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来て嬉しい、帰って嬉しのコブつき娘を新大阪まで見送ってほっと一息。さぁ今日から仕事、いつもの日常!と思っていた朝に実家の母から親戚の叔母の訃報の電話。私の時間と思っていた三連休には毎年の私の行事である京都まで初詣の予定が、通夜、告別式から初七日の法要になってしまった。9日にはモーツァルトの「フィガロの結婚」を演奏会形式で3時間強のフルバージョン・コンサートで堪能したものの、新春というのにトキメキ映画もないまま松の内も小正月も過ぎて1月も半ば。そんな中で観てみようかなという気になったのが本作。…で本作「哀しき獣」。私的には原題の「黄海」の方がいいような気がするけれど…。 北朝鮮とロシアに近い中国・延辺朝鮮族自治州でタクシードライバーとして暮らすグナムという一人の男が描かれている。借金帳消しと引き換えにソウルで殺人を請け負うことになったグナム。中国から黄海を渡り韓国に密入国したグナムにはソウルに出稼ぎにいったまま消息の途絶えた妻の行方を探す目的もあった 船倉に押し込められ、途中で黄海に投げ込まれボートに這いずりあがり、そんな風にして決死で中国から黄海をわたって朝鮮半島へ密入国する。世紀のルートを持たぬ者たちが中国に帰るにも黄海をわたるしかない。そこをわたると中国語からハングル文字に。地図をもってハングルの文字を辿るグナムの必死さが哀しいほどに伝わってくる。 「朝鮮族」…作中で頻繁に出てくる言葉。中国と韓国の二つの社会において「朝鮮族」とカッコつきで呼ばれ、作中で頻繁に使われるこの言葉には、どちらの社会からも疎外された存在として差別的、蔑称的なニュアンスが色濃く感じられる。 中国系朝鮮族。 THE YELLOW SEA(黄海)監督は、快楽連続殺人鬼ユ・ヨンチョル事件を題材にした「チェイサー」(2008年)のイ・スンジェ。「チェイサー」での血みどろの描写は目を逸らしながらの鑑賞だったけど、だけどその描写は単にエキサイトな過激というよりも、むしろリアルな現実感がびたっとへばりついた生々しさがあった。邦画の生ぬるいヒューマニズムに辟易気味の私にはこんなリアルな描写に映画のエネルギーさえ感じる。 本作で描かれている朝鮮族自治州、朝鮮半島の寂れた港町、ソウルの繁華街。一歩足を踏み入れるとそこに潜む閉塞感とどうしようもない貧しさとダークな闇が滲み出てくる。 殺しを依頼された人物は、グナムの目前で三人の男たちによって殺されるも、その場に居たグナムは容疑者として警察に追われる身に。一方、ようやく探しあてた妻の部屋と思われる場所は散乱し、何らかの暴力がこの部屋で起きたことを物語っていた。そして中国へ帰る便の乗り場と指定された場所は嘘で、グナムは罠に嵌められたことを知る。 警察に追われながら、自分を嵌めた者の正体を追い求め、男を殺した犯人を追い求め、そして妻の行方を追い求めるグナムの、状況に翻弄されながらも一刻の猶予もない孤独なサバイバルが繰り広げられる。 グナムに殺人の仲介をした朝鮮族のミョン(キム・ユンソク)は金になるならどんな仕事も仲介する闇ブローカー。一人の男の殺人をめぐって、ミョンもソウルにやってきて鉈と金槌を振り回してソウルの裏社会のボスとの壮絶な流血バトルはあまり見たくはないが、この壮絶なバトルは金と生きのびることに対する凄まじいまでの執着を見せつけるものでもあるだろう。 そんな彼らの剥き出しのエゴに対し、グナムの、妻を捜して娘の待つ中国へ帰ろうとする素朴な切実さがラストシーンの黄海の映像と重なって哀しい。 そしてエンドクレジットの後のワンシーンに、グナムの必死な思いはどこにも届かず藻クズとなってしまったのだろうかと思うとなお哀しい。 グナムを演じたのは「チェイサー」で猟奇殺人犯を演じたハ・ジョンウ。闇ブローカーのミョンを演じたのは「チェイサー」でデリバリーヘルスを経営するどこか人情味を感じさせる元刑事を演じたキム・ユンソク。ガラリとキャラクターが変る本作のグナムとミョンを演じた二人の演技力も凄まじい。
by mChouette
| 2012-01-18 00:00
| ■映画
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