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この映画、トーマス・クレッチマンが出ていなかったら、観に行ってなかった。 VALKYRIE 2008年/アメリカ・ドイツ/120分 at:TOHOシネマズ梅田 監督: ブライアン・シンガー 忠誠を誓うのはヒトラーに対してか? 祖国ドイツに対してか? ドイツ軍内部でも、上層部の軍人たちの多くは貴族階級出身者で、筋金入りの愛国者。そんな彼らにとってヒトラーとナチス・親衛隊の非人道的な横行は祖国ドイツを汚辱するものであり、ヒトラーへの忠誠を捨て、祖国ドイツに対して忠誠を誓う者も多かった。40回以上にものぼるヒトラー暗殺が企てられたが、ことごとく未遂に終っている。 本作でトム・クルーズが演じる反乱メンバーの首謀者シュタウフェンベルク大佐も700年以上続いた名門貴族の家柄。 今回のシュタウフェンベルク大佐を首謀者・実行者とする暗殺計画は、ヒトラーを暗殺し、かつ政権奪取を図ろうとする壮大なもの。 アドルフ・ヒトラー率いるドイツ軍が「ワルキューレ」と名づけた反乱鎮圧計画を利用し、ヒトラーが出席する会議を爆破させヒトラーを殺し、ナチス親衛隊がクーデターを起こしたという誤報を流し、反乱メンバーによって改ざんされたワルキューレ発動によって出動した予備軍によってナチス・ドイツ軍を鎮圧させ、その間に中枢であるベルリンを掌握しようと計画されたクーデター。その顛末を描いたドラマ。 北欧神話に登場する半神ワルキューレは「戦死者を選ぶ者」の意。主神オーディンの命を受け、天馬に乗って戦場を駆け、戦死した勇士たちを天上の宮殿ヴァルハラへと迎え入れ彼らをもてなすのもワルキューレの務めの一つである。そして勇士達は、ラグナロク(終末の日)での戦いに備えて、世の終わりまで武事に励むという。1944年7月20日。 暗殺計画は失敗。 シュタウフェンベルクはじめ首謀者たち処刑されるところまでで、映画は終っているが、 その後ナチ政府の反逆者狩りが始まり、軍人、官僚、民間人、聖職者など1500人が逮捕され、うち200人が処刑されたという。シュタウフェンベルク夫人も逮捕され、獄中で出産したそうだ。また首謀者の子供たちは養護施設に収容され、そこで子どもたちを洗脳しナチス国家に有用な人材に育て上げる予定だったが、これは子どもたちの激しい抵抗で実現しなかったそうだ。 この暗殺未遂と、その後の関係者処刑の9ヵ月後、1945年4月30日にヒトラーは自殺を図り、5月8日にドイツは無条件降伏をした。 ヒトラーに忠誠を誓ったドイツ軍内部でも、ヒトラーの独裁政権にどれほどのレジスタンス活動が行われ続けたか、そんなドイツの歴史の一端を浮上させたことは一つの評価だろうとは思う。 でもこの映画、どうみても娯楽作品(なんでしょうけどね)。 1944年のベルリンの再現、博物館から借り受けて再現させたナチス・ドイツの軍服、出動する予備軍、そして出演者の豪華な顔触れ。 大掛かりな映像の割には、どこまでいっても娯楽作品で歴史作品ではない。 娯楽という視点でみたら面白い作品なのかも知れないけど…。 デビュー作「パブリック・アクセス」で彼の視線の鋭さに注目し、「ユージュアル・サスペクツ」のサスペンス・ミステリーには「おおっ!」と叫ばせたブライアン・シンガーだけれど、ブライアン・シンガーの関心は、この暗殺計画にかかわる者たちの葛藤や思惑といった内面ドラマよりも、一分一秒を争う時間との勝負というこの計画のサスペンス味にあったようだ。トム・クルーズをみているとこれって第二次大戦下のドイツを舞台にした『ミッション:インポッシブル(Mission:Impossible)』って思えてくる。 ドイツ国民にとって、祖国ドイツのためにナチスに叛旗を翻し処刑された彼らは心に刻み込まれた忘れられない歴史だろう。 観終わった後、真っ先に思ったのが、こういうテーマを娯楽作品として描くのって、彼らに対して、すごく失礼じゃないか?って思った。 娯楽作品としても、単にトム・クルーズをメインに計画の実行経過を追っているだけで、そこに絡んだナチス側の動きとか、反乱側の決して足並みが揃っていない状況とかの描写もほとんどなく、祖国ドイツ復興のため、ヒトラーに忠誠を誓った彼らが、叛旗を翻すということの重さを語らずして、彼ら反乱メンバーも語りえないだろう。こんなことをあれこれ思いながら観ていたせいもあるんだろう。作品として浅薄さを感じ、サスペンスとしてもさほどの面白さも覚えなかった。 この暗殺計画を絡めた映画に ピーター・オトゥールの神経症的な演技も凄かった「将軍たちの夜」(1966)という作品がある。ヒトラーが死んだかどうか、連絡をじっと待つメンバーたちのジリジリとした緊張感が伝わるシーンは上手かった! それに叛旗を翻したメンバーは、アメリカ人のトム・クルーズを中心に、ケネス・プラナー、ビル・ナイ、テレンス・スタンプ、トム・ウィルキンソンといったイギリス勢で固められていて、なんだか連合軍VSドイツ軍っていう構図みたいで、こういうキャスティングっていうのもどうなのかなぁって思う。 それに皆さん、それなりにお年を召してられる。若いのはトム・クルーズだけっていうのもなぁ…。それでもアメリカ人のトムはどうも軽く見えてしまう。 そしてトム・クルーズってどうみても700年以上続いた名門貴族の家柄という雰囲気には遠く…… そこへいくとドイツ予備軍を率いるレーマー少佐を演じたトーマス・クレッチマンの軍服姿といい、面立ちといい、雰囲気といい、彼の方がシュタウフェンベルク大佐の役に似つかわしいと思った。 予備軍兵士たちを前にバシッと長靴をそろえて立つ姿の決まっていたこと! トーマス・クレッチマンがシュタウフェンベルク大佐だったら、きっともっと良かったって思う。 信仰心の篤い、筋金入りの愛国者。忠誠を誓った国家元首としてのヒトラーに背くということの重さ、そんな複雑な心情がもっと伝わってきただろうと思う。 ドイツ人にしか出せない空気ってあるんだよね。 もうちょい彼の場面が多かったら、それはそれ、これはこれなりに満足したかも… なんと、なんと! それからシュタウフェンベルク夫人を演じたカリス・ファン・ハウテンも「ブラックブック」の時よりも顔がすっきりとしていていい雰囲気を出していた。 戦後、フォン・シュタウフェンベルクは「ヒトラーに対する抵抗運動の英雄」として賞賛され、国内予備軍司令部のあったベンドラー街 はシュタウフェンベルク街と改名され、ここに記念館が開設されて、ヒトラー抵抗運動の写真や文書が展示され、暗殺計画に関与した将校達が射殺された中庭には手を鎖でつながれた若者のブロンズ像が象徴として置かれているそうだ。 またシュタウフェンベルク大佐は敬虔なカトリック信者でもあり、その役を、サイエントロジーの信者で広告塔とも見られているトム・クルーズが演じるに当たってはドイツ国内でも強い反撥があったそうで、シュタウフェンベルクの息子は「トム・クルーズが父を演じると聞いた時には宣伝のための冗談かと思っていた。彼が演じたら台無しになる。父とは関わらないでほしい。」と拒絶感を顕わにしていたそうだ。 観終わった後、やはり、このテーマはドイツ人が真摯に描くべきものではなかったかと思う。 歴史とエンターテイメントの融合は大きなチャレンジだったと監督のブライアン・シンガーは語っているけれど、エンターテイメントで描くのは、数十年前の歴史の痛みに対して鈍感過ぎないかという思いもする。ドイツ軍による連合軍の脱走捕虜の射殺という悲劇で終った「大脱走」(1963)も戦勝国アメリカだからこそ描けたエンタティメント作品だろう。
by mchouette
| 2009-03-24 00:00
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