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PERSEPOLIS
2007年/フランス/95分 at:シネ・リーブル梅田 イラン映画という括弧で括るんではなくって、一人の少女が、イランとヨーロッパという二つの異なる文化の間で揺れ動き、自らのアイデンティティに目覚めていった、そんな心の成長を描いた作品として捉えたい作品。 そしてマルジャンが、イランという祖国を持ちながらも、その祖国に、自分のいるべき場所がないということの悲劇。そういう現実が世界にあるということ。そんなこともひしひしと伝わってくる作品。 最近、イラン映画で、キアロスタミの助監督を経て監督になったジャファル・パナヒ監督の「オフサイド・ガール」を観た。1979年のイラン革命後、政府による検閲が強化され、特にイラン女性たちに対しては様々な規制がなされ、西洋では当たり前となっている「自由」がいまだにないという状態のイランで、男性のスポーツ観戦すら禁止されているけれど、サッカーが大好きでサッカーが見たいと、ワールドカップ出場をかけたイラン・バーレーン戦のスタジアムに果敢にも男装して乗り込んだ女の子たちを描いた元気なイラン映画。ここでも根底にあるのは、個人の自由を抑え込むイラン社会に対する強い批判精神。 初めてイラン映画に触れたのはアッバス・キアロスタミ監督作品からだったろうか。「友だちのうちはどこ?」(1987)、「オリーブの林をぬけて」(1994)、「桜桃の味」(1997)、「風が吹くまま」(1999)などなど…。みていると、ちょっと切なく、やるせない作品も多い。 本作「ぺルセポリス」も原作者であり監督であるマルジャン・サトラビがフランスに旅立とうと決意したとき、母親が「今のイランにあなたのいるべき場所ではないわ」と言って旅立つ彼女を見送った。そんな彼女の9歳から旅立ちを決意した23歳までの半生を、イラン革命とその後の粛清、そしてイラン・イラク戦争といった激動のイランの歴史と重ね合わせて描いた自伝的な作品。 イランそのものを描いた作品というよりも、マルジャンという一人の自由な気質をもった反骨精神旺盛な少女が、イランと西欧諸国の二つの文化の間で、時には自分を見失い、揺れ動きながらも成長していく、自分探しの旅を描いた作品といえるだろう。 イランで革命が起きた時、マルジャンはまだ9歳だった。革命の意味も分からず人々の「シャーを倒せ」のシュプレヒコールを真似る、カンフーが大好きで、自由な考えの両親の下で伸びやかに育てられた子供だった。 反政府主義者の伯父さんが獄中から解放され、それも束の間、粛清の嵐の中で処刑されるという哀しい事実や、その後に起きたイラン・イラク戦争で家が爆撃にあい、多くの人の死を見たマルジャン。でも、幼いマルジャンには戦争の意味も、どうして人が死ぬのかもよく分からない。ただ、悲しさとショックがあるだけ。 思ったことを素直に口にし、ロックが大好きなマルジャンは、「PUNK IS NOT DED(パンクは死なず)」と書いたジャケットを堂々と着る女の子。革命後の自由がないイラン社会の枠からどうかしたらはみ出してしまう、そんな彼女の将来を危惧した両親は、14歳の彼女をウィーンに留学させる。 留学する時、大好きなマルジャンのおばあさんが「いつも毅然と公明正大でありなさい。ルーツを忘れないで!」といった言葉の意味もよく分からなかった。 マルジャン。自由が溢れるヨーロッパについたマルジャンは一生懸命にヨーロッパに溶け込もうとする。イラン人であることも隠すようになる。 自由と好き勝手をはきちがえ、ヒッピーみたいな暮らしをし、男の子たちと恋をし、少女から大人の女性へと成長していく中で、マルジャンはどんどん自分を見失っていく。気がつけば誰も知らないヨーロッパで、孤独感を噛み締め、生きる意欲も失うまでに陥っていた。再びイランに戻り、イラン・イラク戦争で亡くなった殉教者たちの名前が刻まれた街を歩くマルジャンにとってイランの街も、自分の居場所ではなかった。早すぎた結婚、そして離婚……。 「いつも毅然と公明正大でありなさい。」「ルーツを忘れないで」おばあちゃんの言葉の意味が、ようやく自分の中に刻み込めるようになったマルジャンは、再び、今度は自らの意思でフランスに行くことを決める。 フランス・オルリー空港に着いたマルジャンはタクシーに乗る。 「どこから来たんですか?」と尋ねられたマルジャンは「イランから」と答える。 ウィーンで卑屈になっていたマルジャンはもういない。イラン人であること。この誇りがフランスでの彼女を支える心の要となっていくんだろう。そして、彼女は同名のグラフィック・ノベルを出版し、そして同名の映画である本作を制作した。 タイトルの「ペルセポリス」はギリシャ語で「ベルシャの都市」という意味。 マルジャンのなくなった祖父は、イランのカジャール朝の王家の血を引くコミュニストであり、大好きなおばあちゃんは、良い香りのために毎朝ジャスミンの花を摘んでブラジャーに忍ばせるような、いつのときも女性であること、人間としての誇りと毅然さを持っている、そんな感性の人。マルジャンがこの祖母から受けた精神的な遺産は大きいだろう。 マルジャン・サトラビ(右)と共同監督のヴァンサン・パロノー(左) 自らの、言ってみれば、自分も、自分のまわりも見えなかったそんな傷だらけの青春を振り返って描いた「ペルセポリス」は、マルジャンにとっては、イランの戦いの歴史の中で悲しい過去とも向き合う作業だっただろう。 でも、夢の中で神様の他にカール・マルクスも出てきて、「頑張れ!」などとマルジャンを応援するといったユーモアもみせたり、おばあちゃん譲りの毒舌もあったりと、ちょっと今までのイラン映画とは違うセンスで、アニメ作品だけれど、アニメだという意識はあまりなくって、モノクロのシンプルで、とても素朴さの漂う作風が、実写の生々しい現実感の方に意識がそがれることなく、マルジャンの、イランとヨーロッパの二つの世界を通り抜けた14年間の自分史がストレートに伝わってきた。 監督: マルジャン・サトラピ/ヴァンサン・パロノー 製作: マルク=アントワーヌ・ロベール/ザヴィエ・リゴ 原作: マルジャン・サトラピ 『ペルセポリス』(バジリコ刊) 脚本: マルジャン・サトラピ/ヴァンサン・パロノー 音楽: オリヴィエ・ベルネ 声の出演: キアラ・マストロヤンニ (マルジ) カトリーヌ・ドヌーヴ (マルジの母、タージ) ダニエル・ダリュー (マルジの祖母) サイモン・アブカリアン (マルジの父、エビ) ガブリエル・ロペス (少女時代のマルジ) フランソワ・ジェローム (アヌーシュおじさん)
by mchouette
| 2008-01-22 00:00
| ■映画
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