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LE VIEUX FUSIL
1975年/フランス/101分 監督: ロベール・アンリコ WOWOWではクエンティン・タランティーノ監督の「イングロリアス・バスターズ」の放映で「VIVA!イングロリアス・バスターズ」特集として「タランティーノ編」では彼の作品を、「ルーツ編」ではシネフィルだったタランティーノが影響を受けたであろう作品が放映されていて、本作もその一つ。夫と娘を残し若い男と駆け落ちした妻と離婚したジュリアンは、友人に紹介されたクララ(ロミー・シュナイダー)に一目で恋におち、結婚を申し込んだのは戦争が始まろうとしていた時。 1944年。ドイツ占領下フランスの小都市モントバン。 外科医として働くジュリアンは負傷したレジスタンス活動家たちを匿い、医者の立場からドイツ軍にも抵抗の姿勢をみせる彼は当局からマークされる存在だった。 そんなジュリアンにとってクララとの愛に満ちた家庭で過ごす時間は、何よりもかけがえのない幸福だった。そんなジュリアンの幸福が、ロミー・シュナイダーの美しくこぼれるような笑顔を通して伝わってくる。 ドイツ軍は連合軍上陸に備えゲリラ狩りに躍起になり、家族に危険が及ぶのを怖れたジュリアンは妻クララと娘フロランスを自分達の居城のあるバルベリー村へ疎開させた。戦局は刻々と変り退路を断たれる前にと、ドイツ軍たちは一刻を争うように病院からも撤退していった。 ドイツ占領下のフランスを描いた映画を数多く観てきたけれど、解放目前の緊迫した不穏な空気のたちこめる町の様子がこれほどリアルに描かれた映像は初めて。アンリコ監督の鋭い映像感覚を改めて思う。しかし疎開した妻と娘からは5日経ってもなんの連絡もない。案じたジュリアンは村に向う。村の礼拝堂には村人たちの虐殺死体が転がり、城に向ったジュリアンは、ドイツ軍の一団と、そして庭には頭を撃ちぬかれた娘フロランスの死体、その傍らにクララと思われる黒焦げの焼死体を見た。 ジャン・ルー・ユベール「フランスの友だち」でも1944年8月戦争終結直前のフランスのとある村で、教会に集められた村人達が撤退するドイツ軍によって皆殺しにされた悲劇が描かれていた。ジュリアンの眼には、城を占拠したドイツ兵たちに陵辱されるクララ、逃げ惑う妻と娘の姿、火炎放射器の炎に包まれ一瞬の悲鳴の中で焼死体になったクララの最期が生々しく浮かぶ。 礼拝堂に戻ったジュリアンは怒りと悲しみと絶望をキリストとマリア像にぶつけ叩き割る。 「この手で人を助けているのね。」 作中で母が彼の手を握っていった言葉。人を助けてきたその手に、父が狩猟に使っていた古い散弾銃をもちジュリアンは城に向う。かつては城塞でもあった城で生れ育ったジュリアは城の隅々、地下通路、抜け道まで知りぬいている。断崖に立つバルべり城。村に通じる橋げたを外し、彼らを城に閉じ込めた。 散弾銃を片手に次々とドイツ兵を撃ち殺していく…といったそんなカッコいい絵にはならない。 どちらかと言うと肥満体のジュリアンは顔を真っ赤にして橋げたを外し、地下通路を走り、中庭を駆け上がるころには眼は復讐の冷たい炎に燃えているが息はあがる寸前。だからこそ、美しく幸福だった宝物を奪い去られた男の心情は計り知れないほどの衝撃を彼に与え、彼の中の憎しみと復讐が、一層の現実味を帯びて見るものに伝わってくる。 通路の窓ガラスからドイツ兵たちが傍若無人に飲み食いしている居間を覗くジュリアン。将校がジュリアンの方を振り向きこちらに向かってくる。 見つかった!と一瞬ドキリとさせられたが、マジックミラーで居間から鏡にしか見えない仕掛になっている。鏡を隔てて将校とジュリアンが対峙する緊迫のシーン。 ドイツ兵の目を逃れ、洗面台で顔を洗うジュリアンの前にかかっている鏡に、一人のドイツ兵が近づいてくるのが映る。顔を上げたジュリアンとドイツ兵の顔が鏡に映る。 アンリコ監督は城の仕掛や鏡を巧みに利用してジュリアンの復讐ドラマをサスペンスフルに描く一方で、城のそこかしこがクララに繋がる。クララと共有した時間が走馬灯のように彼の目の前に現れ、彼の復讐劇が深い哀しみのメロディに彩られる。現実と夢想シーンを巧みに絡ませていく演出も上手い。残るは将校一人。 鏡に近づき、将校がじっと見詰めていた鏡が次第に歪んでいく。突然、鏡の中央が大きく口を開き噴出した炎が将校を飲み込む。 このシーンは、 「イングロリアス・バスターズ」ではヒトラーを迎えての映画上映会でドイツのプロパガンダ映像を上映するスクリーンから炎が噴出し、映像を焼き尽くすシーンとして描かれていた。この時の映像の迫力も凄かった。火炎放射器を手にしたジュリアンはナチスによって穢された部屋を焼きつくさんと炎を出し続ける。フランス解放の中、人々が城に駆けつけた時、城は炎で燃え盛り窓から炎が噴出していた。 マット・デイモン主演映画ジェイソン・ボーン・シリーズ2作目「ボーン・スプレマシー」でボーンの代わりに銃弾を浴びて亡くなった恋人マリーの亡骸を水中に沈める別れを告げるシーンが切なかったが、このシーンは「冒険者たち」へのオマージュだろう。本作では、幸福な日々をロミー・シュナイダーの輝くばかりの美しさで描き、その美しいロミー・シュナイダーが火炎放射器の炎で一瞬にして焼失してしまうという衝撃的な映像は、戦争に対するアンリコ監督の憎しみと怒りの表現でもあるだろう。そしてその炎はジュリアンの復讐の炎となって噴出する。 ロベール・アンリコ監督の映像表現の上手さ! 全てが終り、ふと我に返ったジュリアンは「そうだった」と妻と娘の死という現実を 静かに受けめたフィリップ・ノワレが見せる表情が秀逸。 オープニングから続くように、森の中を楽しげに自転車で走り続ける3人の映像が映し出されるエンディング。ジュリアンの中ではクララとフロランスとの幸福な日々が生き続けるのだろう。そして城での出来事は幸福な時間を横切った悪夢なのだろう。 そういえばオープニングのこの映像で、自転車を走らせる3人の前を鶏(鶏冠が見える程度だったが)が横切るシーンがあった。何故?田舎の微笑ましい光景と思っていたけれど、こういう意味が込められていたのかしらとも思う。 ジュリアンを演じたフィリップ・ノワレ。45歳。アンリコ監督の初監督作品「ふくろうの河」はMOREで <フクロウがいる風景~映画の中の梟を探して…>の記事から再掲↓ LA RIVIERE DU HIBOU 1961年/フランス/93分 監督:ロベール・アンリコ 出演:ロジェ・ジャッケ/アン・コネリー 南北戦争時のアラバマを舞台に、一人の兵士の眼からみた戦争、少年の眼からみた戦争、そして絞首刑の男。3部構成で戦争を描いた作品。幻想と追憶を見事に融合させ、モノクロのあくまでも幻想的で静寂ともいえる映像で戦争の悲劇を描いた作品です。最後の編、絞首刑になる男の物語の衝撃的なラストシーンが物議をかもしたとのこと。とても幻想的な幸せな映像から一瞬にして画面が変わり、思わず身体が前に……この衝撃が全てを語っている。森が主な舞台なので梟がどこかにと思ったのですが、一度も出てきませんでした。森の中の生き物達たちのなき声や姿も映像で捉え見事。未見の方は是非観てほしい一作。「冒険者たち」のロベール・アンリコ監督は本作が監督デビュー作でしょうか。 短編賞は絞首刑になる男を描いた編(26分)だと思います。 1962年カンヌ国際映画祭短編部門グランプリ 1963年アカデミー賞短編実写賞を受賞
by mchouette
| 2010-11-14 00:00
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