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VANTAGE POINT
2008年/アメリカ/90分 at:TOHOシネマズ梅田 テロ撲滅の国際サミットが開催されるスペインのサラマンカ。大観衆を集めた広場では、アシュトン米大統領によるスピーチが行なわれようとしていた。だが、演説が始まろうとした矢先、一発の銃声が轟き、大統領が狙撃されてしまう。続いて爆発も発生し、一瞬にして広場が混乱状態に陥る中、シークレット・サービスのバーンズとテイラーは狙撃犯の捜索に奔走する。一発の凶弾を巡り、8人の異なる視点から大統領狙撃事件を描いた作品。 3月20日、少し時間があって、ストーリー設定が面白そうなので、ここんとこシリアスな作品が多かったので、観てみようかなって気になって観ました。 第一の目撃者は、国際サミットをライブ中継するためスタッフたちと現地入りしていたTVプロデューサーのレックス。こんな役シガニー・ウィーヴァーはまさに適役。サミットに反対する会場外のデモ行進の撮影を禁止したり、レポーターの女性が現地でのアメリカ批判の声を伝えるのを抑えたりと報道規制、報道操作の裏側などもみせ、ちょっと面白そうな出だしだったのだけれど…… 観ているうちに、危機的状況へのアナログ的な陥りかたなどテレビドラマ「24」のような、後半の車による追跡の末、衝突した車の粉々に割れた窓を突き破り重傷もせず犯人に立ち向かう様など、ロシアでど派手なカーチェイスを繰り広げた「ボーン・スプレマシー」のような様相で、中盤からはデニス・クェイド演じる大統領のシークレット・サービスのバーンズ、彼は1年前に大統領を守り銃弾に倒れたトラウマを抱え今回に任務に就いたのだけれど、果敢にも狙撃犯達を追跡していくヒーロー物語になっていき……。なんか違うやろうと唖然とする。こんな映画つくるアメリカよ、お前はどこに向かって歩いてるんだ、そんな複雑な気持で観ていました。 本作ではテロリストと言う表現ではなく、あくまでも大統領狙撃犯という表現をしているが、狙撃犯の一人が死ぬ間際に「この戦争は永遠に続く」という言葉を口にしており、アメリカが「テロとの戦い」と言い続けているものと直結する。狙撃犯達によって血の海となった会場は、9.11のあの悲劇を再び思い起こさせ、そしてウィリアム・ハート演じる大統領に「報復はダメだ」と言わせたり、テロに立ち向かう正義のアメリカという構図があり、バーンズのトラウマは、アメリカ国民の9.11のトラウマと重なるもので、そのバーンズがトラウマを乗越え果敢にも狙撃犯たちを追う、大統領への忠誠心溢れる姿と正義は「愛国心」と結びつく。 サブプライム問題でかなりやばい状態にあり、疲弊しているアメリカ社会にあって、貧富格差が更に拡がり、中流階級は貧困階級はさらに最貧困階級に落ちていくという地滑り状態のアメリカ社会にあって、テロを暗示させる大統領狙撃事件をテーマにしたヒーロー作品は、あまりにもタイムリーで、9.11で「対テロ」「愛国心」で一丸となったアメリカ国民を、再び鼓舞させる、そんな隠された意図すら感じてしまう。穿った見方をしてしまうのは考えすぎだろうか。あるいは、こんな正義感と忠誠心のあるヒーローを必要とするほどにアメリカ国民の心は出口のない現実に疲弊しているのだろうか。 ベトナム戦争で疲弊したアメリカ国民が「スターウォーズ」で元気を取り戻した時とは、状況は違うやろう、とも思ってしまう。 こんなことを考えてしまうのも、岩波新書から発行された堤未果さんの著書「貧困大国アメリカ」を読み、9.11以後のアメリカ社会の空恐ろしいほどの実態を垣間見たこともあるだろう。 堤未果さんは、ニューヨーク州立大学さらにニューヨーク市立大学で国際関係論学を学び、アムネスティ・インターナショナルNY支局を経て、米国野村證券に勤務中に9.11に遭遇し、生かされたことをきっかけにジャーナリストとして活動している。9.11で真っ先に犠牲になったのは「ジャーナリズム」だと彼女は指摘している。 2003年にイラク戦争が始まったとき、イギリスの「タイムズ」紙など大手新聞の多くがこの戦争を支持している記事を読み、愕然とした堤さんは、担当教授の教えに従いその出所を調べると、タイムズ」が80年代に共和党支持のメディア王ルパート・マードック氏に買収されていたこと、そして彼が所有する世界中の新聞に、この戦争を支持する社説を書くよう指示したという事実にたどりつく。また1985~86年にアメリカ三大テレビNBC、CBS、ABCの3局が一斉に大資本に買収されているという事実も。 「中立とは程遠い報道に恐怖を煽られ攻撃的になり、愛国心という言葉に安心を得て、強いリーダーを支持しながら戦争に暴走していったアメリカの人々」こんな現実を目の当たりにみたこともジャーナリストに転向した一つだろう。 私も湾岸戦争の時、年間購読していたニューズ・ウィークは読めなかった。紙面の1/2はアメリカが投入する軍事力や、戦局のシュミレーションなどカラー紙面で満載されており、アメリカ一辺倒の記事に胸の悪さすら覚え、配達されてもほとんど読まない期間が続いた。 2004年までCIAのウサマ・ビンラディン追跡とテロ対策部門の責任者を務め、退任後はアメリカの傭兵派遣会社ともいえる「ブラックウォーター会社USAの副社長を務めるコーファー・ブラック氏が議会で「9.11以前と9.11以後がある。9.11以後はルール無用の世界だ」という発言をしたという。 この言葉に、ドキュメンタリー映画「暗殺・リトビネンコ事件」で、イギリスに亡命中の元FSB(ロシア連邦保安庁)中佐であったアレクサンドル≪サーシャ≫・リトビネンコは、国家をルール無用の非合法とするためには戦争が一番だと、チェチェン戦争はそのために政府によって工作された戦争だと語っていたことが、生々しく思い出される。そしてチェチェン戦争の裏側にあるFSBとプーチン政権の腐敗を告発していた彼は、放射性物質ポロニウム210を飲まされ暗殺された。彼と同じくロシア政府のチェチェン戦争の犯罪を告発していたジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤも自宅アパートのエレベーター内で殺害され、ほかにも多くのジャーナリスト達が不可解な死を遂げているという現実。 9.11以後「テロとの戦い」という名の下にアメリカ政府はあらゆる場所から国民の個人情報を入手し、その個人情報に基づいて軍のリクルーターたちが貧困層の高校生達を対象に新兵獲得に動く。あるいは不当逮捕、拘留も日常茶飯事に行われる。 戦争請負業界では、イラクは「ゴールド・ラッシュ」と言われている現実。 マイケル・ムーア監督が2004年に発表した、アメリカ同時多発テロ事件へのジョージ・W・ブッシュ政権の対応を批判する内容を含むドキュメンタリー作品「華氏911」で、議員の息子たちが範を示し、率先して軍隊に入ろうと、例によってマイケル・ムーアが議員達に呼びかけていたシーンなどもブラックを通り越して空恐ろしい。 戦争にブレーキをかけるために中将への昇進を目前にして軍を除隊したある米軍元少佐は「問題は、何に忠誠を尽くすか、なのだ。それは大統領という個人でも国家でもなく、アメリカ憲法に書かれた理念に対してでなければいけない」と語っているという。 この言葉でもって映画「バンテージ・ポイント」で描かれているバーンズの忠誠心、愛国心を振り返りたい。フォレスト・ウィッテカーが壇上に立ったアメリカ大統領の姿を感慨一入で見ていた姿も振り返りたい。作品の隠された本来描こうとしている意図が見えてくる思いがする。 本書を読み終わった後は、アメリカで、それは日本も含む世界で何が起きているのかをまざまざと見せつけられ怖ささえ覚えた。 目次だけでも紹介しておきたい ■貧困が生み出す肥満国民 ■民営化による国内難民と自由化による経済難民 ■一度の病気で貧困層に転落する人々 ■出口をふさがれる若者たち ■世界中のワーキングプアが支える「民営化された戦争」 貧困の中で、生存権と引き換えに軍隊に入り戦争に行くということが選択肢となる絶望なシステム。そして「フルメタルジャケット」や「ジャーヘッド」で描かれていた、実体験の証言から生々しい実感が伴う新兵訓練。「泣き声が聞こえるのは最初の2週間。それを過ぎると皆表情がなくなっていく。何をされても自分の感情を表に出さず「イエッサー」と叫んで命令に従うようになるんです。」「僕の知っているだけで3人が脱走を試みて捕まり、2人は精神病院に送られました。」 こんな映画を見ると、あらためてコーエン兄弟の「ノーカントリー」はアメリカひいては世界の闇と真摯に向き合った作品だという思いを強くする。 アメリカで最近も報道された銃乱射事件、解決の糸口すら見えない世界で起きている数々の紛争、日本でも心の荒廃が引き起こしたとしか言いようのない陰惨な事件、こんな報道の度に、「どうしてこんなことが?」という受け止めようがない言葉が口をつく。「ノーカントリー」のベル保安官の無常観と重なる。 「貧困大国アメリカ」あとがきで堤未果さんは「この世界を動かす大資本の力は余りにも大きく、私たちの想像を超えている。」と。そして「無知や無関心は『変えられないのでは』という恐怖心を生み出し、いつしか無力感となって私たちから力を奪う。だが目を伏せて口をつぐんだ時、私たちは初めて負けるのだ。そして大人が自ら舞台をおりた時が、子どもたちにとっての絶望の始まりになる。」と記している。 「ノーカントリー」で父が牛の角に点した火は、父からベル、ベルから次世代へと継がれていくべきものであり、その火がどんな火か、はじめは声なき声かもしれないし、堤さんがあとがきで書いた言葉とも通じるものだろう。 監督: ピート・トラヴィス 製作: ニール・H・モリッツ 製作総指揮: カラム・グリーン/タニア・ランドー/リンウッド・スピンクス 脚本: バリー・L・レヴィ 撮影: アミール・モクリ プロダクションデザイン: ブリジット・ブロシュ 衣装デザイン: ルカ・モスカ 編集: スチュアート・ベアード 音楽: アトリ・オーヴァーソン 出演: デニス・クエイド マシュー・フォックス フォレスト・ウィッテカー サイード・タグマウイ エドゥアルド・ノリエガ エドガー・ラミレス アイェレット・ゾラー シガーニー・ウィーヴァー ウィリアム・ハート ゾーイ・サルダナ ブルース・マッギル ジェームズ・レグロス リチャード・T・ジョーンズ ホルト・マッキャラニー レオナルド・ナム
by mchouette
| 2008-03-21 00:00
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