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THE INCIDENT
1967年/アメリカ/103分 日曜の深夜。マンハッタンへ向う電車の車両に乗り合わせた人々が、乗ってきたチンピラ2人の粗暴な嫌がらせや挑発に直面する恐怖を描いた「ある戦慄」。 一つの小さな車両を舞台に、都会に巣食う暴力と恐怖、現代人の脆さやエゴ、ひいてはアメリカ社会の病巣の一端を見事に切り取った作品だろう。 本作の鑑賞は3度目くらいになるだろうか。 観る度にやはり戦慄を覚える作品だ。 原題は「THE INCIDENT」は”ある出来事”とでも訳せるだろうか。 戦慄を覚えるのは、チンピラたちの暴力的な振る舞いではなく、おぞましい恐怖の時間が過ぎた後、むしろ、おぞましいものから眼をそむけるように車両からそそくさと、あるものは憮然と出て行く乗客たちの方だ。 車両で起きていた出来事も知らず酔いつぶれて眠りほうけている酔っ払いが、座席から転げ落ちても、彼を起すでもなく、汚物のような視線で彼を見ながら、避けるように列車から出て行く乗客たち。 チンピラをやっつけるもナイフで刺され倒れた兵士に、駆け寄って友情を示すもう一人の兵士。「何かすることはないか?」と兵士に尋ねる乗客の一人。 兵士が味わう絶望感は、ナイフで刺された傷の痛みよりもさらに深く強いだろう。 都会の縮図、現代人の脆弱さ、現代社会の病理…まざまざと赤裸々なまでに見せつけられる作品だ。 本作のラリー・ピアース監督の作品は『さよならコロンバス』(1969)を観たぐらい。女子大生を演じたアリー・マッグロウのファッションが素敵だった印象だけが残っていて、台頭して来たアメリカン・ニューシネマの作品の陰にかすんでしまった感あり。あと「別離」も観たかな? そんな程度の印象しかない。 そのラリー・ピアースが、その前にこんなに鋭くアメリカ社会の断片を切り取った作品を撮っていたとは! しっかりと書かれた脚本とそして演出、映像、そして役者たちのしっかりとした演技、台詞。 狭い空間で起きたチンピラ二人と乗客たちがみせるさまざまな反応に、アメリカ社会が抱える陰鬱な闇が鮮やかなまでに描かれている。 チンピラ青年を演じるのはトニー・ムサンテと、本作が映画デビューとなる若き日のマーティン・シーン。 言葉の暴力で乗客たちを挑発し続けるトニー・ムサンテと、次の瞬間何をやらかすかわからない狂気を紙一重でもつマーティン・シーン。二がみせる立ち回りが凶暴な渦が次第にエスカレートしていき、恐怖の空間を生み出していく、そんな二人の演技は迫真ものだ。 マーティン・シーンはこのあとテレンス・マリック監督デビュー作「地獄の逃避行」の主役に抜擢され、そして「地獄の黙示録」のウィラード中尉役で広くその名を知られることになるのだが、不遇の時代が長く、「地獄の逃避行」の主役には撮影現場に向かう途中、こらえきれず車を停めむせび泣いたそうだ。彼らに立ち向かう世間ずれしていない兵士にボー・ブリッジス。ジェフ・ブリッジスのお兄さん。ジェフと共演した「恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ恋のゆくえ」でも人の良い苦労人ぽい雰囲気をみせていた。 屈折した感情をみせる黒人男性は「アラバマ物語」(1962)のブロック・ピーターズ。 理由なき暴力、殺人が続く最近の世相。 40年前のこんな映像をみると、現代社会の闇と病巣はその原因すらすでに見失ったまま治癒不可能なまま混迷しているように思う。
by mchouette
| 2009-11-11 11:20
| ■映画
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