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THE HEIRESS
1949年/アメリカ/115分 監督: ウィリアム・ワイラー 原作はヘンリー・ジェイムズの小説「ワシントン広場」。 1947年にゲッツ夫妻の戯曲によってブロードウェイで舞台化され、その戯曲を映画化したのが本作。 1850年代のニューヨークの高級住宅街に暮らす医師のスロッパーと一人娘のキャスリン。 キャスリンの出産で命を落とした才色兼備だった母親とは大違いで、キャスリンは何をやっても不器用で、社交性がなく家にこもって刺繍ばかりしている内気で、ただただ父親に従順に従う娘だった。 未だに亡き妻を忘れられず、その最愛の妻の命と引き換えに生れたキャスリンの母親とは大違いの出来の悪さに、父親であるスロッパー医師は内心では苦々しく思っていた。 そんな父親の本音など知らず、キャスリンは社交好きな叔母に連れられていったパーティで、ハンサムな青年モリスと出会い、彼からのプロポーズに喜びの絶頂にあった。 しかしそんなキャスリンに父親は、冷たく言い放つ。 「お前のような出来の悪い娘を愛する男などいない。お前に言い寄る男は、お前ではなくお前が相続する財産が目当てだ。財産目当てのモリスと結婚するなら財産は譲らん。」 父親の冷酷な言葉に、25年間父から愛されずにいたことを知ったキャスリン。 それに追い討ちをかけるように、勘当を覚悟で駆け落ちを約束したモリスも約束の時刻になっても現れない。 愛されたいと願った父とモリス。二人の愛に裏切られたキャスリンは、心の扉を頑なに閉ざし、氷のように冷たい女になってしまった。 キャスリンの名を呼ぶ父親の臨終も看取ることなく、5年ぶりにニューヨークに戻ったモリスに対しても、彼の愛を受け入れるそぶりを見せながら、約束の時刻に訪れたモリスに対して玄関の鍵を掛け、そのドアを決して開けることがなかった。 「身分違いのこの家に二度も訪れた男。愛に心を閉ざしてしまった者は、ここまで冷淡になれるものかと、キャサリンのその変貌に驚愕する。 疑うことを知らず天使のような優しさの笑顔をみせていた前半のキャスリン。 愛に頑なに心を閉ざしてしまった後半のキャスリン。 本作でアカデミー主演女優賞を受賞した、主人公キャスリンを演じたオリヴィア・デ・ハヴィランドの演技、内面を映し出す目の表情が素晴らしい。 キャスリンの名前を必死に叫ぶモリスの声をドア越しに聞きながら、燭台を持ち顔色一つ変えず頭をしっかりとあげ、階段をゆっくりと上っていくキャスリン。 かつてその階段は、モリスとの駆け落ちが果たされなかった時、キャスリンにとっては自分をこの家に縛りつける重い足枷のように目の前にそそり立っていた。 父親からの財産を相続し、愛を捨て財産を守って一生この屋敷から出ることのないだろう女相続人キャスリンの人生。 階段を上るキャスリンの、自分を裏切った男への復讐を遂げた勝ち誇ったというには、その表情の奥にはかけがえのないものを捨て去った者の深い悲しみさえ漂っている。そう感じ取るのは同じ女だからだろうか。 「愛されたいの」 そう叫ぶキャスリンの、生れてからずっと心の奥深くでは本当は孤独を抱きしめて生きてきた彼女の、誰よりも愛を求め続けてきた心情が痛いほど伝わってくる。 父親の冷酷な一言が彼女を変えさせた。 しかしキャスリンの父親もまた最愛の妻を亡くし、妻の死と引き換えに生れてきた我が子を愛することができず、愛を失ったまま生きてきた人間といえるだろう。 妻を亡くした悲しみから彼はどれだけ神を呪い、我が子を呪ったかは容易に想像できる。 そして愛を失った土壌からは、新たに芽生えた愛も踏みにじられ枯れてしまうものなのだろう。 愛があるからこそ人を信じることができる。 女相続人キャスリンの悲劇は、父親から資産を相続すると同時に、父親の、その精神的負の遺産までをも相続しなければならなかったということだろう。 ウィリアム・ワイラー監督。
by mchouette
| 2009-11-01 00:00
| ■映画
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