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原題:The City & the City 同じ領土を有する二つの国、べジェルとウル・コーマ。 二つの国の国民は互いの国は存在しないものとして振舞わなければならず、相手の国、人も車も建物、相手の国に属する全てを、見えたとしても見てはいけない、聞いてもいけない、ましてや触れてもいけない。二つの国に厳然として存在する掟に違反することはブリーチ行為とされ、ブリーチと呼ばれる組織がどこからともなく現れて、違反者を連行しいずこかへ消えてしまう…… 二つの国は違う言語を持ち、その服装によっても容易に区別はつくらしい。二つの国それぞれの地図は自国領土である<完全(トータル)>、自国領土外<異質(オルター)>、そして二つの国が密接に隣接する、ほとんど共有ともいえる<クロスハッチ>の大きく3つに色分けされている。 クロスハッチされた道路はべジェルの道路でもありウル・コーマの道路でもあり、相手の国の車を見ずに、相手国の車を避けながら走るという事態は彼ら両国にとっては日常茶飯事。 同じ場所でもウル・コーマ側から見た景色とベジェル側から見た景色は異なる……とかどうとか。そしてブリーチといわれる、二つの国のある領土にどちらの国にも属さないところまで出てきて……。 登場人物たちの置かれた状況やシーンを思い描くのに、3D的イマジネーションが強いられるような…。そういうわけで持続する集中力は数ページとなる。 読み始めは、二つの国の普通じゃない設定に戸惑い、スムーズに読み進めなかったけれど、殺人事件の捜査が本格的に行われ始めたあたりから、俄然面白くなってくる。読み進むペースは変わらずだけど。 まったくよくもこういう設定を作者であるチャイナ・ミエヴィルは考えついたものだと感心させられる。 きわめて複雑かつ厄介かつ面倒な関係にある二つの国については作者は完全に熟知して書いているのだろう。二つの国についての親切丁寧な説明などはなくって、これは当然のごとくとして、読むものを一つの領土を共有する二つの国べジェルとウル・コーマーで起きたある女子学生殺人事件へと引きずり込んでしまう。 読者を散々翻弄させてきた<完全(トータル)>、<異質(オルター)>、<クロスハッチ>そしてブリーチ。これらを見事に逆手にとってというべき面白さで、事件は収束に向かう。 もとは一つの統一国家だったとか。 それが分裂し、相手側を異質なものとして存在そのものを否定し、視界から抹殺し、違反者にはブリーチなる恐怖の処罰が課せられるという、荒唐無稽とも思えるけれど、これこそが人間というものの本質、そこから生み出される、戦争で築き上げられた人類の歴史そのもの。 本作の映画化って話はないのかしら。 これが映像化できたら、面白いだろうなって思う。 デイヴィッド・リンチ的世界にも似た、ブレードランナーの匂いもするような…そんな世界。しかし事態はもっとシリアスだろう。 本著冒頭の謝辞で最後を締め括りはブルーノ・シュルツ「肉桂色の店」(工藤幸雄・訳)よりの一文が掲げられている本作の著書でイギリス人のチャイナ・ミエヴィルさんってこんな方。なるほど、作品テイストと違わぬ方とお見受けした。
by mChouette
| 2012-06-30 00:00
| ■一冊の本
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