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![]() 2006年/イギリス/92分 at:OS名画座 本作「あるスキャンダルの覚え書き」はどんなホラーサスペンスより怖ろしいと思う。 人が陥りやすい人間関係の落とし穴の危うさを見事に掬い取っているこの物語、他人事とは思えない怖さがある。 原作は、イギリス出身の作家ゾーイ・ヘラーが2003年に発表し、世界的な権威を誇るブッーカー賞の最終候補となった小説だ。 弱さや不安、孤独の隙間にそっと、優しげな顔で近づいて来られたら、親切に助けてくれたとしたら… 人はその人に対し「なんて親切な人、私をわかってくれる人だわ」って思い込んでしまう。 子育てが一段落し、バーバラが歴史の教師をしている公立高校の美術教師として初めて仕事についたシーバは、いとも簡単にこのベテラン教師のバーバラの親切な優しさに全幅の信頼をおき、なんでも打ち明けるようになる。シーバにとってバーバラは気の許せる、年の離れた姉のような存在として見ていたのだろう。シーバにとってバーバラはこの時点ではとても大切な友達であった。バーバラにとっても、こんな素敵な女性が自分を頼り、友だちと思ってくれている。乾いた砂漠のオアシスのように思ったことだろう。 ![]() ただ、人間関係とは、自分の眼からみた関係であって、相手も同じように思っているかというとそうとは限らないことも往々にしてある。バーバラの中で、その関係はどんどん膨らんでいく。 バーバラはシーバとのそんな蜜月の関係を日記に綴っていく。 それは現実を自分の都合のいいように摩り替えたバーバラの思い込みの日記であった。 でも、こういう思い込みはどこにでも転がっているもの。 バーバラはシーバを観察し、どんな些細なことも漏らさず自分流に脚色して書き記す。シーバと友だちになった日には金星のシールが貼られる。嬉しいときは金星シール。彼女の毛までも拾って貼っている。お気に入りの女友達のあらゆる物はバーバラの宝物。他の人間が、特に女性がシーバに親しく近づけば嫌悪の表情を露にする。大事な友だち。私のたった一人のお友だち独占しようとする。まるで夢見る女子学生のような思い込みがある。ちょっと微笑ましいといえば微笑ましいとこもある。 そして夢見る乙女で憧れている間はいいけれど、 年齢的には、そんな乙女をとっくに過ぎてしまっているバーバラは、その関係を築こうと、現実の中に自分の思い込みをズンズン持ち込んでいく。思い込みも一途さも半端じゃない、年齢積んでいる分、手練手管に長けている。 バーバラは独白する 私たちは静かに注意深く生涯共に歩むための要素を探り合っていた。これがバーバラの思い込みに満ちた現実。 痛みを覚えるところもある。誰しもがバーバラにつながる孤独や寂しさを心の中に秘めている。 数ヵ月後、バーバラはシーバがある男子生徒と肉体関係を持っていることを知る。 この私にも言わない秘密があったなんて……バーバラの怒りが伝わってきそう。 シーバを呼び出し、問い詰めるバーバラ。彼女を信頼しているシーバはその男子生徒との関係をすべて打ち明ける。すぐに関係をやめるように厳しく諌めるバーバラに、自分の胸の内にある不満をぶつける。 シーバの夫は自分の担当教授であった男。学生であったシーバと不倫の結果、彼は離婚してシーバと結婚したのだった。親子ほど年齢の違う夫婦。彼女は陶芸の道を断念し、家庭に入り夫と子どもに尽くしてきたのだった。そして2人目の息子はダウン症であった。 若く美しいシーバもまた、望むものすべて手に入れているような、一見幸せそうに見えるけれど、胸の中に孤独と寂しさを抱いている女性だった。 ![]() だがシーバの孤独は、ある意味、曖昧な自我のまま大人になりきれない子供じみた寂しさとも言える。周囲からもてはやされて大きくなった世間知らずの女性。 それに比べ、バーバラの孤独の独白には圧倒されるものがある。誰からも見向きもされず、愛してくれる男性にも出会うことなく生きてきた女性。負け犬の悲哀と屈辱を存分に味わってきた女性。 みんな最後は手のひらを返す。バーバラがシーバの前にジェニファーという女性から拒絶された苦い記憶があった。 シーバの秘密を握った彼女は、孤独とエゴイズムが結びつき、シーバへの支配欲を露わにしてくるあたりは、震撼とさせられる。 今こそ絶好のチャンスだ。 バーバラのこのエゴに満ちた孤独な独白には、嫌悪感を持つよりも、誰もが持ちうる危うさに、目をそらせることができないところがある。 ![]() この中年女性の屈折した心の闇を、じっくりたっぷりと見せてくれるジュディ・デンチの演技。 そしてバーバラに絡みとられ、また男子学生との恋にゆれる、曖昧な大人の寂しさと軟弱さを見せるケイト・ブランシェット。世間知らずで、もろく傷つきやすい女性を演じていた彼女だか、追い詰められた挙句にぶっちぎれる彼女の演技。「シッピング・ニュース」の悪妻、「コーヒー&シガレッツ」での一人二役。これに匹敵するくらいの演技。 この二人が互角に渡りあい、複雑に交錯する心理の絡み合い、それぞれがみせる心理表現の演技には目が離せない。 サスペンスホラーより恐ろしい。どんなホラーよりも恐ろしいのは人間の心の闇に潜むもの。そしてその闇をいかようにも使う人間そのもの。けれど、人が人を求めてやまないのも人間。 そして誰もがバーバラにもなり、シーバにもなるヤバサがあるところがこの映画の怖ろしさだ。 ラスト バーバラは一人ベンチに座る女性に優しい良識ある中年女性の顔で顔で近づく。 「友達がいないの」 「あら、私がいるわ」 監督:リチャード・エアー 製作: ロバート・フォックス/アンドリュー・マクドナルド/アロン・ライヒ/スコット・ルーディン 製作総指揮:レッドモンド・モリス 原作:ゾーイ・ヘラー 『あるスキャンダルについての覚え書き』(ランダムハウス講談社) 脚本:パトリック・マーバー 撮影:クリス・メンゲス プロダクションデザイン:ティム・ハットリー 衣装デザイン:ティム・ハットリー 編集:ジョン・ブルーム/ アントニア・ヴァン・ドリムレン 音楽:フィリップ・グラス 出演: ジュディ・デンチ(バーバラ・コヴェット) ケイト・ブランシェット(シーバ・ハート) ビル・ナイ(リチャード・ハート) アンドリュー・シンプソン(スディーヴン・コナリー)
by mchouette
| 2007-06-13 00:00
| ■映画
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