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![]() <岩波ホールセレクション>という名称で、過去の名作を含めた企画上映を受け、梅田ガーデンシネマでも随時上映されるのは嬉しい。 LE SILENCE DE LA MER 1947年/フランス/86分 監督: ジャン=ピエール・メルヴィル ジャン=ピエール・メルヴィルといえばフランス映画界にあって「仁義」「サムライ」などのノワール作品で有名な方。 以前にも「賭博師ボブ」の記事をあげたことがある。 本作は第二次大戦に従軍した後、1946年に自らプロダクションを立ち上げ、自主制作で映画を作り始めたジャン=ピエール・メルヴィルの初の長編映画。本作をみて感銘を受けたジャン・コクトーが、自身の小説『恐るべき子供たち』の映画化に際して、メルヴィルに脚本・演出を依頼したといわれている。 そしてアンリ・ドカエにとっても初めての長編映画撮影であり、低予算映画のため、撮影用ネガ・フィルムはメルヴィルがあちこちの映画会社から払い下げてもらった端尺の寄せ集めフィルムで、色調を揃えるのに苦労し、やむなく全体のトーンを暗くせざるを得なかったそうだ。 本作が撮影監督としてのアンリ・ドカエの出発点、原点ともいえる作品でもあるだろう。 スタジオを使わず、実際にドイツ将校が間借りしたヴェルコールの自宅を使い、わずか27日間で撮りあげた自主制作の低予算映画。メルヴィルがヌーヴェルヴァーグの精神的支柱といわれるところだろう。そしてそこでカメラマンとしての手腕をみせたアンリ・ドカエ。 そして本作は、フランスの哲学者サルトルが、占領下のフランス、抵抗の4年間を「沈黙の共和国」と表現するように、沈黙という抵抗の姿勢を描いた作品。 ヴェルコールによるこの同名原作は、フランスがドイツに敗退し占領下となった直後の1941年に執筆され、占領下の抵抗文学を象徴する「深夜叢書」の第一作として1942年に地下出版によって刊行された本だそうだ。 映画の冒頭シーンは、橋に立つ一人の男。トランクを提げたもう一人の男が近づき、その男に手渡す。男がトランクを開けると、衣類の下から「LE SILENCE DE LA MER<海の沈黙>」と題された一冊の本が隠されていた。こんな風に占領下のフランスで「海の沈黙」はフランス人たちの間で密かに読まれ、戦後はベストセラーとなり、劇化されたそうだ。 そして映画化されたのが本作。 ドイツ占領下のフランスの田舎町。この地に駐留するドイツ軍将校の宿舎として部屋を提供せざるを得なくなったその家に暮らす老人とその姪。 ![]() そのドイツ将校は、子供の頃からはるか遠くに住む美しき姫君を思う如くフランスに憧れ続け、この戦争はフランスとドイツの文化の結婚を意味し、それはまさに美女と野獣の物語であり、この結婚によってドイツは美しき騎士になるのだと、戦争によってもたらされる二つの国の文化の融合を信じて疑わず、夜毎、老人と姪がくつろぐ居間の暖炉の前で、フランスに対する熱い思いを語り続ける。 そして老人と姪は、ただ沈黙を続け、彼がその場にいないかのごとく、今までと変わらぬ生活を淡々と続ける。 将校がいた6ヶ月間のその生活を振り返り語る老人のナレーションと、ドイツ将校の台詞。そして物語りの大半は居間の暖炉の前で、語り続けるドイツ人将校と、パイプをくゆらす老人と淡々と縫い物をする姪の沈黙し続ける二人の姿が描かれている。 将校のフランスに対する熱き思いは、凛とした毅然さで沈黙を貫く姪への思いと重なり、その思いを全身に感じながら息を詰めるような姪の、平静を装いながらも緊張した沈黙が、見るものに痛いほど突き刺さってくる。 フランスとドイツの文化の融合を夢見た将校の光は無残に打ち砕かれ、前線を志願した彼は、出発の前夜、「おやすみなさい」の言葉に続いて、別れを意味する「Adieu(アデュー)」と告げる。 老人は沈黙し、姪は沈黙の言葉が静にコップの縁から零れ落ちるかのように、小さく「Adieu」と応えた。 暖炉の前の3人の姿。沈黙がもたらすストイックなまでの緊張感が、モノクロ映像を通して見るものに与える。 ![]() どれほどの人間的に素晴らしく心優しき者であっても、ドイツ軍としてある以上、彼らにとっては侵略者以外の何ものでもない。 「彼ほどの人間であっても、上司の命令には従わざるを得ないのか。」 老人が将校が居たあの6ヶ月間を振り返る冒頭の独白が甦ってくる。 この戦争に托した己の夢が破れ、絶望の果てに前線を志願したその将校は、おそらくはその地で命を落としているであろう。 一人の人間として彼を思い、しかし一方でドイツ軍としての彼を拒絶する厳しさをみせ老人は回想する。 彼を知るほどに、内面では彼を受け入れながら、侵略者ドイツとして彼を無視し続ける己の行為を愚かと恥じ、揺れ動く内面をも「沈黙」という強く深く静かな姿勢で抵抗を貫き通した人間を描いた本作。 ドイツ占領下のフランスで、何ものにも屈しない毅然とした抵抗の意思を海にたとえ深く静に謳いあげたヴェルコール。既存の力に頼らず、抵抗し、自主制作で本作を完成させたメルヴィルの強い意思。寄せ集めフィルムという最悪の環境で素晴らしいモノクロ映像に仕上げていったアンリ・ドカエ。 「抵抗と人間」というテーマにふさわしい作品だろう。 そしてこの作品は、今回が本邦初公開だそうだ。 姪の美しい横顔が素晴らしい映画ポスターを買ってしまった。 ドイツ人将校を演じたハワード・ヴァーノンは舞台俳優だが、老人を演じたジャン=マリー・ロバンはメルヴィルの戦友、そして姪を演じたニコール・ステファーヌは家族ぐるみの友人で、二人ともプロの役者ではなかったそうだ
by mchouette
| 2010-03-24 15:10
| ■映画
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