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at:ミッドナイト・スクエア・シネマ 1991年「羊たちの沈黙」、2001年「ハンニバル」、2002年「レッド・ドラゴン」 トマス・ハリス原作によるハンニバル・レクターシリーズはアンソニー・ホプキンスのハマリ役として知られるシリーズである。稀にみる天才であり、異常人格者であり、殺人鬼であるハンニバル・レクターの誕生物語が、新たにトマス・ハリス原作・脚本により映画化された。本作「ハンニバル・ライジング」である。 第二次大戦下のリトアニアで少年ハンニバルが何を見、何を経験し、そして少年が青年へと成長する中で、どのようにして殺人鬼へと変貌していったか、猟奇殺人鬼ハンニバル・レクター博士の過去が明かされる物語である。 これまでにも、誕生物語といわれる映画作品を見てきた。 ジョージ・ルーカス監督の「スター・ウォーズ エピソードⅠ・Ⅱ・Ⅲ」では若ききジェダイの騎士アナキン・スカイウォーカーが何故、どのようにしてダークサイドに堕ちたかを描いたダースベイダー誕生を、「メメント」「インソムニア」で高い評価を受けたクリストファー・ノーラン監督の「バットマン・ビギンズ」では主人公であるブルース・ウェインが、自らの弱さで両親が殺されたという罪悪感と犯人への復讐を抱き、悪とは、正義とは何かを問う放浪の旅の末にバットマンしてゴッサム・シティに戻る誕生物語を見てきた。 いずれも主人公の心の闇と深く繋がり、ジェダイの騎士は内なる闇に堕ち、また心の闇を抱えたブルースは放浪の旅の末、バットマンとして自己の再生を図った。 では、ハンニバル・レクターの心に潜む闇とは何だったか。 若きハンニバル・レクター役には、最近公日本でも公開された「パリ、ジュテーム」でガス・ヴァン・サント監督の「マレ地区」に出演、監督からの熱い視線が浴びたギャスパー・ウリエル。そして監督には「真珠の耳飾りの少女」で注目を浴びたイギリス出身の新鋭ピーター・ウェーバーが起用された。 ピーター・ウェーバーが描く映像世界とギャスパー・ウリエルの魅力に引きずり込まれ、いつしか私は若きハンニバル・レクターの心の闇に寄り添い、闇に潜む彼の叫びに痛みすら覚え、心を揺さぶられた。 ピーター・ウェーバーの起用に当たっては、高い評価を受けた「真珠の耳飾りの少女」ではなく、それ以前のBBCドラマで見せたエッジの効いた生々しい部分に惹かれたと、製作プロデューサーのマーサ・デ・ラウレンスは語っている。トム・ティクヴァがみせた「パフュームある人殺しの物語」の映像表現に負けず劣らずの切れのある素晴らしい映像をピーター・ウェーバーは本作で見せている。 そしてヤング・ハンニバルギャスパー・ウリエル はその演技力と魅力を存分に見せてくれた。 辛口映画評で有名なコラムニストの中野翠は、かつて自書で「青い血御三家」としてクリストファー・オーケン、マチュー・カリエール、キース・キャラダインにとどめをさすと、書いていた。 中野翠の言葉を借りるなら、本作でのギャスパー・ウリエルも、また 「青い血の男」 と言えるだろう。まるで女の子の唇と思えそうな、厚く柔らかい唇。女の色香を感じさせるようなその唇に惑わされそうだが、彼には間違いなく赤い血潮ではなく、どこまでも冷たく静謐な青い血が流れているだろう。天使のようなナイーブな優しさをみせつつ、その底には青く燃える冷たい炎がある。 アンドレ・テシネ監督「かげろう」でギャスパー・ウリエルを初めて見た。いやそれ以前に「ジェヴォーダンの獣」で端役の彼をちらっと目の端にとどめてはいたが。「かげろう」では第二次大戦下、2人の子どもと戦火を逃れた未亡人エマニュエル・ベアールの女の本能を激しく揺さぶるミステリアスな17歳の青年イヴァンを演じていた。まだ少年の面影を残した彼の少女のような柔らかさと、そしてかつてヴァンサン・ベレーズ(最近見かけませんねぇ)が「目で女を犯す男」といわれた、そんんな目を感じさせるような、相手を見据えるギャスパーの目。 そしてアメリ」のジャン=ピエール・ジュネ監督が再びオドレイ・トトゥを主演の「ロング・エンゲージメント」ではトトゥの婚約者の無垢な青年マネクを演じた。マネクの戦死の知らせが信じられず、恋人は生きているという自分の直感を信じて婚約者を探し続け、奇跡の再会を果たすステリー・ラブ・ロマンス。記憶を失った婚約者マネクは立ち尽くすトトゥに「大丈夫?」と声をかけた時のギャスパーのソフトな優しさ。平安時代の着物を着せたら「光源氏」になりそうな風情が、そんな優しさも醸し出す。しかし、顔の造作をみると、様々な表情をみせる切れ長の大きな目、女の子のエロチシズムを感じさせるような口角のはっきりとした肉感的な唇、そしてはっきりとした存在感をみせる高く整った鼻。そしてそれらがうりざね顔の中に納まったとき、大理石のような滑らかさとクリスタルのような透明感を感じさせる。甘いマスクの中に強さと硬質な堅さも同時に持った顔だ。 それが、このハンニバル・レクターという知的でかつ異常殺人者である稀有な怪物の若き姿をみごとに体現している。 <物語のはじまり> リトアニアの貴族の子としてハンニバルは両親と妹のミーシャとに暮らしていた。ゆっくりと流れる川面に、花びらがひらひらと落ちる、そんなシーンから物語は始まる。このあたりは「真珠の耳飾りの少女」の映像を彷彿とさせる映像の美しさがある。そしてそんな穏やかな時間の中でハンニバル少年は推さない妹のミーシャと遊んでいる。二人きりの兄妹だ。森の木立の後ろには彼らの住むレクター城がみえる。しかし、突然爆撃の炎があがり、場面は急転し、第二次戦時下の激しさをみせる。ソ連に併合されていたリトアニアはドイツ軍の侵略を受け、リトアニアを奪回しようとするソ連軍とドイツ軍の戦いは激化し、レクター一家は召使達とともに城をあとにし狩猟小屋に逃れるが、ソ連軍の戦車に囲まれ、大人たちは小屋を出される。その時、ドイツ空軍の爆撃機がソ連軍とハンニバルの両親も銃弾を浴び目の前で死んでしまい、小屋に二人だけ取り残されてしまった。そこにドイツ軍に加担していたリトアニアの逃亡兵たちが村人やドイツ軍の金品を奪い、二人のいる小屋をみつけ小屋を占拠した。二人は捕まり鎖で首輪をさせられた。逃亡兵たちのリーダー格はグルータスと呼ばれる男であった。小屋には食べるものは何もない。「食べなければ死んじまう」鳥の死骸を貪り鳥の羽がまとわりついた血のついた口でグルータスは二人を見た…。 グルータスを演じているのはイギリスの俳優リス・エヴァンズ。「ノッティングヒルの恋人」ではヒュー・グラントの同居人でちょっといかれた不潔極まりない男、「シッピング・ニュース」ではケヴィン・スペイシー演じるクオイルの心優しき同僚の新聞記者、「Jの悲劇」では新生ジェームズ・ボンドのダニエル・クレイグをに執拗にストーカー行為を繰り返すド・クレランボー症候群の男と ソ連軍の空爆を受け、彼らの認識票の入った袋まで持って出る余裕もなく小屋から逃げ出す男たち。そして夢遊病者のように小屋から出てきて雪原に倒れたハンニバル。しかしその横には妹のミーシャの姿はなかった。ハンニバルはソ連軍に救出され孤児達の収容施設に入れられる。そこはかつてハンニバルたちが住んでいたレクター城であった。 8年の歳月が流れ青年となったハンニバルは誰とも口をきかず、自分を押さえつける者、命令する者、侮蔑する者には徹底的に叩きのめす問題児であった。それはあの狩猟小屋で少年だったハンニバルが出来なかったことだ。そのために妹のミーシャはいなくなった。狩猟小屋での経験ががハンニバルをそのように変えたのか、それとも彼の中で眠っていたものが目覚めたのかは判らない。しかし、「羊たちの沈黙」でなどでもレクターが殺し食する相手は権力をもった人間や上流階級の人間達であることと、彼の餌食になる対象はここで生まれたといえるだろう。 毎晩眠りについたハンニバルを襲うのはミーシャのハンニバルを呼ぶ声とフラッシュバックする男達の顔だ。あの狩猟小屋で何があったのか、ミーシャはどこに消えたのか、ハンニバルにはそれ以上のことが思い出せず、毎夜夢の中でうなされミーシャの名前を叫ぶ。 ハンニバルは残されていた家具から親族からの手紙と写真を持ち出し、差出人であるフランスに住む叔父を訪ねるが、すでに1年前に死んでおり未亡人となった叔父の妻である日本女性レディ・ムラサキに暖かく迎えられる。彼女もまた家族を広島の原爆で失った戦争の犠牲者であった。毎夜うなされるハンニバルの心の闇を知り、華道、茶道、剣道などの日本文化を教え心の平穏を取り戻させようとする。愛を失ったハンニバルにとってレディ・ムラサキは唯一心を許せる相手であり、安らげる人であった。 レディ・ムラサキを演じているのは国際的は活躍をしているコン・リー。チャン・イーモウ監督「赤いコーリャン」で女優デビューし、「覇王別姫/さらばわが愛」「愛の神エロス~若き仕立て屋の恋」「SAYURI」などで存在感のある女優だ。「SAYURI」でもサユリのライバル芸者初桃を演じ、作品に迫力と緊張のある演技を見せてくれた。彼女には「男前」という言葉が当てはまる女優だと思う。どうかすると美少女を感じさせるギャスパーとの調和が見事なキャスティングだ。 しかし、レディ・ムラサキが教えた日本文化、日本刀の研ぎ澄まされ凛とした光を放つ冷たさ、戦国の武将がきた鎧、打ち首の図、数々の能面、これら底に流れる青く冷たい血と呼応してさらにその血の色と美意識を濃くしていったかのように見える。 市場でレディ・ムラサキに性的に侮蔑な言葉を浴びせた肉屋の主人に、ハンニバルは突如殴りかかる。侮蔑した者を叩き潰す、ハンニバルの血は決して鎮まることはなかった。数日後、釣りに来ていた肉屋の主人の首を日本刀で切り落す。首なし死体が発見され、数日前の乱闘騒ぎを知っている警察がハンニバルを連行し尋問するが、動じる様子もなく嘘発見器は何の反応も示さなかった。尋問中、切り落された肉屋の首が額にナチの鉤十字が書かれ警察の前に措かれていた。レディ・ムラサキがハンニバルをかばってした行為である。彼女もまた亡き夫の甥であるこの美しい青年に母性的な愛と同時に、惹かれていくものがあったのだろうか。 そして尋問もあたったポピール警視もまた戦争で家族を失い、ハンニバルの心に受けた傷に触れた人間であった。3人目の殺人が起きたとき彼はハンニバルについて同僚にもらす>「少年ハンニバルは雪原で死んだ。妹の死とともに彼の心も…」 と。 成長したハンニバルは最年少でパリの医学学校に入学する。彼はそこで偶然警察が犯人に自白強要罪を注射する現場に遭遇する。彼は思い出せない狩猟小屋での記憶を呼び戻すために 自らそれを注射する。男達の歌っていた歌、認識票、母が隠した宝石、男達の名前、そして男達に連れ出されるミーシャ。眠っていた記憶がよみがえってきた。ハンニバルは爆撃で壊され放置されている小屋に向かう。そこには小さな頭蓋骨と骨もあった。リトアニアに入る時、国境警備員にみせたパスポートを、男たちの一人が目にし、彼の後をつけるが、ハンニバルに捕まり仲間の行方を聞き出す。まるでゲームを楽しむかのように男を締め上げていくハンニバル。 それは復讐と呼ばれる殺人であったとしても、この時の彼にはまだ殺人者の様相はなく、夜毎にうなされる心の闇の中で聞こえるミーシャの彼を呼ぶ声を、愛する妹の魂を、そして彼の魂を鎮めるための旅ではなかっただろうか。彼等がミーシャにしたことを、彼が男達にも行う。日本の文化に触れ、美意識に触れた彼は、殺しの美学を持ち込む。学者が己の学問を追及し究めていくのと同じように。そして、ためらうことなく冷静にミーシャを連れ出した男達を殺していく。 そして男たちのリーダー格であったグルータスを追いつめ、その胸にナイフでミーシャの頭文字Mを胸に刻むハンニバル。しかしグルータスの口からでた衝撃の言葉「お前も殺すんだろう。お前も俺達と一緒だ」その言葉に絶叫する。そして、赦してあげてというレディ・ムラサキの言葉を、頭の中に聞こえるミーシャの「ハンニバル、ハンニバル」と自分を呼ぶ声が打ち消した。 グルータスを撃ち殺したハンニバルはレディ・ムラサキに愛を打ち明ける。しかし彼女はハンニバルを闇から救い出せなかった哀しみに彼から去っていった。愛するものを失い、鎮魂のための旅が自らをも葬り去るものとなり、そして人として最後の愛も失ってしまった彼は、自らの意思でグルータスの肉を貪る。妹ミーシャの声に毎夜うなされ、闇を彷徨い、レディ・ムラサキに安らぎを見出し、殺しの美学に酔いしれるとも迷える子羊であったハンニバルは、この時完全に死んだ。 ここまで書いてもネタバレにはならないでしょう。ネタはとっくに判っているのですから。 そしてこの物語をピーター・ウェーバーがどのように映像で表現し、ギャスパー・ウリエルがどのように演じているのか、これは映画を見なければ決して伝えきれない。 私は引きずり込まれ、ハンニバルに痛みすら覚えた。 そして、最後の一人を尋ねるハンニバル・レクター。にこやかな笑顔で男に言う「首を頂きたい」。それは、まさにアンソニー・ホプキンス演ずるハンニバル・レクターに重なるものだった。 最後に 「キネマ旬報5月上旬号」に「原作翻訳者が語る『ハンニバル・ライジング』」という記事があり、原作翻訳者の高見浩氏の文章が掲載されていて、その中の一文を紹介します。 もう一つおまけに ギャスパーが今回アメリカで撮影し、アメリカとフランスでの撮影の違いを「Cut5月号」で語ってました。 ピーター・ウェーバー監督、結構苦労したようですね。 監督:ピーター・ウェーバー 製作:ディノ・デ・ラウレンティス/マーサ・デ・ラウレンティス/タラク・ベン・アマール 製作総指揮: ジェームズ・クレイトン/ダンカン・リード 原作:トマス・ハリス 『ハンニバル・ライジング』(新潮社刊) 脚本:トマス・ハリス 撮影:ベン・デイヴィス プロダクションデザイン: アラン・スタルスキ 衣装デザイン: アンナ・シェパード 編集:ピエトロ・スカリア/ ヴァレリオ・ボネッリ 音楽:アイラン・エシュケリ/ 梅林茂 出演:ギャスパー・ウリエル コン・リー リス・エヴァンス ケヴィン・マクキッド スティーヴン・ウォーターズ リチャード・ブレイク ドミニク・ウェスト 視 チャールズ・マックイグノン アーロン・トーマス(ハンニバルの子供時代) ヘレナ・リア・タコヴシュカ(ミーシャ) イヴァン・マレヴィッチ ゴラン・コスティッチ
by mchouette
| 2007-04-24 23:00
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