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GRACE IS GONE 原題にあるGraceはホームセンターで働くスタンレーの妻であり、12歳のハイディと8歳のドーン二人の娘の母親。そして彼女は軍人でイラク戦争に出征している。グレイスはスタンレーにとっても子供たちにとっても一家の太陽のような存在だったんだろう。そんな彼女のいない母親不在の父親と娘たちだけの生活は、それぞれの胸にぽっかりと穴のあいた味気ないものだろう。父親と娘の会話もどことなくぎこちなく、互いに居心地の悪さがつきまとう。 そんなスタンレーの元に突然届いた妻の戦死の報せ。 戦いにいくのは男という時代から、今ではこういうパターンもあるんだって思うととっても今日的な設定。イラクでは90人以上の女性兵士が死んでいるんだそうだ。 愛する妻の死をどう受け止めればいいのか、彼自身が茫然自失のなか、母親の帰りを待ちわびている娘たちにこの死をどう話せばいいのか…… 車で行ったレストランでも子どもたちに話せないまま、スタンレーは突然に子どもたちをそのまま旅行にいこうと提案する。行き先はドーンの希望で出征前に家族で訪れたフロリダにある遊園地「魔法の庭」。 途中で立ち寄った実家でスタンレーの弟が出てくるけれど、物語はジョン・キューザック演じる父親と二人の娘たち3人が織りなす数日間のロードムーヴィともいえるだろう。 途中で立ち寄ったショッピングセンターで、ワンピースを試着する娘たちを愛しい眼で見つめ、ピアスをせがむ娘たちの穴をあけるのを見守ってやったり……ぎこちなかった父と娘たちの間に、母親とは違う絆が芽生えはじめていくのが見えてくる。 でもこの子達にいつかは打ち明けなければならない母親の死。笑顔をみせるスタンレーの眼が、時として虚ろに、時として必死になる ジョン・キューザックが朴訥としたごく普通の父親役を実に見事に演じていた。 父親の衝動的な行動を訝しげに思いながら、自分の気持ちをじっと抱えもって黙って父親をみつめるハイディ。12歳という多感な年齢のこの役をシェラン・オキーフがとても繊細に演じていた。 8歳のドーンを演じたグレイシー・ベドナルジクも、無邪気にはしゃぐ姿がとても自然で子どもらしく、でもふっとみせる母への恋しさの思いも見事に演じていて、ジョン・キューザックと2人の子役の演技の見事なハーモニーがあってこその本作の素晴らしさだろう。 銃後の家庭の悲劇をことさらに強調し涙を誘わせる演出ではない。 グレイスだけでなくスタンレー自身もかつては近視を隠して軍隊に志願したほど、愛国心をもっているおとこだけれど、かといってイラク戦争を擁護するものでもなく、反戦を掲げたものでもない。 とても大切なものを喪失した家族の再生、家族の絆を描いた作品だろう。 しかし多感な年齢のハイディは、母親が出征したイラク戦争に対するマスコミの報道や世論にも敏感に反応する。 「ママは行かなければならなかったの? この戦争は正しいの?」 そんな問いかけを父親に向ける。 「正しいと思ってやらなければならないこともあるんだ。」 途中立ち寄った実家で、イラク戦争に批判的な弟とスタンレーが衝突するシーンがある。スタンレーにとってイラク戦争を批判することは愛する妻と子ども達の母親を侮辱することにも繋がり、彼女の死、彼女の人生そのものが無意味なものになってしまう。 イラク戦争が正しいのか誤っているのか、しかし送り出した家族にとっては軍人の任務として戦場に行ったママを正しいと信じることこそが家族にとっての真実だろう。 日常の光景の中で淡々と描かれていく父と娘たち、スタンレーと弟、そしてスタンレー自身、ハイディそしてドーン。 それぞれがとてもごく普通に描かれているのだけれど、それが却って彼ら一人一人の思い、痛みがリアリティをもって胸に伝わってくる。 3人の演技も素晴らしかったけれど、脚本も執筆した本作監督ジェームズ・C・ストラウスの日常に向けられた視線、感覚も素晴らしいのだろう。 ドーンの腕時計は戦場にいる母親と同じアラーム設定されている。アラームがなったら距離は離れているけれど母と娘は互いに相手を思い祈りましょうとグレイスが出発する前にドーンと交わしあった約束。 こんなところにもストラウス監督の細やかな演出がみえる。 本作に流れる美しい楽曲はクリント・イーストウッド。彼が自分の監督作以外に初めて曲を提供したというのも肯ける気がする。 本作は劇場公開では時間の都合ができず見逃した作品だったけれど、何度も涙腺を緩ませながら、家でじっくりと鑑賞できて良かったなって思う。
by mchouette
| 2009-10-03 00:00
| ■映画
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