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A SINGLE MAN
2009年/アメリカ/101分 at:梅田ブルグ 監督: トム・フォード 久々に美しい映画を観た。 堪能の一言に尽きるほど。 でもその美しさは決して自己陶酔的な、あるいは自己満足的な美しさではなくって、 16年間、一緒に暮らし愛し合っていた恋人を失い、耐え難い喪失感にあった一人の男が、恋人のいない人生に訣別すべく死を決意した1日を追い続け、男の内面を描き出したその映像から、同性愛のメンタルな部分が赤裸々に語られ、そして、やはり美しい。 その美しさを、監督トム・フォードが美しいと感じるままに、些かの躊躇いもなく、その美しさが映像の隅々にまで描きあげられている。 オープニングの幻想的ともいえる水中シーン、映像を覆うメロディ。のっけからその美しさに眼を奪われる。 そして恋人ジムの死とともに、自ら生きる意味を喪った男ジョージを演じ切ったコリン・ファースの演技にただただ堪能。 「A SINGLE MAN」この言葉に到達するまでの一人の男の内面の葛藤を描き出した映画ともいえるし、この言葉の中に同性愛者としての覚悟のようなものさえ感じる。 フランソワ・オゾンの「ぼくを葬る」でガンに侵された同性愛者の主人公が、恋人と別れ、生きた証として、子供を熱望する夫婦に精子を提供し、そして夕陽に照らされた海岸で一人静かに息を引取る。エイズを発症したフランスの作家エルベ・ギベールは、死に至るまで一人で生きる道を選んだ。そんな彼らの生き様が「A SINGLE MAN」という言葉と重なる。結婚や家庭といった代償も、愛を転換できるものもなく、純粋に愛で結びついた絆。 本物の愛だと言い切れるだけの絆。 私にはそういえる人がいなかったわ。ジョージの元恋人だったチャーリーの結婚生活は9年で破綻し、今ではジョージにとって心を許せる女友達。今もジョージを愛し、愛にしがみつこうとする彼女の姿も痛々しい。 「女として不幸なら、女を捨てろ。」そう言い切るジョージの言葉もまた人生の重さを感じさせる。 コリン・ファースも素晴らしかったけど、チャーリーを演じたジュリアン・ムーアもさすがの演技。時代背景は1962年のアメリカ、ロサンゼルス。 ジョージとジムが出会ったのはそれよりも16年前。戦後まもなく。 同性愛は犯罪と見なされていた時代。その中でもとりわけ厳しかったイギリス。同性愛に目覚めたジョージがロンドンからロスに移住したのも、生き難い状況から抜け出す為でもあったのだろう。 海岸の砂浜からたった一つの原石を見つけるように、微かなサインとアイコンタクトで相手を嗅ぎわけ近づきあう様もあの時代なのだろう。 ロンドンに戻るようアドバイスするジョージに、チャーリーが答えるセリフも興味深い。 「ロンドンからアメリカに行くことは人生の勝利のためよ。戻ることは敗北を意味するわ。」窒息しそうなイギリスにあって、時代は自由なアメリカを求めたのだろう。しかし、そのアメリカの中で孤立するイギリス人。 クリストファー・イシャーウッドの原作を元に、ファンション、デザイナーとして活躍していたトム・フォードの、カミングアウトした彼の生き方にも通じる彼の美学ともいえるフィロソフィーが、セリフの一つ一つ、登場人物の表情の一つ一つ、映像の隅々にまで緻密に編みこまれた本作。 「泳ぎましょう」といったケニーの言葉に、「いいね」と応え、酒場のドアから弾かれたように夜の海岸に向かって走るジョージの姿に、思わず涙が溢れそうになる。もう一度、生きていた実感に輝いていた日々に向かって走り出すような、もう若くはない中年になった、そんな彼の心模様が感じられて……。一つ一つのシーンにジョージの心情がコリン・ファースを通して切ないほどに伝わってくる。 追加音楽として梅林茂がクレジットされている。彼がどこまで本作の音楽に関わったのか分からないけれど、公開初日の土曜日に観にいき、映像と音楽を堪能したくって日曜日に女友達を誘って2回目鑑賞をしたほど。 恋人ジムを失った大学教授ジョージに教え子の一人ケニーが近づいてくる。 目のきれいな青年で、彼がなんと「アバウト・ア・ボーイ」でヒュー・グラントと共演したあの子役の男の子。そういえは目元に面影が残っている。ニコラス・ホルト。 ジョージの恋人ジムを演じたのはウッディ・アレン「マッチ・ポイント」でジョナサン・リース=マイヤーズ演じる主人公の、上流階級の友人で、彼の義兄になるトム役を演じたマシュー・グード。 コリン・ファーストいい、ニコラス・ホルトといい、マシュー・グードといい、それからダニエル・ディ・ルイス(本作とは関係ないけど)、美しいのはやっぱりイギリス男性。この映画の感想を!!!!だらけでメールしあった友だちと了解しあった結論。「もう一度アナザーカントリー観たくなったわ」っていう彼女の言葉にはまさに同感。久々の、堪能するほどに美しい映画を観させてもらって、これで当分観たい映画がなくっても愚痴をこぼさずにすみそう。
by mchouette
| 2010-10-04 00:00
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