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2007年/日本/95分 at:シネ・ヌーヴォー 証言・原作・脚本:新藤兼人 監督:山本保博 製作:平形則安 語り:大竹しのぶ 「宝塚のお嬢さん 盛装してお待ちください 8月15日正午 訪問します」 1945年8月13日 こんなビラが宝塚の空にばら撒かれた。アメリカ軍の空襲予告。 なんと、茶化したような文面なんでしょう。 兵庫県宝塚市にある宝塚歌劇団の劇場を海軍が接収し海軍航空隊の営舎となっていた。 それも知った上での「宝塚のお嬢さん」なんでしょう。 日本の情報を全て知りつくしているアメリカ。 海軍二等兵だった新藤兼人は、この宝塚で終戦を迎えた。 爆撃に備え、宝塚公園内のプールのスタンドに土嚢を積んで、アメリカの爆撃機を時計を見ながらじっと待つだけだった。 11時56分。将校室の前に集合の伝令が来る。 天皇陛下の放送。 戦争は終わった。 伝えておきたいことがある。 弱者目線で軍隊の不条理を描いた反戦ドキュメンタリー・ドラマ 新藤兼人がスクリーンで初めて語る自身の戦争体験。 本作の初稿は1994年とのこと。新藤自身が演出をし、全編ドラマとして映像化する計画でだったが、製作資金の問題で実現化しなかったという。 そして、再びこの初稿を浮上させたのが近代映協で製作に携っていた平形則安。ドキュメンタリーとドラマの組合せで製作費の圧縮を図り、監督には新藤監督の助監督を長年務めてきた山本保博を起用して、新藤監督に映画化の了解を求めたそうだ。これを受け、新藤兼人は新たに脚本を執筆し、今回の映画化となったが資金作りは険しい道のりだったそうだ。 書斎で証言する新藤監督の姿は、95歳とは思えぬ気迫があった。 映画監督・新藤兼人 1912年広島県で生まれる。現在95歳。 1944年32歳の時、松竹大船脚本部のシナリオ・ライターであった彼のもとに召集令状が届いた。帝国海軍二等水兵として呉海兵団に入隊。 妻を結核で亡くし、生きて帰れるとは思わなかったそうだ。 入隊した100名のうち、クジで選ばれた60名はマニラに向かう途中でアメリカの潜水艦に攻撃され戦死。次のクジで選ばれた30名も潜水艦に乗り戦死。残ったのは10名だけ。 残った10名は海軍航空隊の雑役として宝塚に向う。海軍予科練の世話係。風呂焚き、隊内の整備整頓、最も大事なのは6000人はいる予科練の排泄する肥え汲み。 いかに兵隊は作られるか… ベトナム戦争を舞台にした「フルメタルジャケット」湾岸戦争を舞台にした「ジャーヘッド」でも、人間的な感情や個性を徹底的に抹殺し、兵士として戦場へ送り出す軍隊の人間改造特訓は見てきた。 新藤兼人二等兵いわば弱兵が体験する軍事訓練と制裁はほとんどイジメに近い暴力。 殴られても殴り返せない状況。理不尽な世界に置かれると無感覚になり、自暴自棄になり自分を放棄した形になって、命令が出ればそれに従うということになる。戦争なんて本当にひどい世界だ、と新藤は語っている。 14~15歳の予科練の少年兵たちが本土決戦に備えて砲台を構築するため淡路島に向う途中、米軍機の襲撃を受ける。少年達を見送り、そして彼らが白木の箱に入って帰ってくるのを迎えたという。 予科練の少年兵たちの映像には目頭が熱くなる。そして、少年たちの尊い命があっけなく失われた一方で、大の大人たちは、笑うにはあまりにも情けない本土迎撃作戦の訓練をさせられている。これが日本を戦争に引きずり込んだ軍隊のレベルなのかと思うとやるせない。 日本軍の愚行か…… 「食料確保」作戦と称して、鯉の稚魚1万匹を川に放流し、鯉の餌として蝿千匹をとった者は1泊の外出許可が下りるという。稚魚が大きくなるのに何年かかるのか。 地面にタコツボと呼ばれる穴を掘り、そこに入りアメリカ軍の戦車に迎え撃つという「タコツボとアンパン」作戦は子供の戦争ごっこよりも幼稚すぎる。しかし、これは木で作った戦車の模型と地雷の代わりに棒切れを使っての大真面目な訓練だ。 もっと馬鹿げているのが「斬り込みの秘策」という作戦。靴を前後反対にして足に括りつけ音無しの構えで歩くというもの。反対に履くのは後退すると見せかけて前進するというのだ。そして敵陣に近づいたら背中の日本刀を抜く。背中に木や棒を皆くくりつけている。「子供のママゴトみたいな、遊び見たいな」訓練だと新藤は評している。 そして、戦争の突然の中止。 新藤兼人は「またシナリオが書ける」と真っ先に思ったと語っている。 理不尽がまかり通り、不条理で、あまりにも愚かしく情けなく、残酷な軍隊という世界。それが戦争。若い命を無為に散らし、人の心を破壊する戦争、そして軍隊という世界。 兵隊というのは家族の中で本当に一番大事な人が行っている。本当にかけがえのない人が、前線に行って戦争をしているし、残された人の人生も破壊されているし、何もかもが破壊されるような大きなことが、その個人には起きているけれど、大局から見れば戦略的に一人の兵が死んだということになる。戦争とはそういうものだ、と新藤兼人は語る。 体制に対する反骨精神をもち、人間の不条理や不合理を描き、「つくりたいものをつくる」「つくらなければならないものをつくる」映画作家としての主体性を貫き通している新藤兼人の、ここが彼の原点なのだろう。 そして、兵隊仲間が妻に会いたい一心で蝿千匹捕獲を悲壮な思いで行う、彼らの情愛も描いている。「私は人間のつながっている根元は性であると、考えている。彼らの燃えている情熱に非常に共感を持った」と語っている。……ここにも彼の原点を見る。 弱者目線で描いた戦争と軍隊。 海軍とは名ばかりで、終戦近く、軍艦はすでに撃沈され見たこともなく、肥え汲みと雑役と制裁の日々。思い出したくも、語りたくもない日々。 だからこそ、伝えておきたいこととして語る新藤兼人の精神力は強い! 戦場が出てこない戦争をテーマにした映画。 日本の愚行、そこで号令で動かされる兵隊、戦争とはこういうもんだ。 底辺にいた者が味わった軍隊と戦争。辛らつで、滑稽で、残酷で、そして男と女のパッションは逞しく、弱者に向けられた視線は優しく哀しい。 ラスト… 戦争と軍隊が生み出す屈辱と恐怖から絶対的な無気力に陥った一人の兵士の孤独な姿が、新藤兼人が体験した戦争の何たるかを物語り、確かな反戦の意思が映像から滲み出ている。 大竹しのぶの語りが映像にさらに落ち着きを与えていたことも特記しておきたい。
by mchouette
| 2007-08-19 00:15
| ■映画
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