by mChouette 検索
カテゴリ
全体 ■映画 =映画:あ行 =映画:か行 =映画:さ行 =映画:た行 =映画:な行 =映画:は行 =映画:ま~わ行 ■映画・雑記 ■ドラマ ■展覧会・コンサート ■一冊の本 ■徒然なるままに… ■美味しいもの ■アウトドア・旅 ■勝手にバトン ■ご挨拶・お知らせ 未分類 最新の記事
その他のジャンル
|
話が横道から入ります。
ケーブル放送で6回シリーズの2時間ドラマで放映されている「アラン・ドロンの刑事フランク・リーヴァ」。2003年から2004年にかけて製作されたフランス・ドイツ合作のTVドラマ。 暗黒街を牛耳っていたロジャ・ファミリーのドンが逮捕され組織が崩壊して25年。組織崩壊は組織に潜入していた捜査官の働きによるものだった。しかし組織から命を狙われフランク・リーヴァと名前を変え国外へ亡命した男は、25年後、当時の同僚で警視庁長官になっているグザビエからの電話で再びパリに戻ってきた。麻薬犯罪を追っていたパリ管轄のレゾーニ警視が射殺され、彼の後任を命じられる。その背景には崩壊したはずのロジャ・ファミリー復活の動きがあった。 こんな風に始まってフランク・リーヴァとロジェ・ファミリーの宿命の対決が展開されるのだけれど、グザビエ長官にはジャック・ぺラン。そして25年前に突然目の前から消えたフランクとの愛を今も引きずっている元恋人役には、かつて恋人だったミレーユ・ダルクが! 彼女ももう60歳過ぎなんだ。でもトレードマークみたいだったおかっぱ頭も、スレンダーなスタイルも若い時そのまんま。 そしてそんなフランクを建物の陰からじっと見詰める若い女性。彼女の手には一枚の写真が。なんとミケランジェロ・アントニオーニ監督の『太陽はひとりぼっち』の若きアラン・ドロンとモニカ・ヴィッチのショットの、ヴィッチの顔を一人の女性の顔に挿げ替えたもの。これには思わず笑ってしまった。 こんな刑事役のアラン・ドロンをみていると、ジャン=ルイ・トランティニャンが冷酷無比な極悪人を演じ、ドロン演じる刑事が脱獄した彼を追い詰めていくという映画「フリック・ストーリー」が観たくなった。 FLIC STORY といっても、お目当てはかつて観たときも、そして今も、極悪非道人を演じたジャン=ルイ・トランティニャン。 彼は笑うよりもむつっと黙りこくっている方がいい。 本作は36件の殺人を犯し、フランス犯罪史上、最も兇悪なギャングといわれるエミール・ビュイッシュを追う国家警察の刑事ロジェ・ボルニッシュの活躍を描いたもので、実在の刑事ロジェ・ボルニッシュの手記をもとに映画化されたもの。 ドロン演じるロジェがエミールについて恋人に語るシーンがある。 「親父がアル中で盗みを教えたらしい。子供の時に。 だからまじめな生き方を知らない。かわいそうな奴だ。」 ロジェの兄はナチスの拷問によって殺された。 口を割らない容疑者を暴力で自白させようとするやり方には批判的なロジェ。 警察官としての矜持をもつロジェは、おそらくはともすれば悪の道に走る貧しい環境で育ち、その中で必死に自分を律し、刑事の道を選んだのだろう。 彼の生い立ちに関する説明などないけれど、取り調べの手は決して甘くはないけれど、犯罪者も刑事も同じ人間だと考えるロジェの姿勢にそんな背景が感じられる。 たとえ警察であっても仲間であっても、顔色一つ変えず、一瞬の躊躇いさえ持たず即座に射殺するエミールの非道さには、同じ強盗仲間も驚愕する。 激務であっても職務に忠実に邁進するロジェと、悪の道に邁進するエミール。 決して感情に動かされることなく、冷静な判断で相手を見極めていく二人は、歩む道は正反対であったとしても本来は似た者同士なのかもしれない。 映画はロジェとエミールが交互に語られていく。 極悪非道なエミールが聞くのはエディット・ピアフの「La Vie en rose(ばら色の人生)」。 何度も何度も聞いたのだろう。レコード盤から聞こえる音は磨り減っている。 ピアフもまた一歩違えば町の娼婦になっていたかもしれない極貧に育った。 だからなのだろうか、彼女はシャンソンを歌い、人生そのものを歌っている。 悪道しか知らずに育ったエミールの人間としての琴線に触れるピアフ。 ロジェがエミール逮捕の罠を仕掛けた郊外の小さなホテル兼レストラン。 レストランでロジェと恋人と刑事2人が民間人を装って立ち寄る。 ロジェの恋人がレストランにおいてあるピアノで何気なく爪弾いた「La Vie en rose」。 その音色に誘われて投宿していたエミールがレストランに現れ、ピアノの傍らで聞き入っている。 「ピアフを」 微かな笑みを浮かべてピアフをリクエストするエミール。 食事の前の和やかな光景に映るが、実はエミール逮捕を直前にしての息詰まる場面でもある。 和やかに現れたロジェたち4人。その中の女性が食事を待ちながらピアノを爪弾いている。 エミールがかつて味わったことのない空気だろう。 そしてふっとエミールが自分でも気づかない本来の彼にもどった瞬間でもあるだろう。 観ている方も、幸福の味さえ知らずに育ったエミールにふと憐憫を感じる瞬間でもある。 だからフリック・ストーリーは、刑事役のドロンよりも、極悪非道なエミールを演じたトラティニャンに惹かれる。 時代は終戦後間もない1947年冬。 映画の中で男たちが着ているコート姿もお楽しみ。 ドロンが着ているのはオリーブグリーンのトレンチ・コート。ツィードのパンツ。これはこれで素敵なんだけれど、私の注目はギャングたちが着ているオーバーコート。 コートの襟は広めのピークドラペルいわゆる剣襟のダブルのコート。 カッコいいんだな、ピンと上に伸びた剣襟。 今ではあまり見かけなくなったけど大好きなデザイン。 それからパリの街もお楽しみ。 刑務所を脱獄したエミールが日常の空間に紛れ込む。彼らを探そうと張り込みを続けるロジェたち。そんな映像から何気ない日常の生活空間としてのパリも楽しめる。 石畳のパリの坂道。子どもたちがボール遊びしていて車の前にボールが転がる。そのボールを拾おうと子どもが車道に飛び出して、ヒヤッとしたら車が止まって…そんな日常のありふれた光景の、その横では警察から逃れるエミールや、彼らを追撃するロジェたちが行きかう。 そしてパリ郊外の冬枯れた景色。 アラン・ドロンとジャン・ルイ・トラティニャンという二大スターを配し、ドロンとベルモンドの「ボルサリーノ」とはまた一味二味違う、ジャック・ドレ監督が撮った男同士の物語。 一卵性双生児の光と影ともいえる作品。 こうやって見直したくなるのは、小道具のスパイスも効いているし、やっぱりトラティニャンに、悪しか人生を知らない男の悲哀をふと感じてしまい、そこがまたたまらん魅力なんでしょうね。この映画。 ドロンで始まったのだから、最後もドロンで締めくくりましょう。 ロジェを演じたドロン↓
by mchouette
| 2009-10-29 00:39
| ■映画
|
ファン申請 |
||