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BELLE DE JOUR
1967年/フランス/100分 ルイス・ブニュエル監督作品。 フランコ政権下スペインから脱出したブニュエルが、メキシコ時代を経て、1963年以降、晩年フランスで映画製作をした時代の作品。 原作はジョゼフ・ケッセルの同名小説。 第28回ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞。 好きな作品なのだけれど、随分と年数が経つと記憶とは曖昧なもので、いくつかの映像はしっかりと記憶に刻まれているのだけれど、さてエンディングは?となると、どうだったかなとなる。 ドヌーヴ演じる昼顔にゾッコン惚れこむチンピラのマルセルを演じたピエール・クレマンティの、彼が警官で撃たれるシーンとか、その今にもキレそうなエキセントリックな感覚とか、彼の前で見せる妖艶なドヌーヴの笑顔(これは本作のお馴染みの画像)とか……それだけが鮮烈に残っている。 ピエール・クレマンティ。「暗殺の森」でも然り。運転手の帽子をとるとはらりと長い髪の毛が…彼が出てきた途端、どこか危なげで、何が起きるかわからない不安を孕んだ空気が画面に広がる。1942年9月28日、フランス・パリ生まれの彼は本作ではまだ25歳。1999年に癌で亡くなったのは惜しい逸材だ。生きていれば怪演を堪能できたのにと思う。 そしてドヌーヴは1943年生まれだからクレマンティより1歳下で、セブリーヌ役のこの時は24歳。ちなみにアラン・ドロンが「太陽がいっぱい」でトムを演じたのは25歳。 人間の性の欲望を描いた作品と役者の年齢を見て、特に日本の役者の顔と年齢を思い浮かべると、時代とともに、その精神年齢は低下しているんではないかとさえ思う。 「昼顔」ニ話を戻して…… 美しい若妻のセブリーヌは、医師である夫のピエールと共にパリで幸せな生活を送っていた。しかし彼女はセックスに恐怖感を抱いているようで、夫と肌を合わせることなく過ごしているようだ。そんなセブリーヌに対して夫はどこまでも優しく、彼女の中で時が熟するのを見守っている。 冒頭で、馬車にのったセブリーヌと夫ピエールが映し出される。御者が二人。 ある会話がきっかけで、ピエールが豹変し、セブリーヌは御者の二人に馬車から引き摺り下ろされ、森の中を引きずられていく。そして腕を木に縛り上げられ、衣服を剥ぎ取られ鞭で打たれ、そんなセブリーヌをピエールは冷酷な眼で見つめ、「好きにしろ」と御者に言い捨ててその場を後にする…… こんなショッキングな映像で始まるが、これはセブリーヌの夢で、彼女はこうした夢を良く見るようだ。馬車に乗る夢。森の中。縛られるセブリーヌ……セブリーヌの夢想の中でおきるサディスティックな出来事。以降も形を変えてセブリーヌの夢想として登場する。 常に紳士であり聖人のように優しい夫は、彼女の夢想の中では常に冷酷なサディストとして彼女をいたぶる。子供の時に受けた性的な体験も、トラウマであるかのように、現実のセブリーヌの中に中にフラッシュ・バックする。 上流階級の夫人が裏で売春をしている噂を聞き、夫の友人のアンリから彼がかつて通いつめた娼館を聞き、セブリーヌは熱に浮かされたように、その世界に足を踏み入れる。そして夫のいない昼間だけ「昼顔」という名前で娼婦として、何人もの男に身体を委ねては快楽を貪る。 夫を愛する貞淑な妻も、淫らな男たちとの情事で快楽に酔いしれる昼顔も、どちらも同じセブリーヌ。隠れた裏の顔というよりも、非日常的な異常さに疼く欲望というものは、誰しも内面に潜ませている。セブリーヌの場合は、小さい時の体験が引き金となって、自分の内にある現実と、夢想する世界の感覚のズレをより強く意識するようになったのだろう。 そして本作では、セブリーヌの行為は、彼女にとって夫への背徳というよりも、むしろ夫に近づくためのもの、自分の中の相反する二つの距離を近づけさせるものとしても描かれている。「昼顔」で自らの欲望を満たしていったセブリーヌは、夫に「あなたに抱かれたいう気持ちが、だんだん出てきたみたいなの」と夫に嬉しそうに語るシーンがある。 一人の女性がみせる貞淑で清楚な外面と、その内面で疼く欲望が、その境界も曖昧に交錯しながら物語は進んでいく。そしてセブリーヌという一人の女性の不条理ともいえる内面世界を巧みに描き出すブニュエルの演出手腕は、やはり見事。 そして夢想を現実に引き寄せたことから起きる破局へのシナリオ。 夫の友人アンリが「昼顔」のセブリーヌを知り、昼顔への愛に狂ったチンピラのマルセルが、セブリーヌの表の生活を脅かす。 マルセルという男の描写もまた滑稽で哀しい。全て差し歯で前の歯がずらりと銀歯。ステッキをもち細身の革のコートで気取った彼が、靴を脱ぎ昼顔の足を愛撫する、その彼が履いている靴下の踵は穴があいている。男の悪ぶった気障なポーズの下から垣間見える下層階級の素顔。 そして「ピエールには黙っていて。こんなことをしていると今に罰を受けるわ。」自分の秘密の顔を知られたアンリにそう語ったセブリーヌの言葉が現実のものとなった……と思いきや。 悲劇に向かって突き進んでいたシリアスなドラマが一転。 これは現実?どこからが夢想の世界? この毒気を孕んだ笑いのセンス。 ブニュエルのしてやったりというシニカルなセンスは、67歳、老いてさらにその曲者振りは健在というべきだろう。 本作の続編ではないけれど、2006年にはブニュエルが大好きだったマノエル・デ・オリヴェイラ監督が、ブニュエルに捧げる意味もあったのだろう。登場人物たちの38年後という設定で「夜顔」 (Belle toujours)を制作し、第63回ヴェネチア国際映画祭にて上映され、日本でも既に公開されたけれど、私は観ていない。アンリ役はミシェル・ピッコリのままだが、カトリーヌ・ドヌーヴが演じたセブリーヌ役はビュル・オジエが演じた。 監督: ルイス・ブニュエル 製作: ロベール・アキム/レイモン・アキム 原作: ジョセフ・ケッセル 脚本: ジャン=クロード・カリエール/ルイス・ブニュエル 撮影: サッシャ・ヴィエルニ 出演: カトリーヌ・ドヌーヴ(セブリーヌ) ジャン・ソレル (ピエール) ジュヌヴィエーヴ・パージュ (アナイス) ミシェル・ピッコリ (アンリ) フランソワーズ・ファビアン (シャルロット) マーシャ・メリル (ルネ) ピエール・クレマンティ (マルセル) クロード・セルヴァル
by mchouette
| 2008-03-06 00:00
| ■映画
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