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瑞々しい感性が光る
![]() 原題 「2:37」 2006年/オーストラリア/99分 at:テアトル梅田 どうして私は「痛い映画」ばかり選んでしまうんでしょう。 SとMに分けるとしたら、きっとM的傾向の人間なんでしょうね。 どっちの道を選ぶ?としたら、いつだって自分を追い込む方、痛めつける方をえらんでしまう。 今日観たこの映画もかなり痛い映画。でも、とっても瑞々しい映画。 映画のことを何も知らない青年が19歳で脚本を書き、それから数週間かけて映画・テレビ・演劇に関する本を読みあさり、次に映画作りのプロに教えを乞い、税制を調べ抜け穴を探し、映画への出資方法を探り、そして21歳で完成させ、映画初作品にして、カンヌ映画祭「ある視点」部門に正式出品され、20分間、スタンディング・オベーションが続いたという。 監督も映画製作経験がゼロなら、演じた役者もまだ演劇学校の生徒ばかりで映画出演経験ゼロ。 しかし、画面から目を反らさせない無駄のない見事なストーリー・テイリングと演出。そして彼らの演技もまた素晴らしい。彼らの抱えているものがダイレクトに伝わってくる。 「カンヌを驚愕させたアンファン・テリブル(恐るべき子供)」 SCREEN DAILY評 ![]() 1984年オーストラリア・キャンペラ生まれ在住。 この作品は、彼が高校生の時、友人を自殺で失い、非常にショックを受け、その半年後、自らも人生に絶望して自殺の道を選び、幸いにも一命を取り留めたのをきっかけに、自分たちの生の声を知ってほしいと思ったのだそうだ。 19歳とはとても思えない熟成された作品、いや19歳だから描けた痛みかもしれない。 彼自身の心の痛みから生まれた作品である。 本作は自殺した友へ捧げられた作品である。 そして「ぼくの生命を救ってくれた映画」だとタルリは語っている。 さわやかな風が吹き抜け、生徒達の姿が、教室や廊下、グラウンドに溢れている。いつもと変わらないハイスクールの朝の光景。午後2時37分。トイレで物音がし、トイレのドアから血が流れ出している。 一人の高校生の自殺。 その生徒に関わりのある友人6人がそれぞれインタビューを受ける。そしてその日の彼らの行動がフラッシュバックされる。彼らのそれぞれの場面が、別の場面で、違う角度で重なる。 そう、この作品はガス・ヴァン・サント監督が、アメリカ・コロンバイン高校で起きた銃乱射事件をテーマに描いた「エレファント」が引き合いに出される。エレファントもいつもと変わらない明るい高校のキャンパスで、いつもと変わらない高校生達を追いかけ、彼らの時間が重なり、交差する形で事件へと展開していく。 ![]() ![]() しかし、「エレファント」ではカメラは遠くから彼らを追っており、この風景は物語の序章であった。 けれど本作は、カメラは彼らの中にいて彼らの姿を追っている。タリルが描きたかったのはキャンパスにいる彼らだった。彼らの表の顔と内なる素顔と。タリルはカメラも配役として物語に取り入れ、彼らを覗き見するという形で彼らの姿を追いかけた。 フラッシュバックされる映像からは、彼等がキャンパスの中で見せている顔を、そしてインタビューが進むにつれて、彼等が語る彼ら心の闇、秘密、苦しみが見えてくる。 自殺したのは誰なのか? 教師の心無い一言、旧友の嫌がらせ、何気ない行動、親の無関心、それが引き金になって誰が自殺しても不思議ではない彼らの救いようのない闇。 カウンセラーとの会話、教師とのやりとり。大人たちの言葉が、彼らの内にあるものに当たらず、ずれたまま彼らの中をすり抜けていく。その中で彼らの疎外と孤独がさらに深まる。 ゲイである事への言われなき差別、難民に対する差別なども彼らを根強く支配している。 インタビューで何人かが答えている。「高校なんて偽善だ」と。 誰もわかりえない、また誰にも助けられない。 彼らの表の顔と内なる素顔の乖離が痛い。 インタビューの最期で一人の友人が言った。「話してくれたら助けられたかも知れない。いや……分からない」 ![]() 痛い映画である。そしてとても瑞々しい映画である。 トイレで、泣きながら、ためらいながらハサミの刃で手首を切り、嗚咽しながら血の海で横たえる姿すら、語弊があるかもしれないが、その映像のリアルさにすら瑞々しさを感じた。見せつける映像ではなく、彼らの内なる苦しみの表現として描いているからかもしれない。 決してドラマティックでなく、むしろ淡々と彼らの姿を、会話を追い、そしてインタビューで答える彼らを追っている。7人の個性がしっかりと描かれており、彼らの問題が明確に打ち出され、決してだれることなく、「午後2時37分」まで物語は進んでいく。 ムラーク・K・タルリの明晰な頭脳と鋭い感性には驚く。 そして映画製作に向けての彼の熱意と努力には拍手を送りたい。 彼は自殺を図ろうとした時、とても恐怖に陥り、もし目覚めたら、映画をつくるという夢を徹底的に追い求めようと思ったと語っている。そして目が覚めたときすぐに脚本の執筆を始め、36時間後に第1稿を書き上げたという。 そして、彼をサポートしたのが、撮影監督のニック・マシューズである。 オーストラリアで短編映画の撮影に携わった後、ヨーロッパに渡り、スティヴン・ソダーバーグとトム・ハンクスが製作総指揮を務め、2001年ゴールド・グローブ賞を受賞したTVドラマ「アハンド・オブ・ブラザーズ」やヒュー・グラントの「アバウト・ア・ボーイ」などの撮影に参加の後オーストラリアに戻り撮影監督して活動をしている。 2004年に、そんな彼の元に全く映画界とは無縁の青年が撮影監督の依頼にやってきた。初めは乗り気ではなかったが、脚本に惚れこみ、タルリとM2エンタテイメントを設立して、撮影監督だけでなく本作の共同プロデューサーとして全プロセスに関わっている。 二人はプレビュー版をもってカンヌ映画祭に乗り込んで資金をあつめるなど、手探りの中で作品完成にこぎつけたという。 そして、本作の制作にあたって、政府に出資を申請したが受け付けてもらえず、またカンヌに出品が決まったときにプリントに変換させる資金がなく、再度、出資依頼をしたが断わられたという。エンドロールで敢えてこのことを入れたのは、政府の援助がなくても映画が作れるという事をこれから映画を撮ろうと思っている人たちに伝えたかったとタリル監督は語っている。 映画界に、新しい、若く逞しい感性が生まれていっている。 このことが嬉しい。 そして音響デザインには、30年以上映画界に身をおき60本以上の作品に携わってきたレスリー・シャッツが担当している。彼の最近携わった作品は、主にガス・ヴァン・サイト監督作品が多く「グッド・ウィル・ハンティング」「小説家を見つけたら」「エレファント」「ラストデイズ」ほかに「エデンより彼方へ」などもある。 <2006年5月26日カンヌ映画祭・パレ・ドゥ・フェスティバル> ![]() ![]() 監督:ムラーリ・K・タルリ 製作:ニック・マシューズ/ ケント・スミス/ムラーリ・K・タルリ 製作総指揮:ジーン・エンジェラ / ゲイリー・ハミルトン/ スティーヴン・ノリス / ニック・セルス/ディーン・オフラハーティ 脚本:ムラーリ・K・タルリ 撮影:ニック・マシューズ 音楽:マーク・チャンズ 出演: テレサ・パルマー(メロディ) ジョエル・マッケンジー(ショーン) クレメンティーヌ・メラー(ケリー) チャールズ・ベアード(スティーヴン) サム・ハリス(ルーク) フランク・スウィート(マーカス) マルニ・スパイレイン(サラ)
by mChouette
| 2007-05-13 00:00
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