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十七歳的単車農村から北京にやって来て自転車宅配便の配達人となったグェイだが、会社から借り受けたマウンテンバイクを盗まれてしまった。 宅配会社では、最新式のマウンテンバイクを配達員に支給し、売上は歩合制で配達員と会社で分配。自転車は配達員の給与から差し引かれ償還が終ったら自転車は配達員のものになるというシステム。農村から出稼ぎに来たものにとっては、返済するとはいっても、足となる自転車を支給されての仕事だから恵まれた条件といえるだろう。 北京に住む高校生ジャンは、家の金を盗んで中古自転車を買った。 その自転車は小貴の盗まれたマウンテンバイクだった。 彼が着ている制服から察するに北京でも名門の進学校なのだろう。一人っ子政策で受験熱が盛んな中国にあって進学校に進学するのは裕福な家の子供たちが多いだろう。彼らの間ではマウンテンバイクの曲乗りが流行している。マウンテンバイクは高校生の彼らにとっては一つのステイタスでもあるんだろう。 しかしジャンの家は貧しい家庭で父親は生活を切り詰めて教育費を捻出している。ジャンと約束した自転車も再婚した異母妹の進学費用で先延ばし先延ばしになっている。 親の金を盗んで買った自転車は友人達の賞賛を受け、ガールフレンドも出来た。 原題は「十七歳的単車」。グェイもジャンも17歳の少年だろう。 一台の自転車をめぐる二人の少年を通して、経済的な急成長を遂げ急激に変貌する中国社会の、都会と農村、貧富の落差、その著しい落差社会の実態が見えてくる。 夫が一時期単身赴任していた北京を私と子供たちで観光気分で訪れたのは15年ほど前だっただろうか。メインの道路は車と自転車がひしめき合って走っている。グェイが暮らす家からみえる高級マンションの窓の向うに見える一人の女。とっかえひっかえ服を着替え、窓越しに見えるその姿を「窓辺の女」と呼び高嶺の花と思われたその女は、農村からの出稼ぎで、主人の留守に勝手に服や靴をきて、いくつかを盗んでは売りさばいていたという。 急速なモータリゼーション社会の中国だけど、自動車をもてるのは一握りの富裕層だけだろう。庶民の足はもっぱら自転車。盗まれた自転車を捜し求める小貴の姿とともに、荷台に中古の冷蔵庫や、マットレスを荷台に積んで走る自転車もあれば、家財道具を積んで走る自転車もある。 日本に例えれば、戦前と戦後の復興期とそして現代が一緒くたになっているような、そんなアンバランスに歪んだような中国社会。 物質主義経済の波を急激に浴びる一方で、本作が上映禁止処分になるその厳しい規制との間の落差は、マウンテンバイクを巧みに乗りこなす青年にするりと乗り換えたガールフレンド。 ジャンが自転車で小路を走り回る二人を追いかけて、石の塊をその青年にぶつけた暴力。報復で巻き添えを食ったグェイ。彼の自転車を狂ったように破壊し続ける報復仲間の一人。その少年を石で殴りつけた小貴。 よろける身体で自転車を担ぎ、自転車と車のいきかう北京の大通りを歩くグェイの姿は、雑踏の中でその姿は見えなくなる。 同級生からの苦肉の折衷案で、一日交代で自転車を共有することになったグェイとジャン。いつしか二人の間に一台の自転車を通して親密感が生まれ握手するまでになった。 そんな二人の少年の純な部分も、暴力という形で掻き消されてしまう。 農村から出てきたグェイの一本気で真っ直ぐな眼差しが、北京の町で薄汚れてしまわないかしらと、そんな思いを抱きながら、彼の姿が埋もれた北京の雑踏の映像が映し出されたラストシーンを見つめていた。 一台の自転車をめぐって二人の少年がみせるそれぞれの執着。 一人にとってそれは生きる糧であり、一人にとっては都会に暮らすものの欲望を充たす為のものだった。 一台の自転車を通し、中国社会の現実を描き出した本作。 17歳の少年二人のリアルな青春を見事に演じたツイ・リンとリー・ピンは、ベルリン映画祭で新人男優賞を受賞。 そして、カメラが映し出す中国・胡同の街並みは美しい。 その胡同も北京オリンピックで一部の保存地区を残し、大部分は取り壊されているとのこと。 かつての日本以上の加速度で押し寄せる近代化の波は、中国から美しい物までも踏み潰していくんだろう。日本が歩んだ同じ道を中国も進んでいくんだろう。 一握りの都会人口と、正確な数字がつかめないといわれる農村人口。 ワン・シャオシュアイ監督が、変りゆく中国に対し、さまざまな思いをこめて撮りあげた作品なんだろう。
by mChouette
| 2012-02-25 00:00
| ■映画
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