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「町山智浩のトラウマ映画館」という番組が、WOWOWで12月12日から4夜連続で放送。
以前彼の同じタイトルの著書を読んで暑い夏の暑気払いさせてもらった私としてはちょっと気になる企画。 見た順に記事アップと思っていたけれど、特集最後のソウル・バスが監督した「フェイズⅣ 戦慄!昆虫パニック」のトラウマ衝撃度には参ってしまった。次に衝撃的だったのが3作目に放映された本作「質屋」。 放映順にトラウマ度もアップするというのもまいってしまうこの特集企画。 THE PAWNBROKERニューヨークの貧民街で質屋を営むソル・ナザーマンは、ポーランドの元大学教授で美しい妻と二人の子供とともに幸せに暮らしていたが、第二次大戦下、ナチスのユダヤ人強制収容所に妻子を殺された過去を持つ。今は人としての情をどこかに置き忘れたかのように、心を閉ざした日々を生きている。 allcinemaなどの映画紹介では<ユダヤ人という理由で妻子を殺された大学教授ソルは、人間不信に陥り、金だけを信じて質屋を営むようになる。従業員や彼を慕う女性の心遣いにも、彼は自分の周囲の壁を崩そうとはしない。だが、一人の女性の死が、彼に人間らしい心を取り戻させる……。孤独な人間が、再び他人との繋がりを得る姿を感動的に描く。>とあるけれど、ちょっと訂正するならば、死ぬのはソルの質屋で働いているヘズスというプエルトリコ出身の青年。 あらすじはgooのあらすじ紹介などで読んでもらうとして… その青年を抱きかかえ、ソルは25年間の封印が決壊したかのごとく泣き叫ぶ(このシーンはサイレント) そして伝票挿しに手のひらを押し当てる。 当時の処刑でもっとも重罰であった磔に処せられたキリストを思わせるようなシーン。 ヘズスは英語表記はJesus。 キャストの名前をも興味深い。 ヘズス(Jesus Ortiz)を死なせてしまったソル(Sol Nazerman) 血が流れる手を抱え街の雑踏の中をふらふらと歩いていくソル……こんなシーンで終る本編。 映画紹介では再び他人との繋がりを見出す再生の物語とか書かれているけれど、このラストはそうじゃないんじゃないかな。そんなハリウッド的再生映画じゃないでしょう。 質屋に寄付を依頼にきた福祉事業家のマリリンに収容所でのことを語るシーンがある。妻が目の前でナチの慰め者になっている。すし詰めで立った押し込められた収容所に向う列車で疲労と睡魔から最愛の息子を落としてしまった。 「私には何も出来なかった」うめくようにそう呟くソル。 しかしソルの心の底では、「何も出来なかった」ではなく「何もしなかった」という自責の念がつきまとっていたのではないだろうか。 愛する者の名を呼んで、収容所の鉄条網を越えようとして銃殺された一人の男の死。その死が彼を怯えさせた。何もしなかった。そしてソルは生き延びた。 妻子を見殺しにし、そして今又ソルを庇ってヘズス(ジーザス)を死なせてしまった。 彼が心を閉ざしたのは、収容所での悲惨な現実以上に、自らに対する罪の意識ではなかっただろうか。そこから眼をそむけ続けていたのではないだろうか。伝票挿しに手のひらを押し付けたのは、自らの罪と向き合ったからではないだろうか。自ら十字架を背負ったのだろう。 ソルの苦しみ、悲劇は今から始まるのだろう。 こんな風に本作を受け止めるのは穿った見方だろうか。 本編終了後の町山氏とゲストである翻訳家の柳下毅一郎とのトークでも語られていたが、ホロコーストをテーマにした映画は1955年のアラン・レネ「夜と霧」を始めヨーロッパでは自らの問題として戦後早くから描かれていたように思うけれど、イアメリカでは本作が最初ではないだろうか。私がホロコーストを題材にしたアメリカ映画を最初に見たのは1982年製作の「ソフィーの選択」だったように記憶している。ハリウッド作品とは一線を画したシドニー・ルメットだからこその作品だろう。作中でヘズスがソルに「どうしてあなたたちは金儲けが上手なんですか?」と質問するシーンがある。 「よかろう。教えてやる!」とソルは堰を切ったようにユダヤの民について話し出す。 紀元700年頃、イスラエルはローマ帝国に反乱したが鎮圧され国を滅ぼされたユダや人は世界中に離散した。各国に難民として流入した彼ら多くの職業から排除され弾圧された二千年間、彼らを支えたのは「神に選ばれた民」という誇りだけだった。そんなユダヤの民について怒りをぶちまけるように話し出す。 「数千年にもわたる長い間、古臭い伝説以外に何も頼れるものはない。 自分の祖国も土地も持てない。だから農業も狩りもできない。 同じ土地に長く住むことも許されないし、自分たちを守る軍隊もない。 あるのは自分の脳みそだけだ。 その脳みそと古代の伝説が、自分は選ばれた民だと励ましてくれる。たとえ貧しくても」 本作でソルを演じたロッド・スタイガーは第14回ベルリン国際映画祭で男優賞を受賞。 「波止場」(1954年)ではマーロン・ブランドの兄、「ドクトル・ジバゴ」(1965年)ではジバゴと恋におちるラーラに執着するコマフスキー役、「夜の大捜査線」(1967年)では偏見に満ちた警察署長と演技の幅が広い役者。 そしてジャン・ヴィゴ作品に撮影監督として参加した新学期・操行ゼロ」(1933年)、「アタラント号」(1934年)。そしてエリア・カザンの「波止場」(1954年)ではアカデミー・撮影賞を受賞したボリス・カウフマンのモノクロ映像がソルの内面を色濃く映し出しクインシー・ジョーンズの音楽がソルの心の振幅を表現するかのように響き渡る。
by mChouette
| 2011-12-21 00:00
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