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1970年/日本/98分
監督: 野村芳太郎松本清張生誕100周年企画としてWOWOWで放映されている松本清張原作の映画。 「天城越え」「砂の器」「鬼畜」など再鑑賞してみて、大人たちをじっと見つめる少年たちの、じっと口を閉じ何も言わない彼らの胸の中でどのような感情が生れ膨らんでいっているのか、続けて鑑賞してみると、子供たちの視線を鋭く描いた作品が多いことに気づく。 「天城越え」では、天城峠で起きた殺人事件。現場近くの小屋で見つかった女性のものと思われるサイズの足跡から、容疑者は峠で男と行きずった娼婦大塚ハナとされるも証拠不十分で釈放されたがハナは刑務所の中で病死する。迷宮入りとなったこの事件に執着する刑事は、足跡はあの時ハナと一緒に天城峠を歩いていた14歳の少年のものではなかったか?という結論に辿りつく。 「しかし、何がこれほどの殺意を少年に抱かせたのか?」少年の動機が刑事にはようとして謎だった。 子どものストレートで無垢な一途さだろうか。 三島由紀夫の「金閣寺」を市川崑監督が映画化した「炎上」でも、父親の死後、母親の情事の現場を目撃した市川雷蔵演じる伍市が、穢れた大人たちから「金閣寺」の純潔を守る為火を放つに至ったその姿と、「天城越え」の少年の姿が重なる。 愛人の6歳になる子どもが自分を殺そうとしたため、思わずその子の首を絞めて殺してしまった浜島幸雄の供述に対し、取り調べの刑事は「相手はたった6歳の頑是無い子どもなんだよ。殺意など持つはずがない。」と幸雄の言い分を、自己防衛で罪を逃れようとする男のでっちあげとばかりにその供述を真っ向から否定する。 男は苦悶で顔を歪ませ、ふりしぼるように叫ぶ。 「殺意はあるんだ! 6歳だった私がそうだったんだ!」 原作は松本清張の短編小説「潜在光景」。 浜島幸雄の家は母子家庭だった。幼い頃いつも一人の男がにこやかな笑顔でやってきて、そうやって我が家に入り込んでくるその男を、子どもだった幸雄は無邪気になつきながらも内心では嫌っていた。ある日、幸雄は男と一緒に釣りに行き、崖で釣りをする男の命綱を鉈でたたき切った。男は岩場で頭を打ち、海に転落し死んだ。 幼い幸雄には確かな殺意があった。 女の子どもがじっと幸雄を見詰める視線に、子供の時の自分の姿が重なり、忌まわしい過去が目の前の子どもの視線と重なる。 本作では幸雄の記憶にある風景を、カラーの分解処理〔多層分解〕による映像で描かれいてる。波のきらめきのようにも、記憶の薄紙が剥がされているようにも感じられるその映像は原作タイトル「潜在光景」からイメージされる不安定な何か、不安感を抱かせる。 「鬼畜」の少年は6歳。そして愛人に生ませたその子を殺そうと旅に連れ出した男が、両親を亡くし奉公に出されたのも6歳。男はその頃の気持ちまでも鮮明に記憶している。 「砂の器」の少年もハンセン氏病を患った父親とともに故郷を捨て巡礼の旅に出たのも6歳。 掴まえていた親の手を離す年齢でもあり、自分の意思を自覚できる年齢であり、子どもの頃の記憶がはっきりと刻印される年齢だからだろうか。 「一番の被害者は何も知らなかった浜島の奥さんだ。」刑事はそういって二人を責めるが、被害者は誰なんだろうか? 被害者はいるのだろうか? 目の前にいる夫を「気が弱くて、おとなしい人」というレッテルで夫を見、彼が何を考え、どう感じているのかさえ知ろうとしなかった妻。 夫に先立たれ頼るものもなく女手一つで保険の勧誘に歩き回る生活。 満たされぬ思いを抱えた男と女が「幼馴染」という甘美な時間を接点に結びついた。 無邪気に眠っているふりをしながら、子どもの笑顔の下で子どもは何を見ているのか。 「いい子ねぇ。」「お利巧だねぇ。」「あなたによくなついているわ。」そんな言葉で子どもを黙らせる大人のエゴが、歪んだ形で子どもにはね返り、殺意を生み出す。 「鬼畜」では、少年の視線に大人たちが次第に追い詰められていく様をじっくりと描かれていた。 本作も含め、松本清張原作の映画作品をこうして特集でみていると、彼は子供というストレートな存在の視線を通して人間の業を詳らかに描いているという印象を強く持つ。 芥川賞作家の力量の強さを思う。 今年も直木賞・芥川賞受賞作品が発表された。
by mchouette
| 2010-01-15 09:10
| ■映画
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