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先日の日曜日に観にいったのだけど、のっぴきならぬ事態に陥り、映画鑑賞途中で退席せざるを得なかったもの。 ALBERT NOBBS 2011年/アイルランド/113分/PG12 監督: ロドリゴ・ガルシア ロドリゴ・ガルシア監督作品は、「彼女を見ればわかること」 (2001)、 「美しい人」 (2005)、 「愛する人」 (2010)と観てきたけれど、彼の作品は決してドラマティックではなく、むしろ登場人物一人一人に寄り添うようにして語られていく。静かな余韻に浸りながら観終わるも、本当の感動や映画が語ろうとしたテーマといったものは、そのあとから、映画館から駅に向かって歩いている間とか、電車の座席に座っている間に、ゆっくりと、打ち寄せるようにやってきて、静かに私自身に幾度も幾度も問いかけ続けてくる。本作もそう。 舞台はアイルランドのダブリン。 アイルランドといえば、19世紀初頭にグレートブリテン王国(いわゆるイギリス)とアイルランド王国が合併したものの、実質はイギリスによるアイルランド支配。そして19世紀半ばには大飢饉が数年間に及び、貧困とイギリスの植民地支配に苦しむアイルランド人の多くが新天地の希望を抱きアメリカへ移住。アルバートが生きたのもそんな貧困に喘いでいた19世紀のアイルランド。 20世紀になっても変らない。同じくイギリスに組されたスコットランドも同じこと。 どうせ俺たちはイギリスの子分なんだと自虐的に語り、不況の中、ヘロインに明け暮れ、自堕落で刹那的に生きるスコットランドの若者たちを描いたダニー・ボイルの「トレインスポッティング」。そんな生活から抜け出しどうでもこうでも一旗あげようとするレントン。 だれしもが貧困から抜け出したいと願いながら生きている。 より豊かな暮らし、幸福な人生を願いながら生きている。 アルバートが密かに行為を寄せるホテルのメイド、ヘレンの恋人でボイラー技師のジョー。父親の暴力と貧しさの中で育った彼はアメリカにいって人生をやり直したいと考えている。 彼の子を身ごもったヘレンとお腹の子を捨てた彼は、不実な男だけれど、「親父のような人間になりたくない。親父のようには生きたくない。」という彼もまた責められないだろう。 貧困から生み出さだされる暴力。 男たちは酒を飲み弱者である妻子に暴力を振るうことでいき所のないウサを晴らす。 そんな夫の暴力から逃れ、自分の人生を生きようと、ロクデナシを忘れないように夫の仕事着を着、夫の仕事を生業として、男として生きる道を選んだペンキ職人のペイジ。決して男に怯え泣かされる人生は歩くまいとするペイジの選んだ生き方だろう。 アルバートはホテルの塗装にきたそんなペイジと出会う。 「なんと哀れな人生を選んだんだ」 アルバートの遺体を前にそう呟いたホロラン医師。 ペイジのように自ら選び取った生き方だったら、アルバートもまた違った人生を歩めただろう。 「人はみんな仮面をかぶって生きている」 詩の本来のテーマとは異なるだろうけれど「白鳥は哀しからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ」(若山牧水)。そんな詩がふと頭に浮かび、アルバートその人に重なる。 私生児として自らの出自を持たず、スラム街の劣悪で下卑た中で生きられず、ホテルのウェイターの職を得るため女であることをひた隠し、世間に怯え生きてきたアルバートにとって、ホテルとホテル内の自室だけが自分が生きることのできる安全地帯でもあったのだろう。 世間という現実から隔離したホテルという空間に身を置き、自分の世界を作り上げ、そこで生き続けてきたアルバート。 自ら選んだ人生ではなく、そういう風に生きていくしか仕方なかったアルバートの人生だっただろう。 女であることを隠し、男として生きるアルバートとペイジ。 二人の女の生き方を比べた時、アルバートの人生はそのイノセントさゆえに尚いっそう痛ましい。 チフスで亡くなったペイジの妻キャスリーンが二人のために作ったドレスを着て海辺を歩くシーンがある。現実の世間の中で堂々と生きているペイジはどうみても女装した男性。片やアルバートは隠し続けてきた女を恥ずかしそうに少しずつ出していく風に見える。しかし長いドレスが裾に絡まり転んでしまったアルバートは、男として生きている己の現実を思い知る。 そのペイジも、ヘレンが産んだ私生児として生まれてきた子供が男の子であることに笑みがこぼれる。 この子は少なくともアルバートのような哀しい人生を歩むことはないだろう。 自分もヘレンも味わったような、男に泣かされる人生は歩まないだろう。 その笑みに、やはり根深い男社会の存在を感じずにはおれない。 アルバートという一人の人間の、そういう風にしか生きれなかった一人の女性の人生。そこに階級社会、同性愛、家庭内暴力といったテーマもまた織り込まれている。 本作は、主演のグレン・クローズがオフ・ブロードウェイの舞台で主役アルバート・ノッブスを演じたのは1982年。死ぬまでに是非この役をスクリーンでと、思い続けての映画化だとか。自ら製作、共同脚本にも携わった本作。 ペイジを演じたジャネット・マクティア。 彼(いや、彼女)がアルバートに胸を見せるまで、ずっと男優だと、こんな素敵な俳優がいたのねぇって思っていた。 女優だと分かってからも、仕草とかセリフの物言いとか目線とかに、やっぱり素敵な男優って思えてくるから、彼女の演技は凄い! ともに男として生きる道を選び、同じ痛みを分かち合える者同士でありながらも、あまりにも違う二人の女性、アルバートとペイジを演じた二人の女優に拍手です。 ただ、一つ。 ロドリゴ・ガルシアが監督ならば、脚本も彼にと思うのは欲張りすぎかしら。 今までのガルシア監督作品は常に彼が脚本も手がけている。 いろんな事情があってなのだろうけれど、ガルシア監督が脚本を手がけていたら…って思う。
by mChouette
| 2013-01-25 00:00
| ■映画
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