴァレリアとロッセリーニの「イタリア旅行」について話をしたそうだ。倦怠期を迎え他人同然のように冷めた関係の夫婦に訪れた奇跡のような結末。 同じようなテーマが幾度も映画で繰り返し語られている。 男と女の関係…古くて新しいテーマ。 諏訪敦彦は本作の制作にあたって、フランス語の分からない彼がフランスで撮ったことについて「僕にとって大事なのはどこでやるかではなく、誰とやるかなのです。」と語っている。 それはキャメラマンであり、スタッフであり、役者でもあるだろう。 先日の「石の微笑」でも書いたけど、もし日本人で撮ったら、ここまでの静かに心の襞を演じられる役者は誰だろうかって考えてしまった。 監督:諏訪敦彦 プロデューサー:澤田正道/吉武美知子 構成:諏訪敦彦 撮影:キャロリーヌ・シャンプティエ 衣裳:エリザベス・メウ 編集:ドミニク・オーヴレ/諏訪久子 音楽:鈴木治行 出演: ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ(マリー) ブリュノ・トデスキーニ(ニコラ) ナタリー・ブトゥフ(エステール) ジョアンナ・プレイス(ナターシャ) ジャック・ドワイヨン(ジャック) アレックス・デスカス(パトリック) レア・ヴィアゼムスキー(エヴァ) マルク・シッティ(ローマン) デルフィーヌ・シュイロット(アリス)
by mchouette
| 2007-09-10 00:00
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